ロボ太
秋本カナタ
ロボ太
「私はあなた専用のロボットです。何でも話してみてください」
父が僕の遊び相手にと買ってきたソイツは、開口一番そう言った。まだ僕が七歳の時だった。ロボットというものを目にするのが初めてだったこともあり、僕は興味津々で尋ねた。
「君の名前は何?」
「私に名前はありません。私はロボットです。名前など必要ありません」
淡々とソイツは答えた。感情など一切含まれない言い方だった。でも、僕は笑顔でまた言った。
「じゃあ、僕が名前をつけてあげるよ!」
「必要ありません。私はロボットです。名前など必要ありません」
「よし、じゃあ……君の名前は、ロボ太だ!」
その頃の僕は友達が欲しかったのだと思う。だから、ソイツの言うことは無視して名前を与えた。由来はよく覚えていない。
ソイツは、なおも淡々と名前の不必要性を唱えたが、僕はそれを聞き入れずにロボ太と呼び続けた。名前を呼ぶ度に同じ返答をするので会話など成立しなかったが、それでも僕は、返事を返してくれるだけで面白く感じていた。
しかし、流石に同じ返しを一年間繰り返されてはこちらとしても身が持たない。僕はソイツに飽きを感じ始め、次第に話しかけることはなくなっていった。
父も、そんな僕の様子を見て、ソイツの処分を検討し出した。その頃になると、また新たなロボットが発表されたということもあり、ソイツは既に役立たずだと見なされていた。
それから少しして、ソイツは父の友人の家に貰われることとなった。子供に初めてロボットを触れさせたいから、捨てるくらいなら譲ってくれ、と頼まれたらしい。一応父は僕にも確認を取り、僕は頷いた。
父の友人とその子供は、僕の家に直接ソイツを貰いに来た。僕は押し入れに眠っていたソイツを引っ張り出し、その子供に手渡した。子供は目を輝かせて、僕にありがとうと言った。
それからソイツがどうなったのか、僕は知らない。その子供がいつまでソイツと遊んでいたのか、他の誰かに貰われたのか、はたまた捨てられたのかどうかも分からない。
大人になった僕は、教師になった。発達したロボットに囲まれた今となっては、もはやソイツと同型のロボットの影さえ見ない。だが、ロボットは今でも子供のよい遊び相手だ。
今年七歳になった男の子が、初めてロボットを貰ったらしい。彼は嬉しそうに、僕にこう言ってきた。
「先生、ロボ太って知ってる?」
ロボ太 秋本カナタ @tt-gpexor
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