第16話 普通の第3部「最後の選択」9

あと2万字、字数が厳しいので本編以外を編集して消すという裏技? 暴挙に出る。


ここは闇の空間。


「キャア!? 離して!?」

「ガガガ。」


ナナナナは暗黒の騎士にさらわれた。闇の空間に戻ってきて、始めて地面に降ろされる。


「いたたたた!? もっと優しく下ろしてよ!?」

「ガガガ。」

「キャア!? やめて!? 怖い!?」


暗黒の騎士はナナナナに手を伸ばす。騒ぐナナナナの首から掛かった懐中時計を手で握るとナナナナの首からむしり取る。


「ガガガ!?」

「どうしたの? 懐中時計が珍しいの?」


暗黒の騎士はナナナナの声には反応しなかった。暗黒の騎士が懐中時計を開くと、ピロロロロロンっとメロディーが鳴り響く。すると闇に覆われた暗黒の騎士の目から涙がこぼれてくる。


「涙!? 泣いているの!?」


流れる涙が暗黒の騎士の闇を振り払う。中から人間の顔が出てくる。その顔は老人の様なしわくちゃな感じに見えた。


「ジュウイチ!? ジュウイチ!?」

「ハチハチのおばあちゃんの名前!?」


暗黒の騎士は泣きながら叫んだ。叫び続ける名前はハチハチのおばあちゃんの名前であった。いったい、この暗黒の騎士は何者なのだろう。暗黒の騎士の闇は消えてなくなった。暗黒の騎士は人間の年老いた騎士になってしまった。


「なんで泣いてるのよ!? あなた人間なの!?」

「わしはハチ。かつて伝説の勇者と呼ばれた者だ。」

「伝説の勇者!?」

「そうだ。わしが伝説の勇者ハチだ。」


ナナナナは驚いた。ハチハチのおばあちゃんから聞かされていた伝説の勇者ハチの物語は本当だったのだ。


「おまえがわしの孫なのか?」

「ち、違います!? 私はジュウイチおばあちゃんのお隣さんです。あなたの孫はさっき一緒にいたハチハチです。」

「男の方じゃったか!?」

「どうしてあんたがこの懐中時計を持っていたんだ?」

「ハチハチからもらったんです。」

「そうか、つまらなそうな孫じゃったが、よろしく頼む。」

「はい、喜んで。」


こうしてハチハチとナーは伝説の勇者公認のカップルになった。ハチは聞きにくいことだが1番知りたいことをナナナナに聞いた。


「ジュウイチは元気か?」

「おばあちゃん? 元気にピンピンしてますよ。」

「よかった。」

「ハチさん。」


ハチは物思いにふける。ジュウイチのことを一心に考え懐かしく思っているのだ。歳を重ねたからだろうか、ハチは涙を流す。


「当時わしはジュウイチと付き合っとったんじゃが、王命で一般成人男子はみんな集められてしまったんじゃ。なんやかんやで勇者候補生になってしまい、成り行きでポンジャ姫と一緒に闇の世界に行くことになってしまった。心残りはジュウイチのことだけだった。」


後悔? 謝罪? ハチの言葉には会いたかったが会えなかったジュウイチへの想いも、長い年月を重ね深い言葉になっていた。


「ありがとう。おかげでこの世界のこともよくわかったよ。」

「どういたしまして。」

「わしはこれからモヤイ像を守りに行く。」

「私も行きます。ハチハチの元に帰ります。」


ハチとナナナナは闇の空間から人間界に帰って行く。お互いの守りたい世界には、好きな人が待っているのだから。



ここはポンジャ城。


「何者だ!?」


ポンジャ3世のいる王の間に、次元を超えて侵入者たちが現れる。ポンジャ3世に協力を求めに来た、コウとナーの2人だ。


「魔物か。」


コウとナーの額には第3の瞳があった。第3の瞳は魔物の証である。しかし人間の王であるはずのポンジャ3世は第3の瞳を見ても驚かない。


「あなたも魔物でしょ。」

「なに!? なぜ、それを知っている。事と次第によっては生かしては返さんぞ!」


対峙するコウとポンジャ3世。この冷淡にしゃべる若者は何者なのか、なぜ自分の正体を知っているのか、謎だけであった。


「やめなさい!」


ただでさえ邪悪なる闇が復活するまで時間がないのに、ナーにとってはくだらない親子ゲンカに見えた。


「ナー!?」

「なんだ!? 女!?」


急に大声をあげたナーに視線が集まる。ナーは無駄な時間を使いたくないのあっさりと本題を話す。


「ポンジャ3世! コウはあなたの息子よ!」

「息子!?」

「私たちは未来から世界を救うために、この世界にやって来たの!」

「未来からやって来ただと!?」

「あなたの力が必要なのよ! どうか私たちを助けてください!」

「むむむ!?」


ナーの怒涛の発言にさすがのポンジャ3世も戸惑ってしまう。冷静なポンジャ3世はフルスピードで新しい情報を頭の中で処理していく。


「なに好き勝手に言ってるんだ!?」

「この方が早いでしょう!」


ナーのカミングアウトにコウは気まずそうだった。確かに親子といえば親子なのだが、正確に言えばおじいちゃんと孫のような。


「本当に息子なのか?」

「これでも僕は普通にポンジャ5世だ。」

「ポンジャ5世?」

「あなたたちはややこしいのよ!」

「もう少し詳しく話してもらおうか。私はまだ結婚もしていないから、子供がいるはずも無いのだがな。」

「話したら協力してくれるのか?」

「話を聞いてから決める。」

(これが闇の父か・・・。)


これが僕に闇の力を与えてくれた闇の父。幼いころから接してきたとはいえ、ハチハチの体に闇の意志だけの時と違い、ポンジャ3世は国王としての威厳に満ちていた。コウはポンジャ3世をカッコイイと直感で感じた。


「コウのお父さん。あなたはこの世界を救えません。」

「どうしてだ?」

「邪悪なる闇が復活しようとしています。100年前の世界で闇は魔王モヤイを呑み込んでその力を自分のものにしました。その力を使って出現させたのが、暗黒のモヤイ像です。」

「だから、私は暗黒のモヤイ像を破壊するために兵士を派遣した。」

「そこが間違いです! 全ての暗黒のモヤイ像が破壊されると、邪悪なる闇が復活し、邪悪なる者ヨヨヨヨヨンになり世界は闇の蔦で覆われてしまうのです。」

「邪悪なる者とはなんだ?」

「この世界の元凶です。人間でもなく、魔物でもなく、いつどこで生まれたのかもわかりません。」


ポンジャ3世は自分の息子だというコウを見つめる。魔物であるはずのポンジャ3世だが人間のような騎士道精神を持っており、コウの目を見て、この者は嘘をついていないと信じる。


「わかった。兵士たちに暗黒のモヤイ像の破壊ではなく、死守を命じよう。」

「ありがとうございます。」


ポンジャ3世は兵士を呼び、直ぐに暗黒のモヤイ像へ向かっている部隊に新しい王命を届けるように伝えた。コウとナーはこれで少しは破滅に進む運命が変わるかもしれないと喜び安堵する。


「次はこちらの番だ。」

「え?」

「私はどうやって息子を得ることができるのか知りたい。」

「そ、それは・・・。」

「どうしよう?」

「どうした? 言うことができないのか?」

「それは・・・。」

「あなたは死んでしまいます。」

「ん!?」

「あなたはこの世界で伝説の勇者ハチとその孫のハチハチと戦って敗れて死にます。」

「死んでしまっては、子供を得ることはできないではないか!?」

「敗れたあなたは闇の意志となり、ハチハチの体に憑りつくんです。そしてハチハチをポンジャ4世に仕立て上げ、妹のポン姫と結婚させます。そして、生まれたのがコウです。コウはあなたとハチハチの2人の父親を持つことになりました。」


ポンジャ3世は自分のこれから辿る人生を聞く。これも運命なのだろうと受け入れる。それどころか自分の運命らしいとクスッと笑顔を見せるのである。


「私は数奇な運命を辿るのだな。」

「驚かないんですか?」

「国王だからか、魔物だからかか分からないが、子供の頃から様々な出来事を経験しているので、これといって驚くことがなくなった。」

「子供の頃?」

「私は、父親を殺した。」

「ええ!?」


驚くコウとナー。ポンジャ3世は父親であるポンジャ2世を殺したというのだ。いったいポンジャ3世の幼少期に何があったのだろうか?


「言ったはずだ。私がどうやって子供を持つことができたのか知りたいな。私はもう誰も愛さないと決めている。」

「え?」


ポンジャ3世の過去に何があったのだろう。ポンジャ3世は懐かしそうに自分の生い立ちを語る。



ここは過去のポンジャ城。


「うわ~い!」

「王子様! 走らないでください!」


お城の廊下を走り回る無邪気な子供がいる。これがポンジャ3世である。そして

王子の世話をする侍女がいた。侍女の名前はアルテ。


「捕まえれるものなら捕まえてみろ!」

「待ってください! 王子様! あ!?」

「イタッ!? 痛いだ・・・父上!?」


ポンジャ3世が走り回っていると父親であるポンジャ2世とぶつかってしまった。王子と侍女は不機嫌そうなポンジャ2世に恐怖を感じる。


「廊下を走るな! おまえは王子なのだぞ!」

「すいません、父上。」

「侍女は侍女らしく王子の世話をしろ!」

「申し訳ありません、王様。」


怒るだけ怒るとポンジャ2世は去って行った。怒られたはずのポンジャ3世とアルテは目と目を見つめて笑い出す。


「ハハハハハ!」

「怒られちゃいましたね。ハハハハハ!」

「気にしない。ハハハハハ!」

「ハハハハハ!」


幼少期のポンジャ3世は毎日を楽しく暮らしていた。これも侍女のアルテが天真爛漫で無邪気に明るい性格だったからだろう。



しかし、ある雷鳴が鳴り響く日の夜に事件は起こった。


「ち、父上!? 何をしているのですか!?」


父親が何かを食べていた。父親の口の周りには血がついていた。暗闇が稲光で一瞬だけ明るくなる。そして父親が食べていたのは侍女アルテだった。


「アルテ!?」

「お・・・お・・・王子様。」


薄れゆく意識の中で手を王子に向けて伸ばすアルテ。しかし、その手も力無く落ちていく。


「やめて下さい!? 父上!?」

「魔物が人間を食べて何が悪い?」

「魔物?」

「私の子なのだから、息子であるおまえも魔物に決まっているじゃないか。」

「私が魔物?」


目の前で大好きなアルテが実の父親に殺された。そして自分もその魔物の血を引いている魔物と知らされる。悲しみと真実の狭間でポンジャ3世の人間として暮らしてきた心が音を立てて壊れていく。


「おまえも食うか?」


父親の魔物としての一言。自分もこの父親の血が流れている。ポンジャ3世は立ち尽くすしかない。


「うわあああああ!?」


そして、壊れた。ポンジャ3世はアルテを食べている父親に襲い掛かる。姿は化け物のように変化していく。ポンジャ3世は自分が魔物だという自覚はなかった。怒りがこみ上げて自然と力を欲したのだ。


「ギャア!?」


あっという間だった。ポンジャ3世は父親であるポンジャ2世を殺した。それでも愛する人を失った怒りや悲しみといった感情を抑えることができず、ポンジャ3世は魔物の姿のまま暴れまくる。


「王子様。」

「ガガガ!?」


辺りに優しい光が放たれ、女性の声が聞こえる。魔物となり人間の心を無くしたはずのポンジャ3世の動きが止まる。その声の主が霊として姿を現すとアルテだった。


「王子様。暴れるのはやめて下さい。」

「ガガガ!?」

「私は王子様のお世話ができて幸せでした。」

「ガガガ・・・。」


魔物が泣いている。魔物となったポンジャ3世が泣いている。どんな姿になってもアルテの声だけはポンジャ3世に届くのだった。


「私はいつでも王子様の心の中にいます。」

「・・・。」

「優しい王子様でいてくださいね。私の大好きな王子様。」


そういうと侍女アルテの霊は天に召されていった。アルテの声を聞いて殺意や怒りの感情が収まったポンジャ3世は魔物の姿から人間の姿に戻っていく。


「アルテ・・・アルテ!!!!!!!!」


両膝を床に着き愛した人間の名前を魔物が叫ぶ。もしかしたら最初から愛する権利すらなかったのかもしれない。自分は魔物なのに狂いそうなほど、壊れそうなほど人間のことを考えている。


「うわあああああ!」


こうしてポンジャ3世は失ってしまうのなら誰も愛さないと決めた。それでもアルテを思ってか人間のことを考える英雄王に成長していくのだった。


ポンジャ3世の過去の回想、終わる。



再びポンジャ城。


「それで魔物なのに人間を助けてくれているのね。」


ポンジャ3世の昔話を聞いたナーは、どことなくポンジャ3世の人間らしさが理解できた。よっぽど侍女のアルテのことが好きだったということが伝わってくる。


「でも変だ!?」

「何がよ?」

「それならどうして父上は魔物になり、邪念となりポンジャ4世の体を借りて、僕の父上になる必要があったんだ!? もし人間のことを思っているなら、そんなことはしないはずじゃないか!?」

「そう言われてみれば・・・。」


人間に感化されたポンジャ3世が邪念としてでも存在を残そうとしたことが不思議なのである。この威風堂々としているポンジャ3世からは生への執着は感じられない。それどころか裏腹に、どこか寂しそうでもある。


「それが私の運命なのだろう。」

「運命?」

「私はこれから魔物になり、ハチハチという若者と戦い負ける。そして邪念になり生き続け、おまえの父親として闇の力を使えるように教育する。そうしなければ、おまえは闇の力を使うことはできない。ということだろう。」

「父上。」

「息子に闇の力を教えて朽ち果てるなら、私は本望だ。」


清々しい表情を見せるポンジャ3世。今から起こる出来事を知ってしまったが、目の前の息子のために少しだけ、少しだけ運命を変えてやろうと愉快に思い立った。


「おまえたちは過去に行け。」

「過去?」

「ポンジャ1世の死ぬ間際に闇のお話を聞いたことがある。おじい様なら闇の正体を知っているのかもしれない。」

「ポンジャ1世が闇の正体を!?」

「でも暗黒のモヤイ像を守らないと!?」

「この世界のことは私に任せろ。」

「父上・・・。」

「父の言うことが信じられないのか?」

「・・・わかりました。父上、過去の世界に行ってきます。」

「それでいい。ナーとやら、息子のことを頼む。」

「はい。ポンジャ3世。」


こうしてコウとナーは過去の世界。ポンジャ1世が生きている世界に時を超えて向かうことになった。果たして邪悪なる者ヨヨヨヨヨンの前身である邪悪なる闇とはいったい何者なのだろうか。


つづく。

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