3-罪と罪

罪と罪-1

 罪を裁くのは罰ではなく罪だ。


 他人が勝手に宛がった裁きよりも軽く、重く、熱く、冷たく、鈍く、鋭く、罪という十字架は身を焦がす。

 ヴィルヘルム・アレントは自らの全てを貫く十字架の存在を知っているし、そしてそれ故にここにいるのだと分かっている。

 一人きりで部屋に佇み、耳鳴りがするくらいの静寂を感じているとき、それはより顕著に、実体さえ伴って身を引き裂く。

 鼓膜が幾重にも重なった銃声と爆発音を聞き取り、鼻腔が嘔吐する程の硝煙と血臭を嗅ぎ取り、皮膚が肌を擦る砂埃と瓦礫の感覚を、罪に狂った脳に伝達する。

 今正に戦火の中にいるような錯覚に浸かりきれば、あとはもう粘つく血で出来た底なし沼に沈んでいくだけだ。

 銃声と爆発音が自らが率いた兵士達の怨嗟に代わり、硝煙と血の臭いが牢屋の黴臭さに代わり、肌を擦る砂埃と瓦礫の痛みが手首を繋ぐ鉄製の枷の冷たさに代わる。

 夢は見ない。夢に彼等は侵食しない。夢に奴等は干渉しない。夢は罪人を裁かない。

 その代わり、寝ても覚めても何をしてもどこでも何らかの感覚を感じている。

 窓ガラスを雨粒が叩く音さえそれを助長し、更に自分自身の精神をあの時へと引き摺り落とす。

 鼓膜を破らんばかりの悲鳴、滂沱、嗚咽、怒号、糾弾嘲笑怨嗟哄笑絶叫嗤笑、

 断罪。断罪。断罪。

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