第5話 脱出

その後も定期的に虫の襲撃があったものの、リネン繊維の持つ抗菌特性によるものか、一年あまり経ったのちも、リネンは奇跡的に被害を免れていた。

しかし、いつ齧られるか分からないという恐怖と、仲間が死んでいく喪失感で、リネンの精神は追い詰められていった。


そんな状況が続いたある日、突然、押し入れが開かれた。


リネンをはじめ、もう諦観にとらわれた服たちは、どうせ掃除機でも取り出すんだろと思っていたが、予想に反して服がしまわれた段ボールが次々と取り出された。


服たちは意外な成り行きに、勝手な予想を話し始めた。

「おい、もしかして久々の出番か。」

「バカ、希望を持つと裏切られるよ。捨てられるのかもしれない。」


しかし、段ボール箱は開かれることなく、宅配便の伝票を貼られて運ばれていく。

「おい、俺たちどこへ連れていかれるんだ。」

「やっぱり捨てられるんだ。」

「宅配便で捨てられるなんて聞いたことないぞ。」


「もしかして、リサイクルじゃないか。」

客観的な状況観察と希望的観測が交じり、皆の見解が一致した。


「それだ。」


希望と寂しさが同時に訪れた。本当にリサイクルなら、また新しい持ち主と出会って、再出発できるかもしれない。

でもタカヒロに着てもらえることはもうないのだ。

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