第3話 告白

友達も増え、みんなでワイワイすることも多くなり、そのままの関係が続いていた。


ゴールデンウィーク中、僕は長野県と群馬県の境にまたがっている神社を訪れていた。

そこで、恋みくじを発見した僕は、衝動的にそのおみくじを引いた。

当然、恋みくじだから恋愛に関することは多く書いてあるが、すべてを読む前に「告白」の欄を探した。

みつけた「告白」の欄には、

「告白 成功するでしょう」

と書かれていた。

心の中でなにか確信を持つことができた。

おみくじを引いても「吉」「末吉」などだけで一喜一憂していた僕にとって、おみくじの内容がこんなにも精神的に影響を与えると知った瞬間でもあった。

この時から、「いつかは祐奈ちゃんに告白するぞ!」と真剣に思うようになった。


おみくじを引いた2日後、僕は渋谷から地元・横浜に帰るために電車を待っていた。

するとやってきた電車は、1本しかいない特別仕様の車両だった。

物心ついた時から鉄道が好きであり、よく撮ったり乗ったりしていた僕は、車両を見るとすぐに特別車両とわかったし、10両編成の車両のうちの一箇所にハートの書かれている手すりがあることも知っていた。

初めて乗るのでどこにハートの手すりがあるかは知らなかった。

進行方向1番後ろの車両に乗った僕は、目の前にハートの手すりがあるのを見つけた。混雑している車内じゃ写真も撮れないし手すりにつかまることもできない。降りる駅を少し過ぎて終点まで乗った。

終点に着いてから、写真を撮って、手すりを握って、そして改札を一旦出て、発車までに再びその車両に乗って帰った。

ハートとか「いいことがある」とか言われるものに滅相弱かった時期であった。ドクターイエローでも見ていたらもっと信じたかもしれない。


ただ、ここまで自分で恋と自覚したことは初めてで、僕はどうしていいのかわからなかった。

告白と言っても様々な方法があるし、フラれる可能性だって十分にある。いくらおみくじやハートの手すりを信じても、フラれる可能性がなくなったわけではない。むしろ、カッコ良くもないし祐奈ちゃんが見た目を考えたならフラれる可能性の方が大きいのは目に見えていた。そして、せっかく共通趣味で仲良くなれたのに、これでフラれた時に、2人だけでなく周りまでも気まずい空気になってしまうのでは、というのがとても怖かった。そもそも「告白するぞ!」と思ってもそんな勇気は到底なかった。


そして、結局告白もできずに5月も終わってしまった。

「やっぱり俺には告白なんかできないや…」

と諦め掛けていた。

この時、僕と祐奈ちゃんはゲーム機のチャット機能で家に帰った後も話していることが多くなっていた。

部活のこと、学校の愚痴、ボーカロイドやアニメの話、などと話す時間も内容も増えていた。

2人とも夢中で話していて、帰宅後すぐから、気づいたら日付が変わっていることもよくあった。

ただ、話している中で個人的に焦る時もあった。

突然祐奈ちゃんが

「好きな人教えて〜」

って言ってくることが本当に怖かった。

本当のことを言えるわけもなく、テキトーにクラスの女子の名を挙げてはぐらかしていた。


告白するか真剣に悩んでいたある日、放課後に帰る僕と部活に行く祐奈ちゃんと2人で話しながら、昇降口へ向かっていた。

すると、突然祐奈ちゃんが

「好きな人変わってないの?」

と聞いてきて相当焦った。

周りに人が多いのにこんな場所で言えるわけもなく、焦った僕は

「よ、夜ね。チャットで教えてあげる」

と何も考えず言ってしまった。

「夜ね、絶対だよ?」

と祐奈ちゃんに念を押され、無意識に言ってしまったことに気づく。

「え、いや、あの…」

と焦る僕に

「言ったから絶対だからね、嘘つくなよ〜」

と祐奈ちゃんに言われてしまい、完全に終わったなと自負した。

「部活行ってくるね」

「うん、頑張ってね」

と会話を交わした後、祐奈ちゃんが恥ずかしそうに「頑張ってくる!」とちょっとだけ手を振ってくれた。

すごくかわいくみえて、部活に向かって走って行く後ろ姿をついつい見ていてしまった。

それと同時に、

「好きな人聞かれるならもうそのタイミングで告白してしまおう」

と思った。


その日の夜、やっぱりいつも通りチャットで話をしていた。すると、祐奈ちゃんから

「あ、好きな人言うって言ったから教えてよ」

と言われた。

きたな…と思ったが、直接じゃないのにこんなので告白していいのかと悩んだが、今しかないと思いチャットで告白することを個人的に許した。

「ねぇ誰なの〜」

と言われ、完全に覚悟を決めた。

フラれると思いながら告白した。

「祐奈さん、前から好きでした」

とテンプレート通りみたいな告白をした。

いつもならすぐに返信をする祐奈ちゃんが完全に固まったのだろう、5分以上返信がこなかった。

「失敗したな」

と思ってすぐに自分の中で割り切っていたが、6分経ってきた返信には、

「え、う、う、嘘でしょ…?」

と書かれていた。

「嘘じゃない。本気。」

と送ると再び5分以上返信がなかった。

「うちも…前から好きでした」

予想外の返信が来て、むしろこっちが固まって返信できなくなってしまった。

さすがにそれはないと思ってしまい

「さすがに嘘でしょ?」

と聞いたが

「ううん。うちも本気」

と言われて、完全に固まってしまった。

そして、その日は夜も遅かったのでお互いとりあえずチャットをやめて寝ることにした。


翌朝、学校に行くとさっそく男友達に

「お前あいつにこくったの!?」と聞かれた。

チャットは2人だけなのにどこからその話が漏れたんだかわからない。中学生って怖いなと感じた。

「何それ?勝手にデマ流さないでくれよ〜」

なんて笑いながら逃げたが、すぐに広まる羽目になった。

教室に入ると、何も知らない友達と一緒にまたいつも通りの話をし始めた。

すると、祐奈ちゃんや他の女子も会話に参加してきた。

いつも通りの話をしていたが、会話が途切れた時に

「昨日のは本気?嘘じゃないよね?」

って聞かれ、

「本気」

と答えたら、すごい照れて顔を赤くしていた。

こうして僕と祐奈は付き合うことになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る