第15話 普通の第3部「最後の選択」8

ここは闇が封印された世界。


「100年の時は過ぎた。私は復活する!」


魔王モヤイの魔力によって100年間、封印されていた闇が目覚めようとしていた。闇は闇を作り出す。その姿は魔王モヤイにそっくりな姿だった。


「魔王モヤイの力は私のものになった。行け! 私の闇の分身よ! 人間の世界へ! 私の復活の準備をしてくるのだ! 魔王モヤイ2世として!」

「はい。」

「魔王モヤイが復活すると人間共を恐怖のどん底に落とすのだ!」


闇は人間界に5つのモヤイ像を出現させた。まるで闇の五芒星を描くようにモヤイ像は配置されていた。


「私は永い眠りから蘇るのだ! 私は夢の続きを実現するのだ! ワッハッハ!」


邪悪なる者ヨヨヨヨヨンは人間が勝手に読んだ名前だった。闇は感情を持っている。闇の正体はいったい何者なのだろう!?



ここは闇の世界。魔王モヤイの後をポンジャ姫が支配し統治している。


「モヤイ様が甦ろうとしています。」


ポンジャ姫は100年の月日が経ち、待ちに待った魔王モヤイが復活するという。それを聞いたハチたち勇者候補生たち、今は暗黒の騎士たちであるが敏感に反応する。


「ついに闇の封印が解かれるの。」

「私たちが100年生きた意味が問われる。」

「か、か、噛み続けています。」

「こっちの世界の暮らしが楽しいのにな。」

「闇との戦いは、わしたちの運命じゃな。」


ハチたちは闇に覆われているので、自分たちの姿を見ることはできない。ただ100年の間、闇の世界の安定のために戦い続けてきた。


「暗黒の騎士たちよ。人間の世界に行き魔王モヤイ様をお迎えするのです!」

「ははあ!」


ポンジャ姫は暗黒の騎士たちを次元の入り口から人間世界に飛ばす。魔王モヤイの奪還と闇を倒すために。


「といっても、どこに行けばいいんだ?」

「とりあえず暗黒のモヤイ像にでも行ってみましょう。」

「5,5、5体あるみたいだから、バラバラになってしまうね。」

「そうだな。また生きて会おう。」

「みんなで闇酒でも飲もうじゃないか。」

「おお!」


ハチたちは暗黒のモヤイ像へと各自で向かうのだった。これからハチたちを待ち構えている出来事は悲惨であった。


「ポンジャ姫!」


そこにハチたちと入れ違いでコウが闇の世界にやって来る。このコウは1回目の100年後の世界に行く前のコウである。


「邪悪なる闇が復活しようとしている。世界を救う方法を教えてください!」

「あなたも闇に堕ちてるのね。」

「はい。」


ポンジャ姫はコウを一目見ただけで自分と同じ第3の瞳を持つ、闇の者だと見抜いた。そして荒々しいが純真な青年に助言する。


「残念ですが、私は魔王モヤイ様が甦れば、それでいいのです。」

「そんな!?」

「ですが人間世界に送った暗黒の騎士たちなら、世界を救う方法を知っているかもしれません。会いに行くといいでしょう。」

「ありがとうございます。ポンジャ姫。」

「良い運命になるといいですね。」

「はい。」


コウは第3の瞳を開け、次元の入り口を呼び出し飛び込む。邪悪なる者ヨヨヨヨヨンの封印が解ける時代を目指した。



ここはポンジャ城。


ポンジャ3世の王命で一般成人男女も魔王モヤイ2世との戦いに借り出されていた。その数は500人ンぐらいはいたであろう。大人数でザワザワしていた。


「すごい人だな。」

「ハチハチと私を見つけた。ピヨピヨもいるわ。」


次元を超えてコウとナーもやって来た。コウにとって2度目の100年後の世界。1度目は悲しい出来事しかなかった。ナーにとっては元々自分がいた世界に戻ってきて気恥ずかしいのである。


「あいつら何も知らないんだな。」

「ああ、お城に来たからってはしゃいじゃって・・・。」


コウとナーは若き日の父親と自分を見て複雑な気持ちである。そして演説するためにポンジャ3世まで現れた。


「ポンジャ王国の勇敢なる兵士、そして応援に駆けつけてくれた成人男女の諸君。私が国王のポンジャ3世である。」


モヤイ像討伐の団結式の王様の演説が始まった。


「魔王モヤイ忘れ形見、モヤイ2世が現れた。ヤツは暗黒のモヤイ像を各地に出現させ、我々が平和に暮らすポンジャを光の届かない世界にしようとしている。魔王モヤイの行いを断じて許す訳にはいかない!」


3択好きの亡き国王ポンジャ王よりも、若き王ポンジャ3世は王様らしかった。まさに王様の威厳と品格を備え、若さからくる夢や希望の感覚を持っている。大人も子供も国民が憧れる国王であった。


「我々は5体のモヤイ像に対して、兵を5つの部隊に編成し、一気にモヤイ像を壊し、世界から闇の暗雲を取り除き、ポンジャに平和を取り戻そう!」

「おお!」

「・・・。」


コウとナーはポンジャ3世の演説を聞いて、やはり気恥ずかしくなる。カッコイイことを言っているのに残念なのである。


「こいつも何も知らないんだな。」

「一層のこと、ポンジャ3世に全て話してみる? ポンジャ3世なら、私たちを助けてくれるかもしれないわ?」

「それは最後の手段だな。なんせポンジャ3世もすごい化け物だからな。」

「そうでした・・・。」


ポンジャ3世なくして、コウは生まれない。コウは闇の力を使うことができない。もしかするとコウはハチハチではない、もう1人の父親として、ポンジャ3世を見ているのかもしれない。 


「よかった、戦闘はしなくていいんだ。」

「そうね。でも戦えないのは残念だわ!」

「ナヨン、怖い・・・。」

「ピヨ・・・。」


ナナナナの言動に引き気味の成人男子とひよこ。その時、1人の男がハチハチたちに声をかけてきた。


「戦うことになりますよ。」

「え?」

「なんだ? おまえは?」

「ピヨ?」

「ぼ、いや、俺はハ、いや、コウ。コウという名前なんだ。」

「おい、ナナナナ、こいつちょっとおかしいぜ? あんまり関わらない方がいいんじゃないか?」

「ハチハチは黙っていて。コウ、どうして私たちは戦うことになるの?」

「え!? ふつ、いや、な、なんとなくだ。じゃあ、またな。」

「おかしなヤツだな?」

「ピヨ?」


コウは、そのまま去って行った。自分の昔の行動を陰から見ている。若気の至りとはいえコウのハチハチに対する嫉妬心が垣間見えて気恥ずかしい。


「息子が父親に嫉妬してますな。」

「恥ずかしいからやめろ。」

「えへ。」


ナーはコウを冷やかして遊ぶ。なんとも自分は真実をある程度知っていて、まったく何も知らない自分を見るのが気恥ずかしいの連続であった。



そして暗黒のモヤイ像が近づき、闇の瘴気に人間たちが苦しみ始める。


「どうして僕たちは闇の瘴気に晒されても平気なんだろう?」

「あの私もコウもハチハチも悲しいけど闇の者になってしまうから、この時代の私たちにも闇の力が遡っているのかもしれないわね。」

「じゃあ、ピヨピヨはどうして平気なんだろう?」

「んん・・・よし! ピヨピヨにも大役を与えよう! ヘッヘッヘ。」


不気味に笑うナー。ピヨピヨに待ち構える運命とは!? ナーを怖いと思いながらも、コウはそこには触れずに置いておくことにした。


「先回りして暗黒のモヤイ像に行こう。」

「私たちはモヤイ像を破壊した方がいいのかしら? それともモヤイ像を守った方がいいのかしら?」

「モヤイ像が壊れたら邪悪なる者ヨヨヨヨヨンが甦ってしまう。ハチさんたち暗黒の騎士と協力して、モヤイ像を守ろう!」

「分かったわ。」


コウとナーはハチハチ立ち寄りも先に暗黒のモヤイ像に向かうのだった。闇の封印を守るために。世界の平和を保つために。



暗黒のモヤイ像。


「いた! 暗黒の騎士だ!」

「兵士の隊長もいるわ!」


コウとナーは暗黒のモヤイ像にたどり着いた。そこには暗黒の騎士とポンジャ3世がモヤイ像の破壊に派遣した隊の隊長のエイがいた。


「ガガガ!?」

「なんだ!? おまえたちは!?」

「2人とも戦うのをやめて下さい!」

「暗黒のモヤイ像を破壊してはいけません!」


コウとナーは暗黒の騎士と隊長エイの間に割って入る。隊長のエイは全くコウとナーの言っている言葉の意味が分からなかった。


「私はコウ。未来を邪悪なる者ヨヨヨヨヨンの魔の手から救うべく、やって来た。」

「ガガガ!?」


まず暗黒の騎士の動きが止まる。突然現れた青年がヨヨヨヨヨンと言ったので、この青年は闇の正体をヨンだと知っているのかと話を聞こうとした。


「あなたの正体は、伝説の勇者ハチさんですよね。」

「ガガガ!?」

「闇の世界でポンジャ姫に会ってきましたよ。」

「ガガガ!?」

「もうすぐあなたの孫のハチハチがやってきます。ここで戦う必要はないんですよ!」


暗黒の騎士のハチは闇の世界での生活が長過ぎて、上手く言葉が話せなかった。それでも孫に会えると聞いて戸惑っている。


「さっきから奇妙なことばかりを言う。おまえたちはいったい何者なんだ!?」

「私の名はコウ。復活した邪悪なる者ヨヨヨヨヨンに闇に覆われた未来からやって来た、ポンジャ3世とポンジャ4世の息子、ポンジャ5世だ。」

「ポンジャ5世!?」

「そうだ。」

「王の子供だと言うのか!?」


隊長のエイは驚いた。目の前に現れた青年が、自分が仕え尊敬しているポンジャ3世の子供だと言うのだ。未来から来たとも。


「エイ、いやムカデの魔物よ。」

「なぜそれを!?」

「私は闇から世界を救うために、以前にもこの世界に来たことがある。ここで戦ってはいけない。もうすぐやって来る私に倒されてしまう。」

「な、何を言ってるのか、よく理解できない。私はこの隊の隊長として、国王の命令に従い暗黒のモヤイ像を破壊するだけだ。」

「ダメだ。このモヤイ像を壊してしまうと、100年前に魔王モヤイが封印した邪悪なる闇が目覚めてしまう。」

「・・・私は王の命令に従うだけ。もし未来を救いたければ、国王のポンジャ3世にお会いするんだな。それしか方法はないぞ。」

「どうして、それを教えてくれるんだ?」

「どことなく国王に似ている。ウソをついている様には見えない。」

「エイ。ありがとう。」

「ここで私が死ぬのなら、それも運命なのだろう。行け! 未来の王よ!」

「分かった。行こうナー、ポンジャ3世の元へ。」


そういうとコウとナーは暗黒のモヤイ像から去って行った。暗黒の騎士と隊長のエイが残される。


「自分が死ぬのが分かっている運命か・・・できれば死にたくないんで、魔物の姿にならしてもらうぞ。」


そういうと隊長のエイはムカデの魔物の姿に変化していった。それを暗黒の騎士は攻撃する訳でもなく見ているだけだった。



そこにハチハチたちがモヤイ像にたどり着いた。しかし、様子が変だ。兵士の言っていたように暗黒の騎士の姿はあった。しかし、エイ隊長の姿はなく、代わりにムカデの化け物の姿があった。


「ムカデ!? なんだ!? あの化け物は!?」

「隊長さんはもう!?」

「ピヨ!?」

「間に合った! まず、みんなでムカデの化け物を倒そう!」

「おお!」


暗黒の騎士とムカデの化け物を見たコウは「間に合った!」と言った。そして、ハチハチたちにムカデの化け物と戦うように促した。


「ホーリー&ダーク!」


コウの剣による必殺の1撃がムカデの化け物を切り裂く。ムカデの化け物を倒すと闇の瘴気が収まってきた。


「すごい!?」

「見ろ!? 闇の瘴気が消えていくぞ!?」

「ピヨ!?」


ハチハチたちは戦闘慣れしていない平和な時代の一般成人なので、大した戦力にはならなかった。ムカデの化け物を倒したコウは、暗黒の騎士に駆け寄る。


「教えてくれ! どうすれば世界を救えるのか!」


コウは暗黒の騎士に世界を救う方法を聞いたのだった。


「・・・。」


暗黒の騎士は何もしゃべらない。


「コウ!?」

「コウ!?」

「ピヨ!?」


ハチハチたちはコウの突然の奇行に驚き戸惑った。


「教えてくれ! 暗黒の騎士よ! 僕には、普通に知識が足らないんだ!」


コウと暗黒の騎士。この時のコウは、まだ世界の真実を知らなかった。ムカデの魔物を倒してしまったのもコウの早とちりだった。



その頃、ポンジャ城に向かうコウとナー。


「まさかポンジャ3世に会いに行くことになるとは・・・。」

「魔物の姿を知ってるだけに会いたくないわね。」


コウとナーは本能的にポンジャ3世が苦手なのであった。正直なところ、できれば会いたくないのだった。


「それでも世界を救うためには、ポンジャ3世にあって、魔物にモヤイ像を潰させる命令を取り消してもらわないと。」

「そうね。未来の平和のために。」


自分たちの目的を達成するためにも、コウは闇の父親であるポンジャ3世に会わなければならないのだった。そして、コウとナーにはこの世界にやって来て、少し違和感を感じることがあった。


「ねえ、コウ。」

「なに?」

「上手く言えないんだけど、なんだか変な感じがしない?」

「変?」

「こ~う、右にあったものが左にあるような。とにかく背中が痒くなるような違和感よ。」

「ナーの気持ちは分かるよ。」

「え?」

「1回目に来た僕は普通に世界を守りたいという気持ちだけで行動しているんだ。でも今の僕は、自分の1回目の行動を知っているし、その行動の結果も知ってるから。」

「それで気恥ずかしのね。」


コウとナーが時を超える弊害が出てきていた。個人的に気恥ずかしいという羞恥心だけでなく、史実の運命にも少なからず何らかの影響が出ているのかもしれない。確かに運命にズレが生じていた。


つづく。

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