第4話 極楽にいる女
ルドルフとジョゼフィーヌが”再会”したその晩のこと。
ナタリアがルドルフの部屋を訪れていた。
「ねえ、ルドルフ殿下。お部屋にお邪魔してよろしいかしら」
閉じ切られた扉の向こうからルドルフが答える。
「お断りいたします」
「まあ、いじわる。そんなこと言われたら、余計に入りたくなってしまうわ。この扉、爆裂術式で吹き飛ばしてよろしいかしら」
「すぐ帰ってください」
ルドルフが、白く塗られた木の長椅子の上に真っ赤な”宇宙虎”の毛皮を敷いて座ると、すぐ隣にナタリアが腰を下ろした。
「前に話してくれた、ルドルフが元いた星の神様の話、もっと知りたいわ」
「ああ、
「まあ、ひどいわ」
ナタリアがわざと怒ったような声を出す。
「しかし、これはわたくし個人の考えなのですが。仏には成れずとも、極楽にいるのは女だらけなのではないかとも思います」
「どうして?」
聞きたいわ、といったふうにナタリアがルドルフの方に上半身を寄せ、顔を覗き込む。
「女は大地のようにどっしり構えていれば、それでいい。自分が惚れこんだ、たった一人の男に愛されて。子が育てばもう、それだけで幸せになれる。愛さえ与えておいてやれば、どんな”やさぐれ娘”もすっかり落ち着くというものではありませんか」
ルドルフがナタリアの方へとちらりと顔を向けて話を続ける。
「しかし、男はいくら女を
己の誇りを、
いつまでたっても極楽には行けず、修羅を
「ふふ、そうかもしれないわね。
こまめに女と話を交わしてくれる男の人ならなおよくってよ。
そうだわあ、ルドルフ。いずれわたくしの”シェヘラザード”になってくださいな」
「不敬であるぞ、殺すぞこのクソアマ!」
ルドルフが怒気を含ませた声で唸った。銀髪が揺れ、褐色の眉間が寄る。
「まあ、そのお顔、国王陛下にそっくり。魂の出どころが違っても、やっぱり親子なのね」
「はあ・・・これだから女は」
ルドルフはもう沢山だといったふうに首を振ると、ナタリアに向き直って呟く。
「父上といえば、お
「なあに?のぞき見かしら。子供のくせに、いやらしいのねえ」
「ええ。この身体は楽しみが少ないもので。ともあれ、忠告はしましたからね」
「・・・ねえ、ルドルフ。あなた王位が欲しい?」
「腹を痛めた子の方に王位をやりたいのが母親というものでしょう、その問いには答えられませんね」
「否定しないってことは、王になりたいのね。わたくしを殺したい?」
ナタリアが、ルドルフの耳元に囁く。
「死ねとまでは思いませんが、おとなしくはしていてほしいですね」
全く顔色を変えることなくルドルフが答える。
「王になってどうしたいのかしら?」
「深い意味はありませんよ。どうせなら、王になったほうがモテるし、女性にもデカいものを貢げますからね」
「ふうん。あなた、女にはあまり興味ないのかと思っていたわ」
「そんなことはありません。わたくしは、惚れたお方には頭があがらない男なのです」
見つめ合い、静かに笑いあうルドルフとナタリアの耳に、扉の向こうから女の呼び声が聞こえてきた。
「ルドルフ、ルドルフ。母ですよお~。今夜は、わたくしとお芝居を見に行く予定だったでしょお。早く支度しなさいね~♪」
アジャール国第一王子ルドルフの生母にして、第二王妃メアリがやって来たようだ。
「あら、長居してしまったようね」
ナタリアが立ち上がると、部屋の外へと出ていく。
扉を開いた時に見えたメアリの柔和な顔を、ナタリアは横眼で睨み付けながら去っていく。
メアリはその視線には全く気を留めず、ルドルフに向けて笑顔を向けて、弾んだ声を上げながら部屋の中へと入って来た。
「もう、ルドルフったらあ、女の人にモテモテなんだからあ。さすが、アジャールの真珠と誉れ高き、美しすぎるこの母の息子だわあ」
メアリは、丁寧にカールさせた長い銀髪を自らの真っ白な手首に乗せて持ち上げ、見せつけるようにふわりと揺らした。
そして、紫の布地にピンクのレースを重ね合わせたドレスの裾を摘み、くるりと軽く踊る。
「あ~、はいはい。母上うるわしいうるわしい」
「まあッ。そんなに褒めないで。照れてしまいますわ。さすがわたしのむす・・・」
「何かいいました?それより芝居の約束なんかしておりましたっけ。行きたくありません。この後、人と会う約束あるので」
「もうっ!このおませさん!もう母に、息子の反抗期の切なさを味合わせてしまうつもりなの!?まあいいわ。今日は許してあげる。明日のお昼一緒にケーキ食べましょっ!」
そう言い残すと、メアリはドレスの裾を
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