第4話 襲撃

「俺たち、このままもう誰の役にも立てないのかな。」

Gパンも弱気な発言をし始めた。


「タカヒロもせめて人に譲るとかしてくれればよかったのに。

こんなしまい込んだままなんて、捨てられるほうがましだよ。」


それを聞いたTシャツがつぶやいた。

「そうだね、捨てられて焼却されれば希望があるかも。」


希望という言葉に反応して、みな続きを待った。

「前の持ち主に聞いたことがある。

僕たちはいつか焼却されて、水と二酸化炭素になるんだ。

その水と二酸化炭素で育った植物から繊維が取り出され、布が織られ、僕たちはまた新しい服に生まれ変わることができるって。」


そのとき、ジャケットが叫んだ。

「虫だ。」


段ボールの蓋の隙間から、カツオブシムシの幼虫が侵入していた。服の天敵である。

生地を食われて穴が開いてしまったら最後だ。繕ってまで着てくれる持ち主はそうはいない。


「うわああ」

侵入した虫の好物は木綿なのか、ポリエステルのジャケットには目もくれず、Tシャツの木綿生地を齧りはじめた。


「やめろ、やめてくれ。ぐああああ。」

動けない服は、生きたまま虫に齧られるしかない。

リネンには経験がないが、Tシャツの悲鳴からその苦しみと恐怖は十分に想像できた。


一時間ほどが過ぎた。いつからか、もうTシャツの悲鳴は聞こえなかった。

虫はひとしきりTシャツの繊維を食いちぎって満足したのか、段ボールの隅で眠っている。


Tシャツが弱々しい声を絞り出す。

「僕はもうだめだ、かなり食われてしまった。もう服としての形を保てない。

さようなら、みんな。」


リネンは服が服としての機能を保てなくなった時、死ぬのだということを知った。


たとえTシャツの話が本当でも、虫食いのまま死体が放置された状態では、生まれ変わることもできないだろう。

着れなくなっても、焼却もしてもらえない服は、死んでなお悲惨だという事実にリネンは恐怖した。

俺もこのままでは、そうなるのだろうか。


Gパンが怒りをこめてつぶやいた。

「リネン。お前、タカヒロに気に入られてるとか言ってたな。

でも防虫剤も入れてくれなかったじゃないか。」


リネンには返す言葉がなかった。

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