8月21日

 出向先の課長の字が読めません。


 会議等の発言、重要事項は素早く紙に書いて絶対に忘れないようにしておく必要があります。これは社会人の基本なのです(と新人研修で部長が言っていた)

 しかし、会議にしてもなんにせよ一々丁寧に書いておく時間など職場にはないのです。

 だから各自簡略化された要点だけのメモを取ります。それを後でまとめてファイルに閉じておくわけです。

 なんというか俺はまだぺーぺーの新人なので、先輩や課長が書いた書類や議事録をですね、清書してファイルに閉じたりする係をよくやるのですよ。

 今日も朝課長に設計書の清書を頼まれて早速とりかかったのです。


 しかし課長の字は凄い。伊達にン十年仕事やってません。

 重要点を的確に、素早くメモるために出来上がった最終体型の文字です。達筆すぎます。

 達筆すぎて草書体に見えます。なんていうのバクザン系?

 ただでさえ語尾力がなく日本がおかしい俺は清書にとても時間がかかってしまうのです。

 なのでどうしてもわからない時は、課長が席を立った隙を見計らって先輩方に聞きに行きます。



「すいません先輩」

「なんだよヅラ?」

「ヅラじゃない。課長のメモなんですけど、どうしてもわからない所があってですね」

「またかよ。どれ見せてみろ」

「ほんとすいません。あのですねこの文字なんですけど、俺は『側面』だと思うんですけど、それだと文章がおかしいのですよ。前後と繋がりがなくっちゃうし」

「……これは『債券』だな。どうやったら『側面』と間違えられんだよ?」

「ああーじゃあこれは? 『口頭名札』ですか?」

「……『回答なし』だよ。しっかり見ろ」

「す、すいません」


 さすが先輩方は慣れているようで一発で回答してくれます。

 まあそんなこんなで何とか清書を終え、無事に完成させる事ができたのです(2時間かかった)


「課長。清書終了しました」

「お、ありがとう。俺の字に見にくかったろ? 時間がなくてさ。悪いね」

「いえ、そんな事ないです」

「そう?」

「ええ、アステカ文字解読やってるみたいで楽しいですし」




 口が滑った。

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