第四章 最終決戦 五



side『ムウ』


「……『タツヤ』、『ムウ』、……健闘を祈る」

 私達がそれに答えるよりも先に、『ワイルド・ベア』は『主脳』の破壊に向かった。

 今更言葉なんていらない。

 多分そういうことなんだろう。それが『くま』なりのエールだということはしっかりと理解できた。なら、私達はそれに対して行動と結果で答えるべきだろう。 

「行こう、『タツヤ』」

「ああ、行くぜ!」

 力強い声が帰ってきた。

 私と『タツヤ』が目指すのは『スコーピオン』の背中の奥にある『副脳』だ。私の『ドリーム・フェザー』を先頭にして、真っ直ぐに、最短距離でそこを目指した。

「『ムウ』! 『鞭』が!」

「絶対に落とされないでよ」

「分かってる。『ムウ』の方こそ」

「心配御無用」

 たしかに『ドリーム・フェザー』は、尖った性能のストライクギアばかりの私達のチームでは、かなり平凡な、これといった特徴のない、没個性的な機体だ。

 装甲も薄いし、出力もいまいち。機動性が高いといっても『ミラージュF』と同格で、『ウイニング・フェアリー』には劣る。重くて強い武器を装備すると機動性を阻害する上にジェネレーター出力の関係で、その性能を引き出すことが出来なくなってしまう。

 その結果、メインウエポンはマシンガンと振動刀、そしてハンドレールガンのみとなっていた。

「だけど、私にだってあるんだ。一つだけ切り札が!」

 『鞭』による攻撃を左腕に装備したシールドで防御する。

 このシールドこそが『ドリーム・フェザー』最大の切り札だ。表面に塗った対ビーム用コーティングに加え、純粋な硬度であらゆる攻撃を防御する。少々小さいがそれ故に戦闘中に邪魔になることも無く、簡単に扱うことが出来る。反面、小ささ故に防御可能な面積が小さいという欠点があるけど、それを補うのがテクニックというものだ。

「ついてきて」

 シールドを正面に構え、一気に加速し前進する。

 それを迎撃しようと『スコーピオン』の攻撃が四方八方から襲いかかってきた。

 後ろにいる『ミラージュF』を操作している『タツヤ』の操縦技術については素直に認めるので、あまり心配はしていない。そんなことよりも自分の操作に集中する方が重要だ。

 ビームの『鞭』と無数の『弾丸』を、出来る限り最小限の動きで回避する。正面にはシールドを構えているから、直撃で撃破されることはまず無い。機体の全身を無数の攻撃がかするが、そんなことは気にしない。

「撃破されなければ、たどり着けさえすれば!」

 細かい挙動の操作や、攻撃の読みの正確さなら、私だってトップクラスの実力者の筈だ。出来ないはずがない。

 紙一重で避けたはずの攻撃が、肩装甲の一部を、脚部の一部を、翼の一部を、破壊したが気にとめる必要はない。その程度なら、運動性能を阻害することはない。動けるならノーダメージと同じだ。

「よし」

 弾幕と斬撃を切り抜け『スコーピオン』の背中への着地に成功した。

 間違いない。

 この分厚い装甲の先に、『副脳』が存在する。

「貫け!」 

 私は叫び、『スコーピオン』の装甲へとシールドの側面を突き立てた。それと同時にトリガーボタンを押す。

「インパクトスパイク、起動」

 炸裂音と金属の衝突音が、鋭く、暴力的にヘッドセット越しに響いた。

 インパクトスパイク。

 鋼鉄のスパイクの後部から弾丸を射出するための炸薬によって衝撃を与え、スパイクの触れていた物体を破壊する、削岩機を応用したような原始的な装備。

 『ドリーム・フェザー』のシールドの中にはそれが仕込まれている。

 一撃の威力が低い装備ばかりの『ドリーム・フェザー』の弱点を補い、ジェネレーター出力の低さを問題にしない、近接戦闘最強装備の一角。

 だからこその切り札。

 でも、この感触は。

「さすがに堅いか」

 未だ装甲を貫通することは出来ていない。さすがに、そこまでは甘くないか。

「『ムウ』、そっちに攻撃が!」

 『タツヤ』に言われるまでもなく、鳴り響く接近警報のおかげでそんなことは分かっていた。

 だけど、例えそうだったとしても私の答えは一つ、最初から決まっていた。

「私はいいから、全力で避けて!」

 

×××


 そういえば、前にも竜也に言ったっけ。

 私は昔から、人と話すのが苦手だってこと。

 だって、相手が何を考えているのか、まるでわからないんだもの。

 自分のことを相手の立場に置き換えれば、ある程度わかりそうな筈だけど、どうやら私の思考と世間一般のそれの間には圧倒的な齟齬があるらしく、どうしても上手くいかなかった。

 だから怖かった。

 そのせいで誰かを傷つけるのが。

 そのせいで自分が傷つくのが。

 だけど『ギャラクシー・フロンティア』をやり始めて、チームのみんなと一緒にいろいろやって、竜也と話して、上手く言えないけどすごく楽しかった。

 今だってすごく楽しい。

 そうだ。

 だから、そんな私達の世界を、こんなヤツに壊させやしない!


×××


 『スコーピオン』の『鞭』が振るわれ、『ドリーム・フェザー』の翼を切り落とした。

「それがどうした!」

 かまうことなくインパクトスパイクのトリガーボタンを再び押す。

 まだ『ドリーム・フェザー』は撃破されていない。

 その程度じゃダメージのうちには入らない。

 『タツヤ』の『ミラージュF』は撃破されていないし、インパクトスパイクの炸薬は未だ残っている。

「貫け、貫け、貫け!」

 何度も叫び、トリガーボタンを夢中のまま連打する。

 炸薬は連発され、攻撃は継続される。

 装填されているのは合計十二発の炸薬。その全てを使い切ったと同時に、『スコーピオン』の『鞭』によって全身を切り裂かれた『ドリーム・フェザー』はその機能をついに停止した。

 多分ボロボロになって、地面へと落下したんだろう。

 塗装とか結構工夫して、かなり気に入ってたのに。

 だけど、今は不思議と落胆よりも、自分がやり遂げたという達成感と満足感のほうが大きかった。

「後は任せたよ、『タツヤ』」

 インパクトスパイクが『スコーピオン』の『副脳』を守る最後の装甲へと到達していたことは、確かに確認できた。


side『タツヤ』


 昔からゲームをするのが好きだった。マンガを読むのが好きだった。アニメを見るのが好きだった。

 自分もいつかは、そこに出てくるような『何か』になれると、無条件に信じていた。だけど、心のどこかで分かっていた。

 そんなことはあり得ない。

 だけど、今のこの状況はどうだ? まるで世界を救うヒーローじゃないか。

 『こめっと』の『マジカルこめっと』も、『くま』の『ワイルド・ベア』も、『ヒメ』の『ウイニング・フェアリー』も、『スコーピオン』に全て撃破されてしまった。そして今また、『ムウ』の『ドリーム・フェザー』も。

 皆、無茶な作戦だということを承知の上で、それぞれの役割を果たした。

 残されたのは俺一人。

 残されたのは『ミラージュF』一機。

 まだ役割を果たしていないのは、未だやるべきことが残っているのは、最後の総仕上げをやるのは、俺達だけだ。


×××


 『くま』と『ヒメ』のコンビが『主脳』の破壊に成功していることは通信で確認出来ていた。その影響だろうか。『スコーピオン』の『鞭』の動きが、若干ではあるが鈍くなっていた。

 しかし、例えそうだったとしても、今の『ムウ』いは『スコーピオン』の攻撃を避ける余裕も、避ける意志も無かったのだろう。

 俺のディスプレイ上に映し出される『ドリーム・フェザー』は、『スコーピオン』の『鞭』による攻撃を全身に受け、ボロボロになって地上へと落下していった。

 だけど、『ムウ』は確かに役目を果たした。

 『ムウ』が、『ドリーム・フェザー』が撃破されるその瞬間まで、インパクトスパイクによって攻撃を続行したその先には、確かに穴が穿たれていた。

 その先に見えるもの、あれが、『スコーピオン』を司る『副脳』か。

「そこか!」

 装備していたマルチバレットマシンガンからビームバヨネットを発生させつつ、最速の一直線で『副脳』へと接近する。

 予想通り、『スコーピオン』の『鞭』による縦横無尽の攻撃が迫ってきた。

「そんな攻撃で!」

 紙一重で回避したはずの攻撃が、即座に軌道を変えて装甲を切り裂く。回避しきれない攻撃をビームバヨネットで弾きながら進むがそれが何度も通じるはずもなかった。

 瞬く間に右腕が切り落とされ、装備ごと消失した。

 翼の一部を切り落とされ、安定性が失われた。

 攻撃が頭部を直撃し、ディスプレイ上の表示が半分以上砂嵐になった。

 満身創痍。

 機能停止寸前。

「それでも!」

 ついには『副脳』の目の前へと到達した。

 後は一撃。

 『副脳』を確実に破壊できる一撃さえあれば俺たちの勝ちだ。

 そして、俺の『ミラージュF』にはそれが存在する。

 その切り札を、俺は一切の迷い無く起動させた。

「前面部装甲強制排除。ジェネレーター直結拡散ビーム砲、起動!」

 以前、フラッグ争奪イベントで遭遇した敵機の装備を、何故俺が的確に予想できたのか? 答えは至ってシンプルで、俺の『ミラージュF』にも同様の装備が内蔵されていたからだ。

 確かに、ほぼ使いどころのないロマン装備だ。

 『ミラージュF』の元ネタとも言うべき機体、かつての戦争時代に造られたという伝説のストライクギア『ミラージュ』にも同様の装備が搭載されていたそうだが、これほど使い勝手の悪いものではなかっただろう。現代であってもそれを再現できない程度にはロストテクノロジーなのだ。

 ともかく、使うためには機体の前面部装甲を強制排除する必要があり、バレルの短さ故に粒子の収束率が低くて射程が短く、一発撃つだけで機体が動かなくなるほどにエネルギーを馬鹿喰いするこの装備にも、極めて限定的な状況下であれば使いどころは存在する。

 例えば、相手の明確な弱点が目の前にあって、用心のために高威力の攻撃が必要で、撃った後のことを気にしなくていいような、そう、今みたいな状況だ。

 帯電粒子の収束率の低さも、対ビーム装甲による湾曲も、この距離なら関係ない。

「発射!」

 叫び、トリガーボタンを押す。

 その直前に、サブカメラに映し出されていた光景は、『スコーピオン』が『尻尾』のビーム砲を上空へと向けて放つ姿だった。

「残念。少し遅かったみたいだな」

 『スコーピオン』の放ったビームは即座に歪曲し分裂。それは、まるで天より降り注ぐ光の槍のようになり、その無数の光は、真っ直ぐに『ミラージュF』を目指していた。接近警報が鳴り響き、機体の損害状況がめまぐるしく更新されていく。

 だが、俺の『ミラージュF』が放った攻撃は、確実に『スコーピオン』の『副脳』を粉砕していた。

「俺たちの、勝利だ!」

 

×××


 ストライクフォートレス『スコーピオン』。

 かつての戦争時代に造られた兵器。

 現代に蘇った亡霊。

 人を殺すために造られたモノ。

 ストライクギア『ミラージュF』。

 かつての戦争時代に造られた兵器の模造品。

 現代に蘇った亡霊。

 娯楽のために造られたモノ。

 百年近くの時を経て行われた決戦は、娯楽のために生み出されたモノの勝利という、平和な時代を象徴するかのような幕引きとなった。

 だが……。 


×××

 

「俺たち、やったんだよな」

「うん。勝てた」

「……しかし、強敵だった」

「だけど、やれたんだよ、私達。

 生きているサブカメラで周囲の様子を確認する。

「これは、ずいぶんと酷いことになってるな」

 高熱で焼かれガラス状になった大地。

 飛び散っている無数のから薬莢。

 破壊され、変形した地形。

 誰のか分からなくなっている物もある、損壊し、脱落したいくつものパーツ。 

 大ダメージを受け、立ち上がることすら出来なくなっている味方機。

 そして……。

「これを、ボク達が撃破した、か。こんな言い方は失礼かもしれないけど、本当に出来るとは思わなかったよ」

 そう。

 『主脳』と『副脳』を破壊され、その機能を完全に停止した、『スコーピオン』の巨体が、そこにはあった。

「……だが、わずかでも勝算があると考えた。だからこそ挑んだ。……そうじゃないのか?」

「そうだね、確かにその通りだ。そして、ボク一人では絶対に無理だった」

「……誰がお前を一人で戦わせる物か。……俺たちはチームだ。そうだろ?」

「ああ、そうだ。その通りだよ」

「ちょっとリーダー、『くま』。さっきから男二人で何をイチャイチャしているのさ」

「ボクに嫉妬かい? 『ヒメ』」

「誰があんたなんかに。……ありがとうね、色々と。結構楽しかったよ」

「楽しかった?」

 『こめっと』は聞き返した。

 確かに、あの戦闘の後ですぐに『楽しかった』という感想が出てくるのはすごいことだと思う。だけど。

「……ああ、楽しかった。……本気以上の戦いが出来たんだ。今まで自分の考えてきた戦術の正しさを、『ワイルド・ベア』の強さを証明できたんだ。……楽しかったに決まっているさ」

「私も楽しかった。こんなのと戦うなんてこと、多分『こめっと』が権利を当てなかったら絶対に出来なかった」

 そうだ。

 理不尽な強敵との戦い。

 誰よりも頼れる仲間との共闘。

 その果てに、紙一重でつかみ取った勝利。

「俺も、すごく楽しかったです」

 このスリル、この高揚感、そして、この達成感。

 楽しくないはずがなかった。

 俺は今初めて『何か』を成し得たと、はっきり実感できていた。

 俺たちは、このゲームを、そして世界を救ったんだ。

「そうか。そうだね、ありがとう。みんな、最高のチームだ」

 画面の先のみんなの顔は想像するしかない。

 だけど、どんな表情を浮かべているのかは鮮明に想像できた。

 きっと誰もが、満面の、最高の笑みを浮かべている筈だ。

 ディスプレイ上に反射する俺が、まさにそうなのだから。 

「でも、この後どうするんだ? 機体は動かせねーし、拠点申請はまだしてないし」

 ついでに言うなら、機体の修理費でかなり持って行かれるので当分の間は何も出来ないだろう。完全にスタートダッシュに失敗する形になってしまいそうだ。

「ボクの方で運営側に回収を依頼しておくよ。これだけ大規模な戦闘があったんだ、いくら運営側でもある程度の状況を把握しているはずだよ」

「資金に関しては、『スコーピオン』をマニアに売りつければかなりの値が付きそうだから、多分大丈夫」

 確かに『スペース・フロンティア』には、発見された戦争時代の兵器を収集しているマニアもいる。彼等なら、全財産をはたいてでも『スコーピオン』の残骸を買い取るだろう。

「ねえ、みんな。ちょっといい?」

「どうしたの? 『ヒメ』」

「さっきから変な反応があって。これ、私の思い違いなら良いんだけど」

 『ヒメ』のその発言は、余りにも不穏だった。

 ……まさか。

 いや、そんなことが本当にあり得るのか?

 出来れば、何かの間違いであってほしい。

「……接近する振動と熱源。……これは、『ワイルド・ベア』の索敵システムが故障しているからか?」

「ボクも同じようなモノを捉えているけど、まさか、そんなはずは」

「いや、どうやら本当みたい。光学センサーの情報、表示するよ」

 ディスプレイ上に表示された、『ドリーム・フェザー』の光学センサーからの光景に、俺たちは言葉を失った。

 ……嘘だろ?

 こんなことが有り得るのか?

 何かの悪い冗談何じゃないのか?

「ボクだって、こんな現実は認めたくない。想定外どころの騒ぎじゃないよ、これは」

 表示されていたのは、おそらくストライクフォートレスに分類される兵器だろう。

 『スコーピオン』とは異なる形状の、それに勝るとも劣らない巨体の兵器。

 一機や二機ではない。

 無数の、異形の、巨大兵器達。

 それらが『群れ』となって、真っ直ぐにこちらを目指していた。

 『ヒメ』が悲鳴にも似た声を上げる。

「ちょっと! こんなの、どうしろっていうのよ!?」

「……どうするも何も、俺たちの機体は、まともに歩くことすら出来ないんだぞ」

 無数のストライクフォートレスによって形成された『群れ』。

 悪夢の他の何物でもなかった。いや、そう言ってしまいたいところだが、生憎のところこれは現実だ。

 『ムウ』は静かに言った。

「例え私達が万全だったとしても、あの数を相手にすることは、無理ね」

 彼女は無理と断言したが、それは的確かつ客観的な、正しい発言だった。

 そのことは、『スコーピオン』一機を行動不能にするために俺たちがどれほど苦労したかという、余りにもわかりやすい体験に基づく発言だった。

「ってことは、あいつ等が目指しているのも、この先のマスドライバーってことかよ!?」

「……だろうな。……あの『群れ』も、恐らくは地球降下が目的だろう」

 もしあれが地球に降下したら。

 そんなこと、考えたくもない。

 ついさっき俺たちの撃破した『スコーピオン』と同等の性能のストライクフォートレスが、大量に地球へと降下する。そんなことを許してしまえば、一体どれほどの惨事が起こる? 例えばもし、今俺たちのいる町へとあいつ等が降下してきたら、一体何が起こる?

 ダメだ。

 それは絶対にダメだ。

 何が何でも阻止しなきゃいけない。

 でも、一体どうやって?

 今の俺たちに、一体何が出来る?

「マズい! あいつ等、こっちに撃ってくるつもりだ!」

 警報が鳴り響く。

 絶望的なこの状況は、俺の『ミラージュF』の半壊した光学センサーからも確認できた。

 もう、何もかも終わりだって言うのか?

「ミサイルの接近警報? しかも、後方から!?」

 何が起こったのか、理解するのには時間が必要だった。

 だが、ストライクフォートレスの『群れ』と対峙する方向から放たれた無数のミサイルが命中したことによって体勢が崩され、結果としてストライクフォートレスのビーム砲は、俺たちから逸れたということだけは分かった。

「ん? これは、ゲーム内のテキストメッセージ? 俺たちのチーム宛に」


〈謎の巨大兵器が現れたという噂を聞きつけ、来てみればとんでもないことになっていた。あれを君たちのチームが倒すところは見させてもらった。健闘を称える。私達はこれから、あの『群れ』に戦いを挑む〉


 そういった内容の物が、一つや二つじゃない。いくつも、数え切れないほどに送られてきていた。

「『こめっと』、これって」

「想像もしていなかったよ、まさかこんなことになるなんて。会話の場所をゲーム内のオープンスペースに移す。いちいちパスを教えるのも面倒だ」

「……了解した」

「オッケー、分かったわ。みんなには私と『ムウ』ちゃんで伝えるわ。協力してくれる?」

「協力する」

 ……なんてことだ。

 未だかつて、こんなことがあっただろうか。

 ストライクフォートレスの『群れ』へと対峙するようにして、次々いくつものストライクギアが現れた。その中にはランキング上位の、最強と呼ばれているような機体すらいた。そういえば、新惑星の先行開拓権は抽選の他にも、ランキング上位の報酬になっていたんだっけ。

「す、すげえ」

 オープンスペースにつないだ瞬間、俺は圧倒された。

 「早く予備パーツもってこい! 最低限足と頭だ!」〈ビームが全然効かない〉〈第二射来る〉「回避しろ、回避! あんなの防御の上からでも落とされるぞ」「あれに当たったらひとたまりもないぞ!」「スモークとフレア、チャフを全力でまけ! どうにかしてやり過ごすんだ!」「おい、勝手につっこむなよ。無策のままじゃ簡単に落とされるぞ!」〈増援到着〉「換装早くしろ!」

 鳴り響く怒号と、あっという間に流れていくテキストチャット。

 こんな物を見るのは初めてだった。

 数機の見知らぬストライクギアが俺達のストライクギアに近づき、最低限動けるだけの応急修理をしてくれた。

「あ、ありがとう。一体この状況は」

 見知らぬストライクギアの操縦者達が答える。

「噂を聞きつけてね。巨大兵器との戦闘が発生しているって話で。最初は歓迎用のイベントだと思ったんだけど、どうも様子がおかしいらしい」

「それで来てみれば、ずいぶんと大変なことになっていて、おまけに、どこに隠れていたのかあんなに大量に沸いてくるし」

「あんたは戦ったんだろ? あいつ等は一体何物なんだ?」

 ああ、なるほど。状況が何となく把握できた。

 しかし、とんでもない物好きがこんなにも沢山いたなんて。大方、未知の強敵が現れたという情報をどこからか聞いて、居ても立ってもいられなくなったんだろう。まあ、『スコーピオン』との戦いを楽しんでいた俺に、とやかく言えたことではないけど。

 ともかく、俺たちは答えることにした。

 俺たちが戦い、そして撃破した敵、ストライクフォートレス『スコーピオン』について。その正体と目的、特徴、性質、そして弱点について、知っている限りのことを答えた。応急修理を受けて動けるようになった機体で『群れ』からの攻撃を避けつつ、話せる限りのことを話した。

 俺たちが一通り話し終わったところで、リーダー格の男が言った。

「なるほど。つまり、ストライクフォートレスの『群れ』はマスドライバーを使って地球に降下しようとしており、なんとしてもそれを阻止する必要がある、と」

「そういうことなんだよ。みんなには、あいつ等を止める手助けをしてほしいんだ。軍隊が介入するにしても、明らかに時間が足りない。無茶な頼みなのは承知の上だ」

「状況は理解した。……お前たちはどうしたい?」

 リーダー格の男の言葉に対し、みんなが口々に答えた。


 戦いたい、と。


 それを受け、リーダー格の男は満足そうに、力強く宣言した。

「これより我々新惑星先行開拓組連合は、チーム『シューティングスター』の指揮下に入り、ストライクフォートレスに対する迎撃作戦を開始する。たった一機でも地球降下を許した時点で我々の敗北。勝利条件はただ一つ、全ストライクフォートレスの殲滅だ。ミッション、スタート!」

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