監視
最近、彼がものすごく元気だ。
夜になると興奮しだして、私にこう言うのだ。
「キクミ、こっちに来いよ。」
私はもう疲れているから相手はしたくないのだが、彼はどうしても と言って引かない。
「あなた、とっても元気ね。」
「うるさいぞ、キクミ。お前は黙っていればいいのだ。」
私は仕方なく黙り込んで、彼を見つめる。
「なあ、はやくしてくれよ。」
「駄目よ。」
「ちぇ、うるさい女だなあ。」
彼は近くにあった人形を小さく叩く。
「やめてよ、痛いじゃない。」
「うるせえ。俺は今怒ってるんだよ。」
「だからって小突くことないじゃない。」
と、私はマイクにむかって言う。
「なあキクミ、お前はなんで俺なんかを選んだんだ。」
彼は先ほど叩いた人形に優しく言う。
私はガラスごしの彼に笑いかける。
「そんな恥ずかしいことを言わせないで。」
ガラスの向こうの彼はうっとりした目で、人形を抱きしめる。
「さあキクミ、今日はもう寝ようか。」
「ええ、そうね。おやすみなさい。」
私は消灯用のスイッチを押す。
ガラス張りの部屋の中が暗くなる。
「どうだね。」
私に研究員が話しかける。
「やっぱり精神に異常が見れるわね。人形のことをすっかり恋人だと思い込んでいるわ。」
私は彼の行動を伝える。
「それにしても君は天才だよ。普通は監視するだけなのに、わざとマイクで人形の声を演じて、信ぴょう性を持たせているんだからね。」
「いやいや。私はただ、人形を愛する人間の心が知りたいだけなんです。」
私は、眠る彼と人形を見つめる。
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