1月20日

 今日は大学時代同じサークルに所属していた友達(女性)の結婚式だったのです。

 大学卒業してまだ1年も経ってないわけですが、早くも既婚者が生まれたわけです。

 これはめでたい。祝わないわけにはいきません。

 ところが会場についた俺を出迎えたのは仁王立ちをした友人達でした。


「加納、いいところに来た」

「え? 何? 怒ってんの? 俺なんかした?」

「あのね、みんなでお金出し合ってプレゼント買ったでしょ?」

「ああ、うん。え? 俺払ったよ? 何? 怒ってんの?」

「あれを同期代表で加納に渡してもらいたいんだけど」

「ええっ!? 何で俺が!? どうして!? 怒ってんの? 俺なんかした?」

「怒ってねえよ! なんでお前久々に会ったら被害者意識高くなってんだっつの! 黙って渡して来いこのヅラ!」

「ヅラじゃない」


 というわけで何故か成り行きで俺が同期代表としてお祝いの品を贈る事になってしまったわけですよ。

 しかも披露宴の途中にみんなの前で。


「無理無理無理無理! 無理だって! 俺日本語おかしいヨ?」

「大丈夫だ。おまえの日本語が変なのは周知の事実だ。だから何にも話すな。ただ渡せばいい」

「じゃあ、おまえがいけよ柏木」

「いいから頑張れ。普通に渡して帰って来くればいいから。いいか? 余計な事を話すなよ?」

「ええー?!」


 ろくでもない友達を持って俺は幸せだなー、アハハー。

 お前らホント人でなし。覚えてろよコンチクショー。

 でもあれですよ。せっかくのめでたい席だ! いっちょ頑張っちゃうよ!(ヅラを磨きながら)

 そして披露宴は半ばまで進み、いよいよ俺の出番になったわけですよ。


「続きまして新婦の大学の同輩一同より、お祝いのプレゼントを贈りたいと思います」

「……」

「代表として加納様、よろしくお願いします」

「あ、はい」


 そしてみんなが見てる中、俺はプレゼントを抱えて前に出たのですよ。

 大丈夫だ加納禎丞。予行演習は行った。普通に渡せばいいのだよ!

 そう自分に言い聞かせ、俺は新婦に笑顔でプレゼントを渡し、大きく一回お辞儀をしたのでした。

 順調! ここまでは順調! もう予定通り後は帰るだけ。よーし帰るぞ! 俺一生懸命帰るよ!――

 と、回れ右をした時でした。


「ええ、それだけ? 何か一言お願いしますよ」

「えっ!?」


 客席からそんな声が聞こえてきて俺は振り返ったのです。

 見ると新郎側の知人さん達のようでした。

 これは困った。だって無言で帰ってきていいっていうから何にも考えてなかった。


 あっ!? ちょっと待って何あれっ!? 何!?

 ホテルのボーイさんがマイク持って走ってくる!!

 それに何あなた達!? なんでそんな期待のまなざしで俺を見てるの!?


「一言お願いします」

「ええと……ないです」

「そう言わずに」

「ないです」

「いいから言えよヅラ」

「ご、ごめんなさい。わかりました」


 ここまで執拗に言われては仕方がありません。

 もうこうなったらやってやりますよ。新人研修で習ったスピーチの腕前を見せてやるよコノヤロウ! 俺のスピーチで感動の渦を起こしてやるよ!


 吠え面かくなよおまえら!


 と、気合を入れて俺はマイクを受け取ったのでした。


「…………えー」

『…………』

「…………ご結婚おめでとうございます」

『…………』

「……す、末永くお幸せに」

『…………』

「え、えっとね……」

『…………』

「……あ!」

『!?』

「また二人で大学に遊びに来てください!」

「おまえもう卒業しただろ!」





 新婦が即座に突っ込みました。

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