第62話 嫉妬と友情

 ペテロは表で待っていた。

「ヨハネ。お前何をかれたんだ?」

 少し不安そうにペテロは聞いた。

「今後、どんな商品を扱うべきか聞かれたんだよ」

「それだけ?」

「それだけだよ」

「そうか。それにしてもなんで俺を先に部屋から出したんだろう。カピタンをお前が俺に聞かれちゃ困るような話でもしてるのかと思ったぜ」

「そんな事ありはしないよ。カピタンが何をお考えになっているかなんて分からないよ」

「そりゃあ、そうかもしれないけど……」

 ペテロは不安そうに言った。そして詰問調きつもんちょうでヨハネに尋ねた。

「そう言えばお前、奉公人頭になったのか?」

「ああ、五か月前だよ」

「五年前に北から売られてきたお前が出世したな」


 ペテロは笑顔だったが、声に明らかな嫉妬の色が混じっていた。

「五年前のヨハネちゃんは、夜中に奉公人部屋でグズグズ泣いてたじゃないか」

 ペテロはからかった。ペテロはヨハネより一つ年上だったのだ。

「そんな事あったっけ?」

「忘れたふりしても無駄だぞ。俺はちゃんと憶えてるんだからな」

「その話はもういいよ。ペテロだってガレオン船に乗せられて、東インドまで斥候せっこうに行かされたんだろ。期待されている証拠だよ。個室までもらったじゃないか。」

「そうだな。期待してない奉公人にわざわざ金を使って遠くまでやるのはそう言う事だよな」


 ペテロは笑顔で話し続けた。

「東インドは戦争と貿易ですさまじい活気だぞ。明日の朝、朝市に行かないか。東インド帰りの商品をたくさん見られるはずだ。面白いぞ」

「ああ分かった。そうしよう」

 ヨハネがそう答えると、ペテロは階段を落ちるように駆け降りて行った。

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