3-2 永遠よりも長い一瞬
決着の瞬間が、ディエゴの脳裏によみがえる。
――――――――
ラファエルの右腕が動いた。
百分の一秒にも満たない一瞬、ラファエルの右腕に向かって伸びる――瞬間、ディエゴの左手が閃いた。
拳銃を抜いた。
引き金を引いた。
二発の銃声が、重なるように響いた――
頭蓋骨をブチ抜かれたラファエルが床に倒れる。
解放されたエマがディエゴに駆け寄る。
彼女の目には涙が光っている。
二人は抱き合ってキスをする……ディエゴが一瞬、見たのはそんな夢だった。
――ラファエルが動いたのとほぼ同時、エマがラファエルの腕を掴んだ。
ラファエルの体勢が崩れる。互いの銃弾は狙いを外れ、壁の壁面にぶつかって火花を散らした。
(外した!)
鳥肌が立つ。ラファエルの鋭い目が、ディエゴの心臓に突き刺さる。
恐怖に呑まれたら、負ける。
ディエゴはすかさず二発目を撃った。
不運はいつだって彼に付きまとって来た。
彼の家系は不幸の女神に愛されている。
何をやっても上手くいかないのさ、おれたちの家系は。
皮肉げに微笑むモーガンの言葉を、十年が過ぎた今も覚えている。
ディエゴの撃った二発目の弾丸は――狙いを外れた。
永遠よりも長い一瞬が過ぎた後、洞窟の壁に血の花が咲いた。
ディエゴの弾丸は狙いを外し……エマの胸を撃ち抜いた。
ラファエルがエマの体を蹴り出した。
ディエゴは咄嗟に身を伏せた。弾丸が頭をかすめる。狙いも付けずに拳銃を連射する。
弾倉が空になったと気付いた時には、ラファエルはもういなくなっていた。
窓から下ろしたはしごを伝わり、外に逃げている。
暗闇の荒野に、馬が走り去っていくのが見える。
ディエゴはエマに駆け寄った。
ランプの弱々しい光が彼女を照らしている。
消えていく命が最後の火を放っているかのように、褐色の肌が火傷するほど熱い。
「エマ……エマ!」
エマの胸部に当たった弾丸は、肉と骨を削り取って背中から飛び出している。
血塗れの彼女を抱き上げる。ディエゴの体もエマの血で赤く染まった。彼女の青い、美しい目が少しだけ動いて、ディエゴを見た。
開いた口からごぼりと音を立てて、血の塊を吐き出した。
虚ろな目がいつまでもディエゴを見ている。
エマはそれきり、動かなくなった。
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