第19話 沸き立つ命

 ヨハネは傷だらけになりながら、生垣の中を再び通り抜け、裏路地に立った。元から擦り切れほころびていたヨハネの服は、棘と刃のせいでぼろ布の塊のようになっていた。手も足も顔も傷だらけで、傷口から流れる赤い血が固まって、体のあちこちにこびり付いていた。それでもヨハネは痛みを感じないほど興奮していた。いままで惨めな人生を送ってきたが、この夜、生きる喜びを初めて暗い道で見つけたような気がした。裏路地をゆっくり歩き、そっと奉公人小屋の扉を開けて、自分の寝台にそっと身を横たえた。


 ヨハネは疲労困憊ひろうこんぱいして、今にも眠りに落ちそうだったが、なぜか眠れなかった。


 ティーへの想いだけが原因ではなかった。彼の若い全細胞がその生命力の使いどころを求めて燃えたぎっていた。彼は寝台の上で上体を起こすと、シャツを脱いで半裸になった。寝台の上に胡坐をかき、胸を張ると自分の上半身を指で丁寧に確かめた。痩せて傷だらけだが、若くて健康な肉体だった。その内側では活力が沸き立っていた。だが、それを生かす術を未熟で若いヨハネは知り得なかった。ただただ、彼の若さは体内ではじけ回るだけだった。何かを思いついたようにヨハネは右手の拳で自分の胸をドン、ドンと叩いた。何回も叩き続けた。そうするしか生命力のざわめきを押さえる方法を彼は知らなかった。あまりに強く叩きすぎたために、強くせき込むと、ヨハネはシャツを着なおして、垢と汗にまみれた掛け布にくるまって眠りに落ちた。

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