役満の典災 ミノリ 〜Minori〜
@kuronekoya
雀荘「大八元」にて
「ロン! メンタンピンリーチ一発ドラドラ。
「ダァーッ! なんで俺から上がるんだよ!?」
デミクァスさんが吠える。
「すみません、まだ序盤なので早く回したいんです。
あ、うるさいので黙らせてもらえますか? てとらさん」
「了解! 宇宙一のアイドルのこのボクに任せてよ♡
召喚!
「さあ、ミノリ! サクサク回す祭りだぜ!!」
私の右隣、デミクァスさんの
さすがは社会人だと思う。
いろいろな意味で。
そして私は対面に座る大地人、いや「役満の
……いったいどうしてこうなった?
私は
ついでに少しのんびりしておいで、とカラシンさんに送り出され、弟のトウヤ、「護衛してやるよ」と直継さん、「直継さんと北の果てへと恋の逃避行〜♡」とてとらさんも観光がてらついてきたので、ちょっとした小旅行気分だったのに。
ひと通り溜まっていた伝票を処理して店の方に目をやると、そこは異様な静けさに包まれていた。
この雀荘「大八元」ではイカサマ行為はできない。
ロデ研謹製「不正監視システム」が、マジックアイテムの使用はもちろん、たとえレベル90の
が、スキルは使えるっぽい。
よくわからないシステムだ。
それでも冒険者と大地人が対等に遊ぶことができるというので開店早々評判になり、繁盛のあまり経理の事務が追いつかなくなって私が派遣されたのがつい昨日のこと。
なのにのんびりとタバコをくゆらすひとりの大地人を除いては、冒険者も大地人もみな魂が抜かれたように呆然としていた。
店の支配人も既に同じ状態になっていた。
(いったいあれは誰?)ステータスを見ると、大地人だったはずのソレは「役満の
あわてて念話でカラシンさんに報告すると、「ちょっと待ってて」と言われて待つこと数分、「シロエさんと相談した。今直継さんにもうひとり連れてそっちに向かってもらっているから、ミノリちゃん、代打ちお願い」と、斜め上のクエストを受注してしまったのだった。
確かに私はこのエルダーテイルに似た世界に囚われた頃とは違う。
成長している実感もある。
マジックバッグだって手に入れた。
シロエさんのえげつない麻雀、ニャン太さんのポーカーフェイス、直継さんの力技にも最近は負けなくなってきた。
たしかに成長している実感はある。
しかし
アカツキさんは気づいているかもしれないけれど。
でもカラシンさんにバレてもいいの?
いや、今はそんな心配よりも、私を信じてこの場を任せてくれたシロエさんの期待に応えられるよう全力を尽くそう。
そして東二局、私が親だ。
ここで、稼ぐ。
ロデ研謹製全自動雀卓から17列の雀牌がせり上がってくる。
私の点棒は39000点。デミクァスさんは15000点。直継さんとナキノリューは27000点。
いや、これは
3巡先の捨て牌まで予測する「
この口伝を身につけた私に死角はないはず。
そう自分に言い聞かせて。
まずは様子見に捨てた
いけない! これで直継さんが「キャッスル・オブ・ストーン」を発動してナキノリューの視線をくぎ付けにすることができなくなった。
東一局だけでデミクァスさんが役に立たないことはわかった。
彼は勢いと感覚だけで打っている。
敵にはいいカモ、味方には地雷だ。
それにしても四索をチー。
哭いたら
まさか役牌や風牌のみでこちらの親を流そうとしている?
だとしたらますます負けられない。
ナキノリューはまさかの
この流れ、3巡先が読みにくくなっている。
そしてデミクァスさんはツモった牌を無造作に捨てた。
ナキノリューはポンを宣言した。
「セナカガススケテルゼ」
その言葉が私の胸に刺さった。
ナキノリューは
わからない。
ナキノリューが何を狙っているのかぜんぜんわからない。
「セナカガススケテルゼ」
「まだまだこれからだ! 捨て牌祭りだぜ!!」
直継さんの言葉に救われた。
「ボクの応援もまだ始まったばかりだよ!」
てとらさんの言葉で背筋が伸びた。
「あきらめたらそこで試合終了ですよ」
トウヤ、それ今関係ない。
デミクァスさんも中を捨てた。
この人、今ツモってないよ?
少牌だよ!?
でもナキノリューは気づいてないようだから放っておこう。
「全部ゴッ倒す!!」
私の「
ツモる、私もダンジョンに咲く花のように。
「きたわ、ぬるりと……」
その時、どこからともなく現れたカナミさんがナキノリューの背後から覗き込んで言った。
「ねえねえ、何なの? この何も書いてない真っ白いのが2枚あるの。
インチキ用?」
ナキノリューはガックリと崩れ落ち、サラサラと灰のようになり、その場にはドロップアイテム「白い点棒」だけが残された。
fin
役満の典災 ミノリ 〜Minori〜 @kuronekoya
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