第三章 ストライクフォートレス 三
三
「ちっ、どういうことだよ、これは!?」
俺たちは、とりあえず後退することにした。
応戦するにしろ、運営に報告するにしろ、地下のあの閉鎖空間では俺たちの不利は確実だった。
「……運営側が用意した歓迎用のサプライズイベント、……なんてことはなさそうだな」
「無いと思うわ、こうまでしっかり埋まってたわけだし」
突如として現れた『ソレ』は明らかに臨戦体勢へと入っていた。そして、警報が鳴るよりも早く『ムウ』が叫んだ。
「ビーム来る。避けて!」
直後、背後から閃光が掠めて行った。威力こそ高そうだが、どうやら狙いはあまり正確じゃないみたいだ。
「よし、地上に出られた。まずは、いったん距離をとって体制を立て直すんだ」
散策中に突然開いたその大穴から俺たちは距離をとりつつ、しかし警戒を続けた。多分あの六本足で登ってきているんだろう。巨大な熱源は、地下から接近してきていた。
『ムウ』が言った。
「そういえば、『こめっと』が言ってたよね、たしか、『ストライクフォートレス』って。それがあいつの名前なの?」
「名前と言うよりは種類、かな。ボク達が動かしているコイツ等が『ストライクギア』なのに対して、それよりも遙かに巨大で強力な機動兵器。その総称だよ」
「……確かに聞いたことはある。だが、……実戦での記録など、もはやとし伝説レベルだ」
そう、『くま』の言うとおりだ。
あの大戦争時代に膠着状態に陥った戦況を打開するために用意された一つの回答。ストライクギアの発展型であるストライクフォートレス。
フォートレス(要塞)という名が示すように、その特徴の一つはその巨大さにある。圧倒的な装甲に守られた巨体と、単騎で一騎当千の戦いを行うための絶対的な攻撃能力。そうした兵器が各陣営によってもてる技術の粋を集め、極秘の内に建造されていた。とはいっても、その当時の種別としての『ストライクフォートレス』という単語が存在したわけではなく、同じ時代に作り出された同じような目的の兵器の総称として、後の時代に付けられた名前だ。
『ヒメ』が、どこか祈るような口調で言った。
「何かの間違い、ってことは無いわよね?」
それに対して『くま』は冷静に応じる。
「……それなら確かに気楽だ。だが」
まるで、地震のように地面が揺れる。ヤツは確実に近づいてきていた。
『こめっと』は言う。
「答えはボク達の目の前にあるよ。これは誰にも想定できなかった非常事態で、あのストライクフォートレスはボク達の敵だ」
『こめっと』のそんな言葉と同時に、地下に眠っていたそのストライクフォートレスは、巻き上がる土煙と共に地上へと姿を現した。
『ムウ』が呟く。
「デカい」
その一言は、あまりにも大ざっぱでありながら、的確な一言だった。
ストライクフォートレスという呼び名は伊達ではない。まさに要塞そのものといったような、分厚い装甲に包まれ、幾つもの砲門を備えた巨体。そして、その巨体を支える六本の足。あまりにも凶悪な二本のハサミと複眼のような複合センサーを備えた頭部。一目で高い攻撃能力を有すると分かる尻尾のように延びた巨大な砲身。
その威容の全貌が、今、俺たちの前へとついに晒された。
思わず圧倒され、まるで金縛りにでも掛かったように俺たちが動けずにいる中、『ヒメ』が言った。
「あそこ、何か書いてある。scorpion……スコーピオン、かな」
その言葉を受けた『こめっと』が、静かに、そして力強い口調で言った。
「『スコーピオン』。それがあのストライクフォートレスの個体識別名称だ。あれをボク達の敵であると判断し、これより排除行動を行う。良いかな? みんな」
あんな物が野放しになっていては、ゲームどころではない。『スコーピオン』を排除するということは、『スペース・フロンティア』というゲームを守るということでもある。ならば、皆、答えは決まっていた。
「……異議無しだ」
「異議無しね」
「異議無し」
俺の答えも、もちろん決まっていた。
「ああ、異議無しだ」
そんな俺たちの答えを受けた『こめっと』は、少し嬉しそうな声で言った。
「みんな、ありがとう。さあ、存分にやろうじゃないか!」
×××
戦端を切ったのは、『スコーピオン』の口から放たれたビーム砲による砲撃だった。それを避け、俺の『ミラージュF』と『ムウ』の『ドリーム・フェザー』は射撃を行いながら接近を試みた。『くま』の『ワイルド・ベア』は低空で突進し距離を詰め、『こめっと』の『マジカルこめっと』は砲撃準備を行いながら後退し、『ヒメ』の『ウイニング・フェアリー』が、その直援についた。
攻撃開始直後、『ムウ』が叫んだ。
「『タツヤ』気をつけて、ビームの威力がとんでもなく高い! コーティングはアテにならない」
「だろうな。それにこの装甲」
俺はマルチバレットライフルをビームモードで撃ってみたが、全く効果がなかった。
続いて『ヒメ』と『くま』が言った。
「距離が離れてるのもあるけど、私のスナイパーレールガンでもダメみたい。あの装甲、やっぱりとんでもない堅さよ」
「……対ビームコーティング用なら、二発目で抜けないか?」
そう言いながら接近を試みる『ワイルド・ベア』自身がビームの攻撃に苦戦しなかなか距離を詰められないことからも、奇妙な説得力のある言葉だった。
しかし、それに対して『ムウ』は冷静に『スコーピオン』のことを観察しながら言った。
「コーティングじゃなくて、装甲の構造そのものが対ビームに特化した使用になってるんじゃないかな。廃熱機構と磁力による反射の組み合わせのせいで、生半可なビーム兵器じゃダメージが与えられない」
『ムウ』の知らせを受けた『こめっと』は言った。
「それは、ボクにとっては不幸な知らせかな。とは言え、無敵の防御能力ってわけじゃない。付け入る隙は必ずあるはずだよ」
その言葉には、少しだけ焦りのような物があった。
『マジカルこめっと』はビームによる射撃攻撃に特化した機体だ。『スコーピオン』との相性は最悪と言っていいだろう。
「近接戦闘が出来ればどうにかなりそうだろうけど、コイツ!」
『スコーピオン』へと接近するのは容易なことではなかった。
背中に備え付けられた幾つもの対空砲によるビームの弾幕のせいで接近を阻まれていたのだ。この迎撃砲ですら、対ビーム用コーティングをアテに出来ないほどの威力があった。
遠距離から『ヒメ』はスナイパーレールガンによる精密射撃を行っていた。関節やセンサーなどの、構造上装甲に覆われていないはずの弱い部分を、性格に狙撃していた。しかし。
「どうして全然効いてくれないのよ!? そもそも、対ビーム用に特化した装甲は、通常弾に対しては弱いはずなのに! それにアイツ、可動式の複合装甲で装甲の隙間を埋めている」
「……それでも、実弾兵器や誘導兵器がないなら、まだ何とかならないか?」
『くま』のそんな発言に対し、地上で回避動作をとりながらバレルを展開して砲撃準備を行っていた『こめっと』が応じた。
「ミサイルや実弾装備に関しては、ビーム兵器よりも携行弾数が少なくなるという理由で装備されていないはずだよ。もしあったとしても、こんな大昔から眠っていた弾が使えるとは思えない」
そういえば、昔何かの本で読んだ気がする。大戦争当時は、いわゆる無人兵器の開発技術だ爆発的に発達した時期なのだそうだ。
考えてみれば、あのストライクフォートレス『スコーピオン』は、いったい誰が動かしているのだろうか? という疑問が浮上する。
人間が乗っているはずもない。
そんなオカルトチックな現象を度外視すれば、俺たちが地下に降りたときに何らかの原因でシステムが再起動し、それによってプログラムに従って俺たちを襲い始めたということになる。
「!? 何か出てきたぞ。ミサイルか!?」
スコーピオンの背面部の装甲の一部が、まるで甲虫の羽のように開き、その中からまるでミサイルのような『何か』が飛び出してきた。
いや、ミサイルはあり得ない。それは自分でも分かっている。コイツは多分、それ以上にやっかいな装備だ。
『ムウ』が冷静に呟く。
「有線遠隔操作の小型ビーム砲と、同じく有線遠隔操作のビームリフレクター。これはちょっとまずいかな」
そう言い終わるよりも先に、『スコーピオン』の攻撃は始まった。
飛び出した幾つもの小型ビーム砲からはビームの光が雨のように降り注ぐ。それらは確かに威力が低く、たいした脅威にもならないが、同時に飛び出したビームリフレクターがそれらを反射し、いや、それだけではなく、自身の主砲や俺たちのビームによる攻撃までも歪曲させ始めた。
「畜生、完全にこっちのビームは封殺かよ! 『ムウ』、ワイヤーを切れるか?」
「出来るならとっくにやってるわ。回避で精一杯。シールドを装備してたおかげで今のところは致命傷を避けられてるけど、そう言う『タツヤ』だって近接装備があるでしょ」
「自分で出来るなら訊いたりしねーっつーの!」
まさに万事休すだった。
距離が離れれば背中に装備された主砲と機銃で、近づいて懐に入ろうとすれば有線遠隔操作されたビーム砲とビームリフレクターによる攻撃で応戦。その上、有線のビームとリフレクターで自滅させようにも、そもそもビームが全く効かない装甲だから、自滅を恐れずに平然と撃ってくる。また、有線操作のビーム砲とビームリフレクターの攻撃があまりにも複雑な軌道を描くせいで、回避すらろくに出来ないのだ。幸いなことに有線操作のビーム砲の威力はたいしたものではないので、機体に塗られた対ビーム用コーティングと装甲そのものの厚さでしのげているが、それもいつまで保つかは分からない。
間違いなくじり貧だった。俺と同じようにそのことを感じたのか『ムウ』が言った。
「こんなめんどくさい装備、いったいどうやってパターンを組んだのよ。いくら大戦時代の兵器だからって」
確かに現代にも、それこそ『スペース・フロンティア』で用いられている装備の中にも、遠隔操作可能な砲台というものは存在する。
それらは、事前にプログラムしておいたいくつかのパターンに従って動くのが一般的であり、その場合、攻撃のパターンはきわめて単純なので、慣れている人間であれば、思った以上に簡単に攻略できてしまう。
だが、今の『スコーピオン』の攻撃からは、そういった単純さはみられず、極めて柔軟かつ独創的な、こちらの意表を突き、裏をかこうとするような意図を感じる。
だとすれば、答えは一つしかない。
「この攻撃、多分、全部が手動の、マニュアル操作だ」
「確かにビームの軌道とリフレクターの反射角、周囲の空間認識という、遠隔兵器の操作に必要な能力は人間よりコンピューターの方が得意だろうけど、ここまで高度な『思考』をする人工知能なんて、例え現代にだって存在しない。なのに……」
「いや、あり得る」
『ムウ』の言葉を遮るようにしてそう言ったのは『こめっと』だった。
「そもそも、大戦時代の技術には、今では失われてしまったロストテクノロジーとでも言うべき物がいくつも存在するからね。今よりも高度な人工知能があの時代に完成していることはそれほど不思議じゃない」
『戦争が技術を進化させる』。
よく言われる言葉だが、そのことの善悪はともかくとして、そういった現象が存在するのは歴史的な事実だ。
戦争という極限状態が人類に対して必要を迫り、予算や倫理観を平時ではあり得ないほどに度外視して、加速度敵に技術を進化させるのだ。
しかし、あまりにも厳重な機密を強いる戦時下という環境に、戦後という混乱期が重なることによって、加速度敵に発展し進化した技術が継承されることなく消滅してしまうということは、十分あり得る事だ。ならば、この『スコーピオン』に用いられている人工知能がロストテクノロジーとなってしまっていることは、それほど不思議ではない。
『こめっと』は続ける。
「と、言うよりは、ストライクフォートレスという兵器群そのものが、ある種のロストテクノロジーの集合体なんだよ。いや、オーパーツとすら言えるのかもしれない。何しろ、今現在の時代において、設計図が残されていたものですら、ストライクフォートレスを完全に再現することは出来なかったんだ」
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