張り込み

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張り込み

「いよいよ今日ですねアニキ」

「もう少し静かに話せ。奴に逃げられちまう」   


 唇に人差し指を立て、タクトはサトルに声量を下げるように指示する。


「このくらい大丈夫ですよ。吹雪で窓がガタガタ揺れて、俺達の声なんてかき消されちますよ」

「しかし、こんなに吹雪いてるのに、奴は本当に来るんですかね……」

「天候なんざ関係ない、奴は必ず来るさ……。サトル、お前は知らないだろうが去年も一昨年、その前の年も奴は来た」  


タクトは遠くを見る。


「あの頃は俺も若かった。奴と接触できるチャンスは何度もあったはずなのに、捕まえる事ができなかった。」

「無理も無いですぜ。今まで何人もの人間が奴を捕まえようと試みたのに、捕獲どころか顔すら見てないんですから」   


 悔しそうに語るタクトをサトルはフォローする。


「だが今回は違う。俺も、そしてお前もこの一年で体力も精神力も上がったはずだ。奴がここにくるのは、おそらく午前0時から午前6時の間。かなりの長丁場になるが、サトル、大丈夫か?」

「平気ですよアニキ、こんな事もあろうかと昼間のうちにたっぷりと昼寝しておきましたから。おかげで眼がパッチリでさ」

「ふっ、頼もしいな。……もうすぐ0時になる。ここからが正念場だ、気を引き締めろ」

「へい!」   


 時計が予定時刻を告げ、二人は標的に気づかれないように息を仕留めた。    






 一時間後。

「すまねえ、アニキ……どうやら俺はここまでのようでさ」

「バカ野郎っ! 目を開けろサトル! 一緒に奴を捕まえるんだろ、諦めるな!!」    


 タクトの必死の呼び掛けも虚しく、サトルの意識は次第に遠のく。    

 だがそれはタクトも同じだった。


「(まずい。俺も意識が……)」  


 2人の気持ちはただ一つ、奴を捕まえたい、それだけだった。   

 だが、どれだけ強い気持ちを持ってしても、身体が言う事を聞かない。   

 

 やがて、2人の意識は途絶えた。    






 翌朝。


「ちくしょう、ちくしょうっ!」

「くっ、無念……」   


 2人は部屋の隅で悔しがっていた。


「サトル……いつまでも泣いてはいられねえ! 来年こそは必ず奴を捕まえるぞ!!」

「はい! アニキ!!」






「母さん。あいつら、何の話をしてるんだ?」

「さあ? 来年のクリスマスプレゼントを何にするか考えてるんじゃない?」  


 タクトとサトル、小さな2人のサンタクロースを捕まえる作戦は来年へと続く。

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