時間停止

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時間停止

 俺は超能力を手に入れた。

 世界の時間を止める、それが俺の能力だ。 


 どうしてこの能力が覚醒したのか、俺には分からない。 


 でも、俺はこの力を重宝している。 


 時間が停止したことに気づいているのは、能力発動者である俺だけだ。 

 だから重犯罪、軽犯罪、性犯罪のし放題だ。 

 万引きもやったし、銀行強盗もやった。痴漢もした。昔俺をいじめたやつを殺したりもした。もちろん時間を止めているから、アリバイはばっちり。誰も俺の犯罪に気付かない   






 ある日。 俺がいつものように能力で痴漢していた時のことだった。 

 バスの中でどの女子高生をターゲットにするか選んでいた最中、俺のスマホにメッセージが届いた、母からだった。 

 アプリを起動して、メッセージ内容を確認した俺は、痴漢する気が失せた。


『妹が危篤です。すぐに○○病院に来てください』 


 俺は言われたとおりすぐに病院に駆けつけた。 

 病院には泣いている母と、それを慰める父がいた。 


 俺は父から事情を聞いた。 

 妹は旅行先の浜辺で不発弾の爆発事故に巻き込まれ、かなりヤバい状態だそうだ。 

 浜辺の不発弾ってどこのブラックジャックだよ、俺は思った。 


 ブラックジャックでは、本間先生という名医が奇跡の手術でブラックジャックを救った。 

 しかし、現実には本間先生はいない。この病院には妹を治せる医師はいない。 


 その時俺は理解した。 

 どうして俺に、時間を止める力が生まれたのか。 

 全てはこのためだ。この力を授けてくれた神様が、俺に言っているのだ。その力を使って妹を救え、と。  


 俺は病院を抜け出し、医術書を買い漁った。俺ができるのは時間を止めることだけ。時間を戻して事故を無かったことにすることはできない。 

 

 だったら別の手を使うだけだ。 

 俺が本間先生になって妹ジャックを救えばいい。


 医学書を読み漁り、俺は医術を学んだ。医療大学に忍び込み、機材を拝借して技術も身に着けた。 


 世界では時間は経っていない。だが俺の時間は何年経ったのか分からない。 


 そして止まった時間の中で、俺は本間先生となった。 

 

 俺は病院に戻る。 

 そして時間を止めて、俺は妹の手術を行った。止まった時間の中で、たった一人で。 


 結論から言うと、手術は成功した。 


 そして俺は警察に逮捕された。医師免許もなしに手術を行った罰として。 


 いつもなら時間停止で逃げるのだが、それはできなかった。 

 手術が終わると同時に、能力は消失した。 

 きっと俺の能力は役目を終えて、神様のところに戻ったのだ。


「医師免許無しで手術して逮捕……これじゃあ本当にブラックジャックになったみたいだな」 


 俺はそんなことを呟きながら、流れる時間を噛みしめた。

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