第102話 呪いの言葉
ヨハネは促されるままに、入り口から教会に入った。
中は、百人近くの人が入れるほど広い石造りの広間で、柱頭に支えられたアーチ型の高い天井に覆われていた。赤い身廊の左右に幾つもの木の椅子が置かれ、身なりの良い男女が座っていた。両側の壁にはそれぞれ七枚、計十四枚の絵が架けられていた。部屋の奥にはキリスト像の付いた十字架が据え付けられていた。
ヨハネは居心地の悪さを感じて、部屋のすみに立った。
やがて黒い
「我が兄弟、我が姉妹、我がはらからよ。そして良きキリスト者たちよ。よくこの日に集まりました」
そう言うとセプールベダは右手を高く上げた。聴衆たちしばらく騒めいていたが。やがてその右手に目線を合わせ、静かに意識をその男に集中した。
彼は話し始めた。
「神の教えを知らぬ蛮族と木石を拝む
そう言うとセプールベダは右手を降ろして胸の前で組むとしばらく時間をおいてまた話し始めた。
「我が兄弟姉妹たちよ、この島の自然を見なさい。この島の力強い木々に覆われた山の美しさを。太陽のもと光り輝く
彼はそこまで言うと一息ついてまた話し始めた。
「みなが良きキリスト者であるためには、良き家庭を築き上げなければならない。街も、国も、そして世界も、家庭と同じ人の集まりである。そして世界はキリストの体そのものであり、キリストの体こそが世界である。みな心しなさい。すべての共同体は極めて簡潔な原理から成り立っている。対になるたった二つのものである。すなわち、子供を持つための男と女、世を繋ぐ親と子、そしてより良き国を保つための奴隷主と奴隷である。これらは心を使いこの世の行く末を
セプールベダがここまで話すと聴衆たちはざわつき始めた。彼はそれを予期していたように笑顔を作って話を続けた。
「お前たちが私の話に異議を持つだろうと考えていた。だが私の話を聞きなさい。全知全能の存在がこの世を完璧にお造りになった。その中で、男女、親子、奴隷主と奴隷が存在する。この支配と被支配が存在する事実は正しい世のあり方であろうか。それは神が造り給いしこの世をよく見れば判るはずである。
セプールベダは両手をドームの天井に上げて話し続けた。
「先日、ある兄弟姉妹からこのような問いかけを受けました。『戦争や暴力によって奴隷になった者はどうでしょうか。あまりに哀れではありませんか』と。私はこの人物の心の
セプールベダは手を降ろして胸の前に組むと、話を続けた。
「この国を例えに使いましょう。この国に住んでいたワクワクたちは、文明を知らず、泥と汚物にまみれて暮らす未開の存在で、
そこまで聞くとヨハネはそっと教会を出た。教会に響き渡っていた美しい音楽と、そのあと語られた話の奇怪さが、彼の体の中でぶつかり、得も言われぬ違和感として腹の底に沈殿した。彼は作業場の隅まで小走りすると、土の上に白い反吐を流した。
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