10月6日

 仕事上パソコンを一日中使っている日が多いです。

 今俺が使っているPCは出向に来たいろんな人が使いまわしているので、当然消耗度が激しくところどころガタが来ています。

 特にひどいのがキーボードです。ctrlとShiftがほとんど利きません。二、三度強く押し捲らないと機能しないのです。

 つまりどういう事かというと、ほとんどのショートカット機能と範囲選択ができなくなるということなのです。

 だからマウスでこう、一々選択してですねー

 右クリックでコピーしてーそんでもってまたマウスで移動して右クリックでペーストしてー

 そんでもってまたマウスを移動してー、で右クリックしてー、同じ項目を100個コピーし――


 できるかぁぁぁーーー!



 こんな事やってたらそれこそコピーだけで日が暮れてしまいます。

 ctrl+Vなら連打でバババババババーっとあっという間にできるのに。

 それこそできる子になれるのに。

 あ、すいません嘘つきました。いやでもあのね、確かに俺は仕事はできないのですが、でもあれですよ。キーボード利かないって結構致命的です。

 気がついたら重要な仕様書の修正のはずが、いつの間にか文章が「vcvcvcvcvcvcv(無理矢理ショートカットを使おうとした痕跡」とかになってしまってたりしてですね、もう何度課長に呆れられた事でしょう。


 でもはっきりいって俺はまだ新人でぺーぺーですし、実績もないので新しいPCに変えてくださいとかも表だって言いづらい。

 というわけで、今日も我慢しながら仕事をしていたのです。


 そしたら課長が呼びました。


「加納先生」

「……先生?」

「仕事です、ちょっとこれやってくんない」

「あ、わかりました。で、なんですこれ?」

「ん? 設計書修正」

「……」

「何その凄く嫌そうな顔。嫌ならいいよ」

「いやあ、あのーなるべくショートカットキーを使わなそうな仕事がいいのですが」

「ないよそんな仕事!」

「そうですか」

「もういいから修正して。今から言う事を直接書いてくれ」

「はい」

「ユーザIDを登録する場合は、メニュー画面を開示してデータを参照し――」



『ユーザIDを登録する場合はメニュー画面を開示してデータを山椒氏』



「……」


 バカかこのPCなんで「山椒」が変換の第一候補に挙がるのでしょうか。

 山椒氏とかいるわけない。



「そこからメニューの中の――」

「ちょ、ちょーっとタイム! すいませんちょっと待ってください」

「えーなに? 早くしてくれよ、時間ないから」


 もー、このバカPCめ手間取らせやがって、チクショウ! こうなったら素早くctrl+Zで元に戻して修正再開しないといけません。



『ユーザIDは画面を山椒氏zzzzzz』



「……」


やべえ山椒氏寝だしたぞ。

もうホントアホか。


「もういい?」

「すいません、もうちょっと」

「まだなのか? なにやってんだよーもー」

「すいません」

「もういい、ちょっとどいて俺がやるから」


 と、課長は俺の席にやってきて指をコキコキ鳴らしながら座ったのでした。はあ、また呆れられてしまいました。やっぱり俺ダメな子だなあ。

 PCにも見放されるなんて――と、ちょっと落胆気味で課長が打っていく姿を俺は見ていたのです。

 が、しかし! 課長に代わったからって、急にPCが調子よくなるわけがありません。


「あれ、なんだよこのキーボード、全然ctrl利かないじゃん。」


 課長は少しイライラしながらctrlキーを連打し始めたのです。これはチャンス! もしかしたら故障に気づいて変えてくれるとか修理とか出してくれるかも。


「そ、そうなんですよ、このキーボードctrlとShift壊れ気味なんですって」

「そうなの、じゃあ加納が仕事ができなかったのはこのキーボードのせいだったのか」

「ええ、まあ」

「調子のんな」

「すいません」

「まあしかし、これは少しガタがきはじめてるなあ」

「でしょー? 新しいのと交換できません? 無理ですかね?」

「ん? ダメ。予算ない」

「……」

「それはおいといてこのIMEおかしいな。なんで変な第一候補出すんだよ」

「ねー、ホントバカですよねー」

「おまえが普段誤変換しまくるからじゃないか?」

「……いやーははは」

「……えっと登録後でも修正は可能――と」(イライラ)




 『登録後でも修正は加納』




「ああーもう! おまえなー!」(ギロ)

「ええー」



 だって俺のPCなんだししょうがないじゃん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る