三部:追走する復讐者
3-1 決着の時
夕陽が地平線の下に隠れ、アリゾナの荒野は闇に閉ざされた。
ロジャーは腹這いにライフルを構えたまま、微動だにせず強盗団の隠れ家を睨んでいる。
巨大な岩石が並ぶ荒野。大きな洞窟。ぽっかりと空いた黒い穴から、ランプの灯りが頼りなく揺れている。
(……見張りがいないところを見ると、罠か)
あのディエゴという男が自分を騙しているのか、それともラファエル・バレンズエラが警戒しているのか。
いずれにせよ……
(邪魔をするヤツは、撃ち殺すだけだ)
入り口に男の影が見えた。
すかさずロジャーはウィンチェスター・ライフルの引き金を引いた。
発砲とほぼ同時にフィンガー・レバーを押し出して次弾を装填。引き金を引いて発砲。強盗団の根城に向かって、弾丸を連射した。
敵の応戦が始まる。洞窟の入り口から銃声が響く。
とはいえ、外は月もなく暗闇に包まれている。隠れ家の中には微かながらランプの灯りがある。圧倒的に有利なのはロジャーだ。
装弾した七発すべてを撃ち尽くし、ロジャーはライフルを足元に捨てた。
隠れ家の中から、暗闇の荒野にいるロジャーの姿はほとんど見えないはずだ。だが発砲時の閃光と硝煙は隠しようもない。最初の混乱が収まれば、敵もロジャーが一人であることに気付くだろう。
ライフルを残したまま、ロジャーは走った。
身を低く、洞窟に近い位置に移動する。
「三分、ってところか」
敵の撃つ銃声がしばらくして、止んだ。心の中で秒数を数える。二分を過ぎ、三分に達する頃。複数の足音が聞こえて来た。
強盗団の男たちが、ロジャーの居た位置を探っている。
「ライフルがあるぞ! この辺りにいるはずだ!」
「探せ! 絶対に逃がすな!」
敵は、三人。
ロジャーは隠れていた岩から飛び出すと、すかさず拳銃を四連射、二発ずつ、二人に銃弾を叩き込む。最後の一人が慌てて拳銃を向けるが、遅い。ロジャーは男に肉薄すると、右手を掴んでひねりあげる。足を払い、男を背中から地面に叩き付けた。
背中を打って呼吸ができないのか、男は真っ赤な顔をして苦しげに呻いた。
「た……助け……」
男の手から拳銃を奪い、眉間につきつけて発砲。
これで三人殺した。
隠れ家に向けて走る。弾丸が耳元をかすめた。入口から覗いた敵の頭を撃ち抜く。
四人。
ロジャーは速度を落とさずに、隠れ家の洞窟に飛び込んだ。床に身を投げ出して転がる。両手の拳銃で左右に一発ずつ発砲。
五人、六人。
銃声。肩を弾丸が掠める。ロジャーは振り向きもせず、背中越しに撃ち返す。くぐもった悲鳴。
これで七人。
敵わないと悟ったのか、悲鳴を上げて隠れ家から飛び出そうとする男がいる。背中から撃ち殺す。
八人目。
「さて……これであと何人だ?」
外から撃った一発も、どうやら男の頭を撃ち抜いていたらしい。
死体は九つある。血を流し倒れる男たちの中に、ディエゴはいない。
あと二人、敵は残っているはずだ。
一人がラファエルだとして、もう一人どこかに潜んでいる。
拳銃に銃弾を詰め直すと、警戒しながら洞窟を進んだ。
強盗団の隠れ家はシンと静まり返っている。物音一つしない。足音を殺して進むが、ロジャーが殺した以外の死体は見つからなかった。
ディエゴもラファエルも、どちらの死体もない。
血の跡と、足跡がある。ロジャーはそれを追った。
火薬と硝煙、血と砂のにおい。洞窟の中に漂っているのは嗅ぎなれた死のにおい。
人の姿を見つけ、銃口を向ける。
女が倒れていた――おびただしいほどの血が流れている。傍らでディエゴが、両膝をついている。
「ラファエルにやられたのか?」
声を掛けるが、ディエゴは振り向かない。虚ろな目で、抱きかかえた女を見ている。
「違う」
ディエゴに抱きかかえられた女を、ロジャーは見た。金髪の、まだ少女の面影を残す若い女。
喉を撃ち抜かれ、力なく首を垂れている。
「おれが、エマを撃ったんだ」
弱々しく、ディエゴは繰り返した。
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