第16話 戦場に女は
ルドルフは、テーブルの向かい側に座っている弟、アレクセイへと告げた。
「山賊狩りにでもいこうかとおもうんだが」
「ん~?そういえば、北の領主から援軍要請が来てたね。村が荒らされまくってるって」
「やっぱりなあ、体動かさねえとな。それに、軍隊の練度も試したい」
「いってらしゃ~い。手続きと財源はまあ、がんばって」
「え、助けてくんないのかよ。お前得意だろ?書類書くの。めんどくさいからやってくれよ。土産に北方の菓子、買ってきてやるからさ」
「できることと、やりたいかどうかはまたべつだよ~?お菓子だけじゃだめだなあ。名産の金細工あたりも、ほしいなあ。腕飾りがいいな」
「仕方ねえ、それもつけてやる」
コンコン、と部屋の外から扉を叩く音が聞こえた。
「ルドルフ殿下、ゴードンでございます」
「入っていいぞ」
頭をさげて、ゴードンが部屋の中へと足を踏み入れてきた。
「お呼びでしたでしょうか」
ルドルフがゴードンへと命じる。
「おう、今度北へ兵を出すことになってな。ああ、安心しろ盗賊退治だ。それで今、手すきの貴族の子弟どもや、俺に仕えだした者どもの中で、実戦こなせる奴の一覧を作ってほしい。ただ、力はあっても女は入れなくていい」
言葉を聞き終わったゴードンの顔に、疑問が浮かんでいることに気付いたルドルフが問いかける。
「なぜ女を連れて行かないかが理解できないか?」
「はい。不勉強で申し訳ありません」
「戦場ではいざという時には、尖兵や下っ端は見捨てなければいけない。でもそれが女・・・そうだな、前に会ったソフィアやファナあたりであったらお前は見捨てられるか?男なら例外はあれどまあ、殺されるだけで済むだろう。でも女ならそれだけではすまぬだろうな。よりつらい決断になる。普段からも、女がいれば、庇い、守ろうとしてしまうだろう。だから女は前線には出さない。それはお前をはじめ、指令を出す者達を守るためでもある」
ルドルフの言に、アレクセイが悲しそうな目をして付け足す。
「女を兵士として積極的に入れるっていうのもなくはないよ、ミュリツァグロリアがそうだね。でも、女は上手く生き延びたとしても、戦後も悲惨なんだよ。男なら、英雄として良き夫、父として迎え入れられるけれど、女はそうはいかないよ?戦場で、気が立った男たちに囲まれてなにをしてきたんだって罵られて。故郷を追われ、結婚して家庭を持つという道も狭められる。かつての戦友だった男達だって、妻に選ぶのは傷の無い“清楚”な女の子なんだよ」
「そういうわけだ。女には後方のことだけやらせとけって考えなんだよ。俺たちはな。男が多少減っても、女が数居れば子は沢山産まれるが、子を産む母体が減ったら困る」
アレクセイが茶化して口角を歪ませる。
「男は戦で死んで来い、女は夫を持てずとも子を産め。男にも女にも優しくない男女平等国家だね。すばらし~い」
ルドルフと、アレクセイが交わす、いがみ合っているのか仲が良いのかよくわからないやり取りを聞き終えたゴードンは、それでも腑に落ちた様子でうなずく。
「承知いたしました。ご教授いたみいります」
ゴードンが部屋を出ていくと、ルドルフは長椅子に身を投げ出して溜息をついた。
「はあ~あ、めんどくせえ。理屈なんて知るかよ。女なんか戦場に連れていけるわけないだろうが。武者の首をねじ切って捨てるくらいの怪力女ならともかくよお」
「あははっ。兄上にしたらよく考えてるなって感心してたのに。でもわかんないんだよなあ。そもそも兄上が、女にわざわざ魔法覚えさせてるっていうのが」
「別に、なんもねえよ。女と戯れるのもたまには楽しいってだけだ」
「ふう~ん、そう」
アレクセイは、歯を見せてにやにやしながら兄の顔を眺めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます