第48話 成人

 ヨハネは周りの人たちに助けられ、十五才になった。十五は、ワクワクたちの習慣で成人の年だ。

「あなたに大人用の服を作ってあげるわ」

 そう言うと、織物と縫物の得意な近所のお姉さんが麻の布でズボンと蕃服の上着を作ってくれた。子供用の服と違ってゆったりとしたその服を着たヨハネは、自分の年を実感した。ヨハネは服の代わりに一か月間、毎日そのお姉さんにひと月の間、魚を一匹、届けると約束した。


「ぼくはもう大人だから、タダで貰えないよ」

 ヨハネはそう言って釣りに出かけては、必ず二匹以上の魚を釣り上げ、一匹を自分で食べ、残りをその娘の元へ持って行った。

 その娘は、一人の若者と遠くで暮らしていたが、しばらくして親の元へ帰ってきた。家には居づらいらしく、仕事用の小屋にいることが多かった。

ヨハネはその日連れた一番大きな魚を彼女の元へ持って行った。一匹も釣れない日は謝りに行った。どんな時もその娘は、笑顔で彼を迎えてくれた。


 ある日、ヨハネは大きな鯉を釣り上げた。それを持って彼女の元へ行った。彼女はいつものように、仕事用の小屋で火を焚き、その近くに座って仕事をしていた。彼女はヨハネの土産を見て、声を上げて喜んだ。彼も彼女の喜びをわがことのように喜んだ。その拍子に、彼は子供の頃、母親にしたように寝転がってその頭を彼女の膝の上に載せた。彼女は笑った。

 しかし彼女はいつものように作業着ではなく、前で襟を合わす蕃服を着ていた。彼女の膝が割れ、白い太ももの間にヨハネの頭が入った。甘い匂いが彼の鼻孔に満ちた。柔らかい内ももの肌がヨハネの頬に触れた。彼女は少し驚いた表情をしたが、暫くして艶っぽく笑った。

 ふたりはそのまま見つめ合っていた。

 ヨハネは全身を固くしながら、手を伸ばして彼女の襟に手を伸ばした。彼女の服の下にある柔らかで豊かな肉付きが彼の目に入った。彼女は顔を少し横にそらして困った様に目線を外に流した。

 ヨハネはもう一度手を伸ばして手のひらでその肉に触れた。彼女は座ったまま少しも動かずに、ヨハネの手の甲を掴むと自分の胸に押し付けた。


 ひと時の時間の後、彼女は肩をすぼめながら言った。

「ヨハネ。あなたはもうここへ二度と来てはいけないわ。あなたはもう十分な大人。あなたの歳に近い相手を探しなさい」


 ヨハネは小屋を飛び出ると、二度とそこを訪れることはなかった。

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