第3話 シーズンオフ
夏に入ると、タカヒロはリネンをクリーニングに出し、他の春物と段ボールに入れて押し入れにしまった。
「よし、今シーズンはよく働いた。これで来年まで一休みして、また働くぞ。」
しかし翌年、リネンのはいった段ボールが押し入れから出されることはなかった。代わりに新しい段ボール箱が押し入れに入れられた。
「今年はたまたま着てもらえなかったけど、来年は着てくれるはずだ。」
自分に言い聞かせるリネンに、同じ段ボールにいるビンテージのGパンがあきれたように言う。
「無理だね、一年着てもらえなかったら、たぶんもう永久に出番はないよ。
もう新しい服、買ったんじゃないかな。」
リネンは負けじと反論する。ブランド服のプライドにかけて、そんな話を認めるわけにはいかない。
「いや、もう要らなかったら捨てるはずだろ。俺がまだ押し入れにいるってことは、いずれまた着ようと思ってるってことだよ。」
リネンのあからさまな現実逃避にはGパンも苛立ち始めた。
「そう思いたい気持ちはわかるけどな、タカヒロは単にモノを捨てられない人なんだよ。
押し入れに何を入れたかなんて、とっくに忘れてるさ。」
Gパンのいら立ちがリネンにも伝染する。こうなるともう悪循環である。
「そんなはずはない。タカヒロは俺をすごく気に入ってたんだ、お前らとは違う。」
「お前らとは違うって、どういう意味だ、リネン。お前なんか所詮流行りものだろうが。
ブランド服だからって偉そうにしてるけど、お前はもう流行遅れなんだよ。
俺はビンテージだから流行りすたりと関係なく価値があるけどな。」
「何だと、このただの汚ないGパン野郎。お前こそ偉そうなこと言うな。」
そこへ年季の入ったジャケットが割って入った。
「こらこら、喧嘩をするな。わしらはお互い持ち主に忘れ去られた同士、いわば仲間じゃないか。
Gパン、落ち着け。リネンも、もう素直に現実を受け入れたほうがいい。わしらは捨てられたんだ。」
リネンにも分かっていた。もうタカヒロには自分が必要ないのだろうということを。
でも、ただ受け入れるには、その事実は重すぎる。
「じゃあ、持ち主に忘れられた服は、これからどうやって生きていけばいいんだよ。」
聞かれたジャケットも辛そうだった。
「分からんよ。わしにも分からんのだ。
分かってるのは諦めるしかないってことだけだ。」
ジャケットも悩んでるんだ。
答えは得られなかったが、リネンはジャケットに親近感を持った。
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