第06話「APOLOGY」
「……宗也、聞こえるか? ドンソクだ」
ピッと言う電子音のあと、急にヘルメットに内蔵されたスピーカーからドンソクの声が聞こえる。
窓を見たが、そこにはジェラルドの姿しか見えないので、操縦席にでも居るのだろう。
「聞こえるよ。そっちはどう? 外部ハッチが閉まらないんだ」
震える声でそう答えると、通信ができたことに安どのため息をついたドンソクは小さく「よし」とつぶやいた。
「どうやら電源が復旧したために電子ロックが働いているらしい。すまないが開閉の方法を調べるまで少し待ってくれ」
「わかった。でも早く頼むよ」
「当たり前だ。わざわざ時間をかけるメリットなど無いだろう」
「いや、船外活動服の活動可能時間が……もう5分切った」
バイザーに表示される4分33秒と言う文字を見つめながら、僕はその場に座り込む。
スピーカーの向こうに嫌な沈黙を感じたまま、僕は浅くなり始めた呼吸をなんとか落ち着かせようと、ゆっくり、深く息を吸った。
「……十分だ。何も心配することは無い。休んでいたまえ」
1分、2分、3分。
無情にも時間は過ぎてゆく。
もうダメなのかもしれない。
そう思い始めた僕の耳に、また小さい電子音が聞こえ、そのあとによく知る女性の声が続いた。
「宗也。聞こえるかしら?」
「やぁヨランダ。よく聞こえるよ」
「もう少し待って。すぐにジェラルドさんたちがハッチを閉めるから」
彼女の声は、少し湿ったように聞こえる。
嗚咽が混じっているのだろうか?
僕はもう、これはいよいよダメなんだろうなと覚悟を決めた。
「うん。待ってるよ。あぁ、ジェラルドさんに高いお酒をごちそうしてもらうのが楽しみだ」
「そうね。私も一緒に行きたいわ」
「もちろん。大歓迎だよ」
「ふふふ……本当……楽しみだわ……」
一瞬の沈黙。
そして、けたたましい電子音。
「……ごめんなさい」
彼女の謝罪の言葉は、残りの船外活動時間が30秒を切ったことを知らせるアラームに紛れた。
同時に、壁にもたれていた背中に振動が響く。
驚いて顔を向けると、さっきまで微動だにしていなかった外部ハッチが、ゆっくりと閉じようとしていた。
「宗也! サブパイロットコンピュータの再起動が出来たぞ! 待っていろ! すぐにも船内へ入れてやる!」
電子音よりもうるさいドンソクの声がヘルメットの中に響く。
じわじわと、まるで僕を焦らすように少しずつ閉じてゆく外部ハッチ。これがロックされてから数分掛けてこの小さな部屋は与圧される。
それが終われば、僕はやっとみんなのところへ戻れるのだ。
ハッチが閉じる前に、バイザーの時間表示は0を指示した。
……「ごめんなさい」か。
そういえば、船外へ出る前にもヨランダは同じことを言っていた。
急速に薄れてゆく意識の中、僕は何となく思い出した「ごめんなさい」のわけを考えていた。
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