第2話 多分俺達は正規ルートを進んでいない
「牡丹先生、まず異世界では何をすれば良いのですか?」
「ふっふーん、異世界ではね、エルフを抱いたり猫耳娘を愛でたりするんだよ」
「おい牡丹、真面目に答えてくれ」
俺は多趣味だが、ライトノベル系はオタク臭えと毛嫌いしていたため、異世界のテンプレートというものを知らない。
だからオタクである我が妹、牡丹先生に異世界での生き方を学んでいるのだ。
「まあまあ、落ち着きたまえ、異世界なんて余裕なんだから」
牡丹がドヤ顔で調子に乗った事を言ってくる。
『こいつ、異世界召喚されてからキャラ崩壊が激しすぎるだろ』などと思っても口に出さないのが
「そろそろ真剣に話すからちゃんと聞いててね、兄さん」
俺は『分かった』という意味合いを込めて首を縦に振る。
「今私達がいるこの町みたいなとこは恐らく〈始まりの町〉的な感じの駆け出しの冒険者とかが集まるところなんだと思うの」
そうなのか、だったらいきなりドラゴンとかは出てこないという事か。
「やっぱり衣食住は基本なんだよね」
「でも私達はこの世界のお金を持ってないでしょ。だから兄さんお金稼いできて」
牡丹が俺を利用しようと俺の胸に擦り寄ってくる。
大した小悪魔に育ったものだな俺の妹は。
「おいおい、そんないきなり雇ってもらえるような所なんてあるわけないだろ」
俺のツッコミが効いたのか牡丹は小さく唸りながら頭を抱えてしゃがみ込んだ。
はあ、舞い上がりすぎるのも良くないな。これからは興奮してたら落ち着かせよう。
「まあ牡丹、そんなに落ち込むな」
「うん、でも一文無しでどうやって生きるの?」
うーむ……確かにそれが一番深刻な問題だ。
そんな生きる術を二人が本気で熟考しているときだった。
「泥棒だー!誰か捕まえておくれ」
声がした方向を見るとフード付きのマントを着た人が焼かれた肉串を何本か抱えてエプロンを着た町人から逃げていた。
「兄さん、あれ!」
「ああ、取っ捕まえてお礼の品か何かを貰うぞ」
俺と牡丹はマントの着た盗人を全力で追いかけ始めた。
◇◇◇
どれくらい走っただろうか。
俺達は盗人を追って獣道さえない森に入っていった。
しばらく追いかけていたが盗人の足はまるで魔法がかかっているかのように速く、森の中で見失ってしまった。
「なあ牡丹、この状況は流石に不味いんじゃないか」
俺がそう問いかけると牡丹が息を切らしながらコクコクと頷く。
「ここ、明らかに正規ルートじゃないよ。多分危険なモンスターとかいると思う」
「そうなのか!だったら早くこの森から抜け出さないとな」
そんな事を言うも、俺達はもと来た道まで忘れてしまっている。
だが一秒でも早く抜け出さないといつ危険なモンスターが襲ってくるか分かったものじゃない。
不安と焦りが高まり、俺達の歩くスピードは次第に速くなっていく。
「なあ牡丹、空に雲がかかってきたぞ。もしかしたら雨が降るかもしれない」
「確かに……あ!あそこに洞窟があるからそこで雨を防ごうよ」
俺は牡丹の提案に賛成し、洞窟で雨宿りをする事にした。
俺達は洞窟に入ると同時に小雨が降り始めた。
時間が経つほど雨は強くなっている。
「やっぱり雨、降ってきたな」
「うん、そうだね」
「なあ牡丹、雨が止むまで暇だし、この洞窟を少し探検しないか?」
すると牡丹は目を輝かせてガッツポーズをした。
「よし、ここで私のチートスキルが役に立つ時がきた……おりゃ!」
牡丹が人差し指を立てて力を込めるとそこからロウソクの炎ほどの大きさの火が灯った。
牡丹が人差し指に灯している火のお陰で先程まで真っ暗だった洞窟が少し明るくなった。
「おお!ナイスだ牡丹。それじゃあ早速進むか」
牡丹の明かりに頼りながら洞窟を進むと何やら足音が聞こえてきた。
何かが近くにいるらしい。
足音の正体を探るために俺達は更に深い所まで進んでいく。
しばらく進むと牡丹が何かを見つけたようで奥の方を指差して俺に伝える。
足音の正体は、ゴブリンだった。
「兄さん、ゴブリンだよ!うわあ、異世界召喚された事をより実感できたよ
。ねえ兄さん、触ってきていい?」
牡丹がゴブリンに聞こえないように小さな声で聞いてくる。
「いい訳ないだろ!どう考えても敵モンスターだろ、あいつ」
俺がつい大きな声でツッコんでしまったためゴブリンがこちらをギロッと睨みつけた。
「やば!見つかっちまったぞ、牡丹」
「兄さんのせいでしょ、ていうかあんなのワンパンだよ」
牡丹はそう言うとゴブリンの方に手で銃の形を作り、
「……バン」
その瞬間眩い光の線がゴブリンの体を貫通し、ゴブリンは地面に倒れこむ。
俺は思わず息を飲んだ。
こんな強い魔法も使えるのか、俺の妹は……
「兄さん、やっぱワンパンだったよ」
「…………」
「兄さん?」
牡丹が心配そうな表情で俺の顔を覗き込む。
「な、何でもない。ほら、早く先に進むぞ」
この後洞窟を進んでいたが敵モンスターが出る度に牡丹はあの魔法を使ってワンパンでモンスターを倒していく。
どうやら神様が牡丹に与えた
ここで俺はこんな事を考えてしまう。
ーー俺もあんな恐ろしい力を持っているのか?
次々と牡丹に倒されていく敵モンスター達の返り血を浴びながら俺は思考回路をフル回転させる。
いや、きっと俺はあんな力は持っていないはずだ。
だって牡丹は無詠唱魔法行使という能力を授けられたが俺はステータスが高くなっているだけだ。
腕を磨けばゴブリンくらいは素早く倒せるようになるだろう。
だが牡丹が俺に見せたような圧倒的火力のようなものはないだろう。
俺は安心と共に俺より強い妹に嫉妬してしまった。
そんな自分を情けなく思いながらも『今はそんな事を考えてショゲてる場合じゃない!』と頰をパンパンと両手で叩き気合いを入れる。
「兄さん、あれ」
牡丹が俺の肩をトントンと叩いて洞窟の終わりを告げる光を指差した。
「おお、遂に外に着いたな」
外に出ると洞窟に入る前まで降っていた雨はすっかり止んで雲一つない晴天に変わっていた。
俺は達成感と疲労感を吹き飛ばすため、大きく伸びをした。
すると俺達は目を見開いてある事に気づいた。
「「村だ!」」
俺達はツリーハウスのような建物が集まった村を見つけた。
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