2月10日

 今日は一日中設計書の作成をしていました。


「課長終わりました!」

「遅いよもう。何手間取ってんだ」

「いえ、なんというか反抗期の息子を持った気分でしたよ。パソコンがね――」

「会話になってないよ! まあいいや。とにかく終わったんだね?」

「はい、共有ファイルの中に入れておきました」

「見直しした?」

「ええ、もうばっちりですよ!(たぶん)」

「ふーん…まあいいや。ご苦労様」


 というわけで、なんとか終わったのですが時計を見たら定時ギリギリでした。

 わずか16枚の設計書を直すのに一日かかってしまったのですが、まあ終わったからいいや。さーて週末週末、ウィークエンド!帰って鬼〇者弐でもやろう――と、俺は帰り支度を始めたのでした。


 ところが!


 できた設計書を何気なく見ていた古賀くんが俺を呼び止めたのです。


「加納、レイアウト間違ってるよ」

「マジですか?!」


 そんなはずはない。ちゃんと見直したはずなのに。

 俺は慌ててシャットダウン仕掛けたパソコンをいじくってファイルを開いたのでした。


「どこですか?」

「ここから下」



 <元の設計書>

 ______


 3.1概要

  ①~~

  ②~~

  ③~~



 <結合後の設計書>

 ______

 3.1概要

  ①~~

  ②~~

  ③~~




 ほんとだ!

 確かにページの始まりが1行開いてなくてはいけないのに、詰まって一番上から始まってしまっています。

 しかも結合してしまったために、これ以降のページ全てが一番上から始まってしまっていたのです。

 何気なく上のページで改行してレイアウト直したつもりが、全てのページに影響してしまうとは!

 これはやばい。


 まずいなあ。もう提出しちゃったよ。

 でもまだ間に合うかもしれません。とりあえず課長に聞いてみましょう。


「課長すいません、あのさっきの設計書なんですけど、客先に提出するのっていつですか?」

「あー、もう提出しちゃったけど」


 既に手遅れでした。

 どうしよう。このままこっそり直して黙っておこうかな。

 修正は楽です。課長の共有ファイルの中の設計書開いて、たった一回エンターボタン押せば直せます。

 あー直したい! こそこそっと直してこのまま家帰りたい!


 しかしやはり黙っておくわけにはいきません。

 確か新人研修の時、部長が「ミスは早いうちに報告しなくてはいけない」と言っていました。

 たとえ些細なミスでも、ばれないだろうと黙っていたら今後大きなミスに発展する可能性があります。


「うーんどうしよう?」

「誠意をみせれば許してくれるんじゃない?」

「わかった謝ろう」


 というわけで、最近ミス続きでかなり言いだしづらかったのですが、課長に報告をしにいったのです。

 そうだ誠意だ! 誠意を見せるんだ! きっと許してくれる!



「課長……」

「なんだよ?」(ベビスターを食いながら)

「そのーなんといいますか、桜の季節ですね」

「まだ咲いてねーよ」

「ワシントンは小さい頃桜の木を切ったけど、素直に謝って誉められたそうです」(遠い目)

「知ってるよ。なんだよはっきり言え、気持ち悪いなあ」

「そのー、大変申し訳ないのですが設計書にミスがありまして」

「嘘、マジ!?」

「ええ、改行を一箇所間違えまして、それ以降のページが全て1行目から始まってます」

「………そうか」

「すいません」

「……まあしょうがない。ミスはつきものだからな。次から気をつけるように」(かなり諦めた感じで)

「ホントすいません」


 というわけで、かなり呆れられた表情をされたのですが、お咎めなしでした。

 ある意味見捨てられたのかもしれませんが、まあいい方向に考えましょう。

 次からは同じミスしないようにしないとなあ。



「で、修正はしたの?」

「あ、いいえ。こっそり直して黙って帰ろうと思ったのですが、まだしてません」

「!?」

「あ――」



 口が滑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る