10月14日

 今日は部の先輩が退職なさるという事で送別会があったのです。

 正直俺はその方とほとんどお話をした事がなく、顔もどなたか会うまでわかりませんでした。しかし、例えそうであっても、きちんと礼儀正しく見送るという心構えが大事なのです。

 社会人には。

 うそです。ビール飲みたかったのが一番の理由です。

 というわけで、俺と同僚の古賀くんと会社の先輩3人で仕事帰りに送別会に向かったのでした。

 仕事の関係で30分ほど送れて会場である居酒屋に到着したのですが、そこは既に酔っ払ったおじさん達の巣窟でした。

 はっきり言ってあれです。もう食いモンとか全然残ってない。

 もう腹ペコで到着したのに食いモンとか全然残ってない。


 2回言ってみました。


 言ってもないモンはないです。残ってるのといったら「オムソバ」くらいでした。

 仕方なく俺は席について、前の席の先輩にビールを注ぎ、オムソバをかきこんだのです。

 そしたら直属の上司である部長が久々に話しかけてきました。


「おいヅラ!」

「あ、部長。お疲れ様です。でもヅラじゃない」

「ああ、ちゃんと仕事やってるか?」

「ええ、おかげさまでなんとか」

「そうか、飲んでるか?」

「いや全然、てかさっき着いたばかりなので何も食ってません。腹ペコです」

「そうか、ご苦労さん。じゃあうちのテーブルであまってるからこれやるよ」



 オムソバ



「はあ、どうも。いただきます。」

「それ食い終わったら、ちゃんと退職する先輩に挨拶いけよ」

「ああ、はい」(バクバク)

「はやっ! もう食ってる!」


 実はオムソバ二杯目なのですが、新人なので文句も言ってられません。ありがたく頂きました。

 そして、少し腹が膨れたところで退職される先輩に挨拶に行って来ました。


「先輩。」

「ああ、君は確か新卒の……古賀くん」

「加納です」

「あ、あーっ! ヅラの!」

「ヅラじゃありません」

「ごめん、それじゃ今年年賀状をくれた――」

「出してません。もういいです。とにかく先輩お疲れ様でした。退職してもお元気で。」(ビールを注ぎながら)

「わあ、ありがとう古賀くん」

「加納です」

「加納君」


 あんまり話したことないんだから仕方ないし、まあいいのですが。

 職場でも俺と古賀くんはよく名前を間違えられるのです。なんでだろ。


「ところで加納君、さっき来た所でしょ? お腹減ってる?」

「はい、凄いすいてます」

「君遠慮ないなあ。まあいいやこれ食べていいよ。余ってるからあげる」




 オムソバ




 そんなにオムソバばっか食えるかっての!(もぐもぐ)

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