第116話 馬防丸太
ヨハネは、何度も馬へ鞭を当てた。箱馬車は
街から北の山脈へ向かう街道を馬車は軽々と走った。
ここは数年前、ヨハネが人足として駆り出され、
このまま、距離を取って道端に馬車を停めてから、メグを連れて
馬の悲鳴とヨハネのうめき声が
なぜ丸太が置いてあったのだろうか、そう考えて彼は道の先を見た。道には細い丸太が道を半分塞ぐように互い違いに斜めにして置かれていた。その数は十本ほどだろうか。夜、不審な馬車が速度を出してこの道を駆け抜けないように門番の兵士たちが行っている工夫に違いなかった。
メグは?
ヨハネは痛む体を引きずるように倒れた馬車に近づいた。折れた車軸の破片が周囲に飛び散っていた。馬は馬具を付けたまま路上に倒れ、必死に立ち上がろうとしていた。彼は自分の首を探って鍵を探した。幸いにも失くしていなかった。倒れた馬車の扉を鍵で開けた。中からは
「……なに? なにが起こったの?」
「罠だ。馬車用の罠が道に仕掛けてあった。大丈夫か? ケガはないか?」
横になった馬車の中から、ヨハネはメグの手を掴み引きずり出して立たせた。
「頭を打っちゃった」
「見せて」
ヨハネはそう言うと、薄闇の中、メグの髪をかき分けて頭を探った。頭の右横が少し
「大丈夫。少し
「馬は?」
「馬具を外している時間はない。それに馬はおそらく足を折っているだろう」
「いたぞ! 減速用の丸太に引っかかりやがった! 捕まえろ!」そう叫びながら、数人の兵士たちが松明を持って走り寄って来た。
「メグ! 走れ。あの丘の中腹にある街の光が
「あなたはどうするの?」
「ここで時間を稼いでから、君に追いつく」
「そんなことできるわけないでしょ! あんなに大人数が追いかけて来るのよ!」
「いいから走れ! 裁ちばさみは持ってるな? 何かあったら、あれをナイフ代わりに使え。走れ! 走れ! 走れ!」
そう言うと彼はメグの背中を突き飛ばした。メグは走り出した。途中何度か振り返りながら走り続けて、やがて薄闇の中、彼女の姿は見えなくなった。
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