彼は菜食主義

彼は菜食主義だ。

ニンジンや、ジャガイモ、菜っ葉等しか食べない。

もちろんジュースなんかも飲まない。

飲み物はもっぱら水だ。

ビールも絶対に口にしない。


「どうしてあなたはお肉を食べないの。」

どこかの誰かがたずねると

「食べたくないわけじゃないんだ。ただ、肉を見ると、食べたいという気持ちより動物が可哀想だという気持ちが勝つんだ。」

と答えた。

「じゃあジュースやビールはなぜ飲まないの。」

「だって君、ジュースに入っている角砂糖の数は、すさまじい量だよ。とても飲めたものじゃないさ。ビールはなんだか苦くって、飲みたくないんだ。」



そんな彼はある日、嫁をもらうことになった。

やせ細った彼を心配した両親が、どこかから貰ってきたのだ。

なんでも、彼の体質を改善してくれるらしい。


彼女はあまり綺麗ではないが、洗練された美しい体を持っていた。

「今日から、よろしくお願いします。」

「ああ、よろしく。」

彼は、慎ましく優しい彼女の存在を悪くは思わなかった。

それに彼女は、彼のことを考えて野菜中心の料理を作ってくれたし、自分の目の前で肉を食べたりするようなことは控えてくれた。

彼は彼女に心を許していった。


「今日の晩御飯はステーキです。」

ある日、突拍子もなく彼女がそう言った。

「君、僕は肉が食べられないんだよ。もしかして、頭でもうったかい?」

「心配しなくても大丈夫ですよ。これはあなたも食べることができるお肉ですから。」


恐る恐る彼は目の前のステーキを口に運ぶ。

たしかに、可哀想という気持ちはなかった。

パクリ。

美味しい。食べられる。


「美味しいよ。美味しい。こんなに肉は美味しいものなのか。おかわりはあるか。」

「ええ、まだありますよ。程よく筋肉のついたお肉が。」


「でも、なんでこの肉は食べれるんだろう。君、この肉は何肉だい。牛肉かい。豚肉かい。あ、わかったぞ。鴨肉や、鶏肉だろう。」

「違いますよ、あなた。これは動物の肉じゃないんです。」

「どういうことだい。つまり…。ううん。なんの肉だい。」


彼女は笑顔で答える。


「あなたは動物に対して、可哀想という感情を持っているんです。つまり、自分より立場の低いものに可哀想と同情していたんです。だけど、自分と同じ立場のものには同情できないんです。ほら、同じ会社の同じ給料の人が腹痛で苦しんでいてもなんとも思わないけど、貧しくて可哀想な子供が腹痛だと、同情するでしょう。それと同じメカニズムですよ。」




彼女はスカートを持ち上げる。

彼女の綺麗な太ももは、ぱっくりとえぐれて、ほとんど肉がなかった。

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