第2話
「そうだ!久しぶりにあの喫茶店に行ってみない?」
と 倫子が言った。
「ああ……」
倫子とは大学が違っても、こうして月に幾度も会ってショッピングしたり、ランチしたり、映画を見たりしている。
入学当初は毎日のように学校帰りに待ち合わせをして、大学の話や友達の愚痴など話をしていたが、流石にアルバイトを始めると、そう毎日のようには会えなくなってしまった。
倫子は行動的で人付き合いもいいので、直ぐにアルバイトを見つけて忙しくなってしまった。
愛美はおっとりとした、ちょっと人見知りなタイプなので、器用にアルバイトを見つける事ができなかった。
しかしやっと、家と反対側にあるドラッグストアーで、アルバイトをするまでに至った
実は例の喫茶店に行きたかったが、なかなか倫子の知り合いに聞いて貰う勇気がなかった。
夕方の喫茶店はそんなに客が居る程ではなかったが、店の外では猫に餌を与える常連さんの姿が伺えた。
「いらっしゃいませ」
明るい感じの長身で細身の大学生が、水を運んで来て言った。
「オムライスあります?」
倫子が聞いた。
「ああ……大丈夫です」
「じゃあそれと珈琲……」
「私も……」
「はい……」
大学生はそう言うとカウンターの中の、もう一人の大学生にその旨を伝えているようだ。
「まだチキンライスが残ってたんだね。よかった……」
此処の軽食は昼間のパートさんが、大学生でもできる程度まで下拵えをして行ってくれるので、それがなくなるとアウトになる事もある。
ただし、一応大学生でもメニューの数が少ないので、作れるようにはなっているが、オムライスは昼間のみのメニューで、評判がいいので夕方交代の時にパートさんが、ある程度まで作って行ってくれる。
実はこのオムライスは、パートさんの勝手で常連さんに出したものが、評判を呼んでしまった。
兎に角自由にできるお店だから、いつの間にか個数限定みたいな、メニューとなった。
「この卵焼き、大学生が焼いたとは思えないね」
倫子は目一杯頬張りながら言った。
「一応練習させられんすよ」
カウンター越しに中の大学生が言った。
「えっ?意外と厳しいんだ?」
「まぁ……昼間のパートさんがね……」
「ああ……店長とかオーナーさんとかじゃなく?」
「俺らの店長はパートさんすね」
「はは……」倫子は大笑いしたが、愛美も吹き出してしまった。
気のいいカウンター越しの大学生は飯盛と言って、とても話しやすく、積極的な倫子がいろいろと質問をしても、嫌そうな顔ひとつしない。
「オーナーさんは、締めに来るくらいかなぁ?ああ……あと朝か……」
「朝?朝って何時からやってんの?」
「さあ……オーナーさんの気分じゃないかな?パートさんが来る迄に、やるべき事全てやってるし、ケーキも作って置いてあるらしいから……」
「へえ……じゃ、準備をしながら店開けてんのかしら?」
「流石に準備が済んだら開けるんじゃないかな?だから時間はわかんないけど、早起きして此処の珈琲飲んで行くって言う常連さんいますよ」
「お店の人も常連さんも開く時間はわからないんだ?」
「そうだなぁ……始発電車に乗る常連さんが、一杯飲んで言った話し聞いた事あるけど……」
「始発……って、もの凄く早くない?」
「うん……だけど、早朝に犬の散歩する常連さんは、開いてた事ない……って言う人もいる……だから、オーナーさんの気分次第って事で落ち着いてる」
「なるほど……」
「まぁ……七時頃には開いてるから、その頃開店だと思ってれば、早く開いた分はお得感があっていいって事で……」
「常連さんも気にしないんだ?」
「たぶん気にする人は、営業時間を書いてある店に行くでしょ?」
「まぁ……そうかなぁ……」
「じゃ、夜は?夜は何時迄なの?」
愛美が二人の会話に、割って入って聞いた。
「それも実は不明。俺らは十一時で帰るけど、オーナーさんの気分でやってる可能性はあるかもな」
「えっマジで?」
興味を持ち始めたのか、倫子が間髪入れずに言った。
「朝の様子からして……一人で開けてる事ありそうだし……」
「ああ……」
「意外とオーナーさん、俺らの帰りの心配とかしてくれるのよ。嵐的な天気の時とかは、早く帰らせてくれるんだけど、それがマジでヤバイくらい当たるんだ。オーナーさんの言う事聞いてよかった……っていうこと一杯あるよな?」
飯盛君はバイト仲間の森君に同意を促した。
「うん。電車の運行状態とかも鬼当たる」
「そうそう……早く帰っていいっていう時は、何かしら時間に問題が起きてる事多いな」
「そうそうシックスセンス超絶持ってる」
森君は真顔で言った。
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