2月3日

 今日は節分でした。

 うちも豆まきをやるようで、昼仏壇の前を見たら豆がお供えしてありました。

 でもホント行事とかどうでもいい、日曜日なんだから寝かせてほしい。

 こっちは二徹あがりですよコンチクショウ。

 面倒くさかったので俺は我関せずでこたつに入って自室でボケーッとしてたのです。

 そしたらついさっき、母が勢いよく階段を登ってやってきました。


 ズン

 ズン

 ズン

 ズン


 タッタッタッ……ガラガラガラ――


 ドーーン!!


「禎丞! 豆まくぞコノヤロウ!」


 母さんなんでそんな気合入ってるの?

 もうね、あなたイベント好き過ぎ。正直あなたがいれば豆などいらないと思うのですが。

 鬼とか入って来ないと思う。だって、あなたの背中の背筋、鬼の顔そっくりじゃんもう鬼いるじゃん。

 ごめん、それは嘘。

 そんな事どうでもいい。俺は面倒くさい。


「……俺いいよ。こたつから出たくない」

「出ろァ! おまえ年男だろうが! アンタが豆撒きなさい!」

「だるい」

「いいからやれ!」


 と、俺は首根っこを掴まれ、ずるずるとこたつから引きずられて仕方なく豆を撒く係をやらされたのです。


「ちゃんとしっかり『鬼は外、福は内』っていえよ?」

「ええっ!? いうの?」

「当たり前だろうが! 気合入れろ!」

「マジでか! ご近所迷惑なるし、恥ずかしいって!」

「いいからやれっ! あとなぁ、豆は掃除するのがめんどいから、一粒ずつ投げろよ?! 一握りとか投げるなよァ!?」


 そこはセコイの!? じゃあ最初から豆まきやらなければいいと思う。

 ああ、もう恥ずかしい。シャッター開けてご近所さんに向かって大声で叫ぶなんて超恥ずかしい。恥ずかしすぎる。

 子供の時はまあだからできたけど、今は羞恥心が邪魔して無理。


「お、鬼は外……」

「声が小さいモルァ!」

「『モルァ』ってなんですか母さん?」

「いいからもう! もっとこう――もういい貸してみっ!」

「あっ!」

「鬼はぁーそとぉ! アーッハッハッハッハ!」


 何笑ってんの。何がおかしいのかわかりません。

 てか奪うんだったら最初からアンタがやればいいじゃん。



「よし次! 玄関だ!」

「玄関も!? 流石に裏庭はともかく家の前はご近所さんに迷惑じゃ?」

「気にすんな。福を招きいれよ。盛大に招き入れよ」

「こんな一粒ずつ投げてるくせにどんだけ厚かましいんだよ。景気良くなるわけないじゃん」

「黙れヅラッ!」

「ヅラじゃねーよ」


 というわけで、次は玄関に向かったのですが。

 案の定お向かいさんの家は電気が煌々とついていて、なんだか夕食時っぽい。

 超恥ずかしい、絶対声聞こえるし。

 大体こんなへたれな気合で鬼出て行くわけないじゃん。


 もうやめたい。


「……」(ちらり後ろを振り返って母を見る)

「モルァ!」

「お、鬼は外ぉ~~……」

「もっと声大きく!」

「お、鬼は外ぉー!」

「まだまだ小さい! 腹から声出せコノヤロウ!」

「お……」

「……」

「お、お……」

「どうした?」




「鬼はおまえだぁぁぁぁぁぁー!!!」(全ての豆を一気に投げつける)

「モルァァァァー!!!」




 玄関が豆だらけになりました。

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