ひきこもりロボメイド

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ひきこもりロボメイド

 マリアはエドワードに仕えるロボットメイドだ。 

 彼女の働きぶりは見事なもので、全国ロボットメイド選手権で優勝したこともある。 


 しかし、その栄光は過去のもの。 

 現在のマリアは……。


「『この動画、草生える』っと。あーあ、このアニメ作画崩壊してるなー」 


 絶賛引きこもり中だった。


「マリアちゃん。ネットで新作ゲーム予約したぞ」 


 また引きこもっているのはマリアだけではない。ご主人であるエドワードも一緒の部屋で引きこもっていた。 

 二人は毎日ほとんど動かずに、ニコニコ動画やまとめサイトを流して見ていた。


「マリア! いつまでも遊んでいないで、メイドロボとしての使命を果たさんか!! ご主人様も、マリアと一緒に引きこもらないでくださいませ!!」 


 同僚の執事ロボであるセバスチャンがどんなに叱っても、二人は引きこもるのを止めなかった。


「セバスチャン、それは違うぞ。マリアちゃんは好きで引きこもっているのではない。わしの命令で、わしと一緒に引きこもっているのじゃ」

「同じことでしょう!!」

「ねえねえセバスチャン。あたしお腹すいたー。ポテチ勝って来てー、うすしおのやつー」

「自分で買ってきなさいダメイド!!」

「あ、コーラ切れそう。セバスチャン、ついでに買ってきてー、ゼロカロリーのやつね」

「そんな健康に良くないもの飲まないでくださいご主人様!!」

「ほらほら、ご主人様の命令だよ。なるはやで買って来てなるはやで」

「ああ、もう承知しました!!」 


 ぷんぷん怒りながらセバスチャンは部屋を出て行ってしまった。 


 マリアとエドワード。二人だけが残された部屋に電波アニメソングが静かに流れる。


「……ごめんなさい旦那様。わたくしのせいで旦那様までセバスチャンに怒られてしまって」

「気にするでないマリアよ。それに決めたではないか。お前のバッテリーが切れるまで、一緒にいよう、と」 


 そう。マリアの身体に内蔵される電池は、あと少しでエネルギーが無くなる。完全に無くなれば、マリアの機能は停止する。 

 電池を交換すれば良いと言う者もいた。だがマリアは旧タイプのメイドロボット。予備のバッテリーはこの世にもう存在せず、記録回路を新型に移植することもできない。また充電機能も無い。 


 自分がもう長くないことを知ったマリアは酷く悲しんだ。 

 彼女の悲しみは死ぬ恐怖によるものではない、エドワードに仕えることができなくなる恐れからだ。 


 マリアはエドワードを愛していた。だからこそ、悲しみは深かった。 


 そんなマリアにエドワードは命令した。わしと一緒に引きこもろう、と。 

 マリアの電池を回復させることはできない。だが働かなければ、消費を抑えることはできる。 

 エドワードもまたマリアを愛していた。だから彼女と一緒に引きこもることで、二人の時間を少しでも延長させようとしたのだ。


「さあさあ、暗い話はこれくらいにして! 一緒にYoutubeでも見ようよマリアちゃん!!」

「……はい、主人様!!」 


 二人は悲しみを押し殺して、明るく楽しくパソコンの画面を見た。


「……まったく世話の焼ける人達だ」 


 そんな二人のやりとりをセバスチャンは扉越しに聞いていた。 

 執事である彼もマリアの寿命は知っていた。

  

 だが知らないふりをした。知らないふりをして二人を叱っているのだ。 

 理由は、他のメイドや執事達がマリアを羨ましがって、引きこもりのを防ぐため。二人の邪魔をさせないため。マリアがご主人様の命令よって、仕方なく引きこもっているのだと、思わせるため。


「私にできることは、これくらいですからな」 


 主人のために尽くすのが、ロボット執事の役目。 

 セバスチャンは頼まれたポテチとコーラを買いに出かけた。

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