贈り物
彼はお金を持っていない。
持ち合わせがない、ということではなく、とても貧乏なのだ。
彼は大学生だが、地方から出てきたばかりで貯金がなく、アルバイトを四つもかけもちしている。
親からの仕送りを貰いたい所だが、父親は死んでしまい、残された身寄りのない母親に少しでも多くお金を送ってあげたいのだ。
そんな彼のところに、一つの宅配便が届いた。
送り主不明。
おまけに宅配会社もわからない。
ただし自分の家の住所と、ワレモノ注意のシールだけ貼ってある。
「なんだこのダンボウルは。不気味だなあ。」
そう思いながらも彼はガムテエプをはがす。
すると中から、金色に輝く卵形の物体が出てきた。
その表面は川よりもなだらかに、そして滑らかで、触るとツルツルとすべる。
おまけに開け口も見つからない。
不思議がって彼がダンボウルの底を見ると、手紙が1通落ちていた。
「こんにちは。これをあなたのために送りました。欲しいものをこの金の卵に言ってください。さようなら。」
「なんだこれは。」
彼は怪しがりながらも黄金の卵に語りかける。
「今はお腹が空いているなあ。」
彼はもう2日、飯らしい飯を食べれていなかった。
「何か、腹ごしらえができるものを下さい。できれば、水でもなんでも良いので飲み物もお願いします。」
「了解しました。」
ウィンと音がすると、卵の形の物体が真っ二つに割れて、中からシチューとパン、サラダとホットミルクが出てきた。
「腹ごしらえができるものです。」
合成音声がこだまする。
彼は驚きつつ、久しぶりの夕飯を食べた。
「なんだかヒマだなぁ。そうだ。本を何冊か頼めますか?」
「了解しました。」
「ありがとうございます。」
彼はこの素晴らしい機械に、最大限の敬意を払った。
「ごめんなさい。洋服を何枚かお願いします?」
「了解しました。」
「ありがとうございます。」
「テレビをお願いします。」
「了解しました。」
「ありがとうございます。」
そんなやり取りが続いた頃、彼は大金を手にしていた。
機械にお金を出してもらうように頼んだのだ。
「本当に素晴らしい。ありがとうございます。きっとこれは神からの贈り物だ。」
彼は歓声をあげて喜んだ。
その時、玄関のドアが大きな音をたてて開いたかと思うと、彼がやってきた。
「ふざけるんじゃない!僕がこれを送ったのは、若い時の栄養失調で今の僕の余命が短くなるのを防ぐためだ。無駄遣いをするためじゃない!いいかい。何も無いところから物質を作ることなんてできない。不可能だ。」
続けて彼は言う。
「君の食べた料理や、読んだ本、テレビも服も、この馬鹿のような大金だって、未来の僕からの借金なんだぞ!」
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