俺と妹で血色に染まった異世界を救いたいと思います

黒い犬

建国編

第1話 俺と妹はどうやら異世界召喚されたようです

 ーー東京都港区某住宅街


「兄さん、今日お母さんとお父さん出かけてるって」


 俺が家に帰り、玄関ドアを開けると可愛らしい声が聞こえてきた。


 そして鼻孔をくすぐる甘い香りと共に俺の視界に現れた少女はにっこりと笑った。


 この少女は俺の妹の柳木やなぎ牡丹ぼたんだ。


 俺との年の差は三歳差と小さく顔も可愛い方である。見ていると思春期の男ならムラムラしてしまうだろう。


 だが俺は文明人であり常識を弁えている男だ。間違っても妹を恋愛の対象とはしない。


「そうか、じゃあご飯作ってやるよ。何食べたい?」


 ーーそんな仲睦まじい生活をしていた頃から一年の月日が経った。


 俺は高校三年生になり牡丹は高校一年生になった。


 自己紹介が遅れたが俺は柳木やなぎにしき


 特徴といえば多趣味な事くらいしかない、そんないたって普通の人間だ。


 俺は相変わらず普通に暮らしていたが牡丹は一年で大きく変わった。


 学校から帰り、玄関のドアを開いた。


 以前なら妹が出迎えてくれた玄関には誰もいない。


 俺は少しがっかりして家の中に入った。


「牡丹、ただいま」


 やはり返事は返って来ることはなく沈黙の時間が少し続いた。


「今日も返事、なかったな」


 いつもならここで諦めてしまうのだが、なんと今日は妹の誕生日なのだ。


 これでも俺は牡丹の兄だ。誕生日くらい祝ってやりたい。


 俺は少し緊張しながら階段を登って二階にある牡丹の部屋の前で立ち止まる。


 牡丹の部屋のドアの奥からどんよりとした空気が流れ出ている。


 俺は一度大きく深呼吸をしてドアをノックした。


「なに?ご飯だったらドアの前に置いといて」


 随分と冷たい返事が返ってきたが俺はここで諦めるような男ではない。


「なあ牡丹……大事な話があるんだ。開けてくれないか?」


 するとドアの向こうで『むふー、兄さんから告白!?』とか聞こえてきてしばらくしてからドアが開いた。


「兄さん、入って」


 漆のように艶めく黒髮を指先で弄りながら顔を赤らめた牡丹が上目遣いで俺を見てきた。


「うっ……」


 不覚にも妹に見惚れてしまったがすぐに落ち着いてドアに手をかける。


「お邪魔します」


 牡丹の部屋は意外な事に片付いていた。

 しかし、俺はこの部屋を女子の部屋とは思えなかった。なぜなら......


「相変わらず漫画とかゲームとかフィギュアとかいっぱい持ってるんだな……」


 そう、妹はこの一年で大きく変わった。


 ーー俺の妹はオタクになってしまったのだ。


「あんまりジロジロ見ないで、恥ずかしいから」


「す、すまん」


「ねえ兄さん、そういえば大事な話って何?」


 おっといけない、そういえば本題を話すのを忘れていた。


「なあ今日って牡丹の誕生日だろ?だからその……誕生日おめでとう」


「え、あ……ありがとう」


 牡丹は顔をゆでダコのように真っ赤にしてそう答えた。


 そしてもじもじしながら上目づかいでこちらを向いて。


「あのね、兄さん。私は兄さんのことが……」


 その瞬間、牡丹の部屋は眩い閃光に包まれた。


 ◇◇◇


 今のは何だったんだ?確か俺は牡丹の部屋にいて牡丹の誕生日を祝っていたはずだ。


 それで牡丹が俺に何か言いかけたところで突然牡丹の部屋が光って......


 落ち着いて状況整理をしようとしたが俺の眼下にはあり得ない光景が広がっていた。


「どこだよ、ここ……」


 先程まで妹の部屋にいたはずだったのに俺が立っている場所は中世風の建物が並ぶ町だった。


 突然起きた理解不可能カオスな状況の中俺は途方に暮れていた。


「兄さん、何が起きてるの?」


 牡丹の存在を一瞬忘れてしまっていたがどうやら牡丹も俺と一緒にカオス体験をしているようだ。


「俺にも分からない、いったい何処なんだここは」


《あー、テステス……聞こえてる?》


「「は?」」


 突然天から機械音のような声が聞こえた。いったい何事だ?さらに状況をカオスにするつもりか。


《突然異世界に送ってゴメンね、ボクは神って呼ばれてる存在なんだ》


『何言ってんだこいつ』と思ったがこの自称“神”野郎の話を聞いてみる事にした。


《君達をここに送ったのは勿論理由があるんだ。まずこの世界の説明から始めるとしようか》


「ああ、分かりやすくな」


《今この世界は王国と魔王が日々戦争を繰り返していて毎日沢山の人やモンスターが死んでいくんだ》


 なるほど、要するにここはファンタジー世界的な所なのか。


 魔王とか厨二臭えな。阿呆らしいけどまあ続きを聞いてみるか。


《だから君達兄妹にはこの世界を救って貰いたいんだ》


「そんなスケールが大きいこと出来るわけないだろ!」


「異世界召喚きたーー!!」


 俺のツッコミと牡丹の喜びの咆哮が重なり俺達は顔を見合わせた。


《勿論生身で戦えと言っているわけではないよ、君達には……》


「チート級能力進呈イベントきたーー!!」


 神の説明を遮って牡丹がネタバレをした。


《ま、まあ君達の能力を説明するよ。まず牡丹ちゃん》


「わくわくドキドキ」


 牡丹はわざわざ自分の心情を口に出している。


 オタクにとって異世界召喚とはそんなにワクワクするものなのだろうか。


《君の能力は〈無詠唱魔法行使〉という能力だよ。名前のそのままの効果で魔法を詠唱をしなくても発動する事ができるよ》


「ついに拙者も魔法使いか」


 牡丹がポーズを決めて呟いた。


 おいおい、なんかキャラ崩壊してるぞ。


《はいはーい、次行くよ》


「あ、はい。お願いします」


 さあ果たして俺の能力はどんな能力なんだ?


《君の能力は……》


 俺は唾をゴクリと飲み込んだ。


 強いやつがくるといいな。そう願いながら神から自分の能力が告げられるときを待つ。


《兄の能力は、〈ステータスカンスト〉だよ♪》


『え!?何だその能力?』その意味合いを込めて牡丹の方を向いた。


「兄さん、ステータスがマックスになるって能力だと思う。」


《そう!妹さん正解。だけど元々のお兄さんのステータスの上限って事だから別に攻撃力が一万とかになるって事じゃないからね》


 うーん、よくわからないな。


 まあいいやとりあえずなんか強い能力を得たって事で良いのかな。


《それじゃあ、頑張って世界を救ってね、


 そう言い残し、神は喋るのをやめてしまった。


「よし牡丹、早速神に頼まれた事をやろう」


「うん、折角の異世界召喚だし楽しまないとね」


 ーーこうして俺達の異世界ライフは幕を上げた。

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