第63話 屋台とクズ肉

 次の日、まだ夜が明けきらぬ時間から二人は肩を並べて大通りを歩いた。

 ペテロはヨハネより少し背が高く、体格もがっちりしていた。トマスの広い肩幅と金色の髪を見る度に、ヨハネは軽い劣等感を憶えた。


 周囲はまだ薄暗かったが、すでに馬車が走り始め、市場へと向か老若男女が二人と同じ方向に歩いていた。その人々たちに朝食を売ろうとたくさんの屋台が通りの両側に止まっていた。


「兄さんたち。朝飯にどうだい」

 屋台の男が二人に声を掛けた。その男は二枚の大きなパンにくず肉を大量に挟んだ奇妙な料理を売っていた。

「パンは焼き立て! 肉も新鮮! 試してみてよ」

「いくら?」

 ペテロが訊いた。

「ビタ銭なら五枚! 良銭りょうせんなら三枚!」

「よし! 買った!」

 ペテロは縄に通した銭束から良銭りょうせん六枚引き抜くと、その男に渡した。

「有難うございます」


 お礼を言いながら、その男は二人に藁紙わらがみに包まれたくず肉パンを手渡した。

 ペテロは歩きながらそれに齧り付いた。二口ふたくちでそれを呑み込んでしまうと言った。

「思ったよりうまいぞ。お前も食っちまえよ」

 ヨハネはそのパンと肉を観察しながら言った。

「パンは黒パンだ。たぶん市参事会しさんじかいのパンを作ってる所と同じ店が作ってるんだな。肉は何の肉だろ」

「そんな事考えてないで、食っちまえよ。うまいぞ」

「ああ」


 ヨハネはその料理をひと齧りしてみた。パンは市参事会しさんじかいでもらった事のあるパンと同じだったが、肉はおそらく、猪か豚の肉だった。しかし細切れになった肉を丸めて固めてある所を考えると、どこかの肉屋か飯屋から肉の切れ端をタダ同然の値で買ってくるのだろう、とヨハネは思った。

「ペテロ、三枚返すよ」

 ヨハネが自分の銭縄から良銭りょうせんを三枚引き抜いて渡そうとした。

「いいよ。おごりだ。なんせ偵察料が出たからな」

 銭縄を見せびらかしながら言った。


良銭りょうせんばかりじゃないか!」

 ヨハネは驚いた。今、流通している硬貨はビタ銭と良銭が半々くらいだが、ビタ銭は良銭の六割程度の価値しかなかった。

「すごいだろ?それにこんなものもある」


 ペテロはふところから紙を取り出して、ヨハネに渡した。その分厚い紙で作られた紙幣のようなものは数字とアルファベットで何かが書かれていた。

「これは?」

「これが金の代わりになるんだぜ」

「ほんとかな。お前騙されたんじゃないの?」

「そんな事ない。東インドじゃ当たり前のように使われてた。市場に行ってみれば分かるさ」

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