第65話 肉と魚
二人は入り口前で物売りたちの客引きを振り切りながら急ごしらえの市場の門をくぐった。
市場は小さな街のように造られていた。門の内側は半円の広場になっていた。そこから伸びる中央通りには馬車がすれ違える程の大通りがあり、その左右に急ごしらえの店舗が作られていた。門から見て右手が家畜の肉を扱う店の列であり、左手が海産物を扱う店の列だった。
広場では二つの見世物が行われていた。
右手では、何十人もの人間が大きな
「さあ、早い者勝ちだ。最高の豚肉だ。こんな上物二度と出ないぞ。一切れ良銭五枚だ」
肉屋がと叫ぶと、見物していた客たちは先を争って、肉を買い求めた。二人の肉屋は小分け用のナイフで猪の肉を小さく切り刻むと、藁紙に包んで客の次々と手渡し、代わりに良銭を受け取った。その銭は二人の足元にある大きな木箱に投げ込まれたが、すぐに一杯になり、別の木箱が持ってこられた。
ある女が肉を買おうと銭を差し出した。
「おっと、ビタ銭はお断りだよ」
肉屋の男は断った。
「これしか持ってないんだよ」
「じゃあ、ビタ銭八枚だ」
女はしぶしぶ八枚払って肉を受け取った。
「さあさ、皆さんできるだけ良銭でお願いするよ」
男は叫んだ。
肉はその後も飛ぶように売れ、最後には豚の頭だけが残った。
左手でも多くの人が垣根を作っていた。
左列一番手前の魚屋の前には、横長の大きな台が置かれ、その上には、はらわたを抜かれた大きな
二人の男が
さらに魚屋たちは、
見物人たちは興奮して、口笛を鳴らしたり、囃し立てたりしたが、初老の男がガラガラ声で叫んだ。
「はい、はい、どんどん買ってくれ。一切れ良銭四枚だ。ビタ銭なら六枚だよ。ビタ銭なら割り増しなんてケチな事は言わねえよ。買ってくれ、買ってくれ」
観客たちは我先にと手を伸ばした。
「銭はそこの大かごに投げ込んでくれ。俺はエル・デルタ生まれのエル・デルタ育ち。この街のお客を信じてるから、いちいち銭の確認なんかしないよ。向かいの肉屋と違ってねえ」
魚の切れは藁紙に包まれて次々と手渡され、銭が大かごに投げ入れられる音はまるで銭の雨が降っているようだった。
魚肉が消えるまで長い時間はかからなかった。入り口の広場には猪の首と鮪の首が残った。
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