エピローグ

 数週間後――

 今日は、金曜日。時刻は、夜の7時を少し過ぎたところだ。

 僕と明日香さんは、今日の仕事を終えて(ちなみに、今日の仕事は、迷子の猫探しだった。明日香さんは、こういう仕事でも、嫌がることなく引き受けるのである――というか、殺人事件のような大きな事件の調査依頼など、そんなに頻繁にあるわけではない。ちなみに、猫は無事に見つけることができた)、そのまま探偵事務所でテレビを見ていた。

 今日の夜7時から、例の、明日菜ちゃんの出演しているドッキリの番組が放送される。

 ちょうどいいタイミングで探偵事務所に帰ってきたので、僕もそのまま明日香さんと一緒に、ここでテレビを見ることにした(本当は、事務所の古いテレビではなく、明日香さんの部屋で見たいところだけど。まあ、明日香さんが部屋に入れてくれることは、現時点ではないだろう)。

 明日菜ちゃんの話では、7時30分頃に出るらしい。スタジオでのオープニングのトークでは、明日菜ちゃんも楽しそうにトークをしていた。

 僕はテレビを見ながら、事件のことを思い返していた(猫探しのことではなく、坂口さんが殺害された事件のことだ)。

 吉岡さんが逮捕されてから数日後に、鞘師警部から聞いた話では、吉岡さんは素直に取り調べに応じているそうだ。

 もともと、坂口さんを殺害するつもりはなかったそうだ。忘れようと思っていたところで、涼子さんの隣の家に偶然引っ越してきたことで、坂口さんの名前を聞き、当時のことを思い出してきて、どうしても許せなくなり、犯行を思いついたそうだ。

 ちなみに、映画の内容を知っていたのは、吉岡さん自身が、映画館で見ていたそうだ。

 涼子さんに、罪をなすりつけようとしたことも、申し訳ないと言っていたそうだ。

 吉岡さんが犯人だったことを知った涼子さんは、とても驚いていた。吉岡さんが、自分を利用して、その罪をなすりつけようとしていたことには、許すことはできないが、吉岡さんの気持ちも分からなくはないと言っていた。

「明宏君。始まるわよ」

 明日香さんの言葉に、僕は顔を上げた。テレビ画面に、明日菜ちゃんが映っていた。

 そのときだった。

 誰かが勢いよく、探偵事務所に駆け込んで来た。

「あっ! やっぱり、見てる!」

「明日菜、どうしたの?」

 と、明日香さんが、驚いて言った。

 探偵事務所に駆け込んで来たのは、明日菜ちゃんだった。

「お姉ちゃん。これは見なくてもいいから、他の番組を見ようよ」

「何よ、いきなり。明日菜が、見てくれって、言ったんじゃない」

 確かに、最初は絶対に見てほしいと、明日菜ちゃんは言っていたけど、その後は見なくてもいいようなことを言っていた。

「見られると、困るようなことでもあるわけ?」

「べ、別に、ないわよ」

「――なるほど。心霊物の、逆ドッキリだったわね。明日菜、あなた、恐怖で泣いちゃったんじゃないの?」

「な、なんで……、私が泣くのよ……」

 図星か――

 明日菜ちゃんは、分かりやすく動揺している。

「泣き叫ぶのを見られるのが、恥ずかしいのね。まあ、今、見なくても、録画しているから、あとで見るけどね」

 犯人が、これくらい分かりやすく動揺してくれたら、事件の解決も早くなるだろうな――と、僕は、明日香さんと明日菜ちゃんのやり取りを見ながら、思ったのだった。

「明宏さん! お姉ちゃんの部屋の録画、止めてきて!」

 明日菜ちゃんの叫び声が、探偵事務所の中に響き渡った――

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探偵、桜井明日香4 わたなべ @watanabe1028

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