ばれーぼーる②
「シマちゃん」
礼をして、それぞれが自分の陣地に移動しようとしているとき、声をかけられた。その声は、キリンの声だった。
「シマちゃん、今日は味方同士じゃないけど、楽しもうね!」
キリンは、私に手を伸ばしてそう言った。私も手を出してキリンの手を握り、
「うん!楽しくやろう!でも、負けないよ!!」
笑顔でそう言った。
「こっちだって負けないよ!」
キリンもそう言うと、私達は手を離し、一度ハイタッチをしてから、それぞれの陣地に移動した。
「あ、そういえば、サーブについて教えてなかったね。点が入るたびに鞠を打って相手の陣地の方に鞠を入れてから、試合が再開するんだ。サーブに失敗すると、相手の点になっちゃうから、注意してね。」
試合開始直前、ライオンさんがそう言った。割と大事なことだったように思えたけど、まあ、これもやっていくうちに慣れていくだろう。
そんなこんなで、先攻はヘラジカ軍になった。サーブをするのはシロサイさん。
「行きますわよ!はあっ!」
鞠は私達の陣地めがけてまっすぐに飛んで来た。それを、ツキノワグマさんが難なく受け止めて、ラビラビさんへ。
「シマちゃん、よろしく!」
ラビラビさんはそう言って、私に鞠を飛ばして来た。
昨日の感覚で…!
バシンッ!!
綺麗にきまった。私の打った鞠は、相手の陣地内の地面に叩きつけられた。
「やったあ!まず一点!」
「おー、おみごと!」
「ほお…なかなかやるなあ…やはり、シマは強いな!」
色々なフレンズさんから褒められた気がして、私は嬉しくなった。
1-0
「そうだ、さっき私たちが攻撃した時に、相手がジャンプしてきたように、ああやって相手の攻撃を防ぐこともするから、よろしく!」
ライオンさんからまた大切なことを…まあ、これも慣れていくだろう。
こちらのサーブはツキノワグマさん。綺麗に相手の陣地に飛んで行き、それをシロサイさんが受け止める。そしてハシビロコウさんが鞠を飛ばしたのは…
「はああああああああでやああああああっっ!!!!」
私の目の前にいたヘラジカさんだ。さっき言われたように、私は攻撃を防ごうとジャンプした。けれど、
ズバアアァン!!!
凄まじい威力のヘラジカさんの打った鞠は、私をまるでなんでもなかったかのように、地面に叩きつけられた。
「いたたた…」
ヘラジカさんの鞠が当たった手は、じんじんと痛んだ。
「いやあ、よくやったよ。ヘラジカのパワーはすごいからね。何人かで同時にジャンプして、壁を厚くして注意しなくちゃだね。」
ライオンさんは私にそう言った。
1-1
サーブはキリン。
「行くよ!えいっ!…って、あれれ?」
キリンのサーブは、網にひっかかってしまった。こういう場合は、もう一度だけサーブをするようだ。
「二度目の正直!えいっ!」
ぽーんと打たれた鞠はゆっくり飛んできた。あまりにゆっくりで、逆に受け止めにくそうだった。
「あー、ラビラビごめん!」
ゆっくりな鞠をツキノワグマさんがちゃんと受け止めるのを損ねて、ひょろひょろとラビラビさんの方に飛んでいった。
「ううっ、オーロックス、お願い!」
なんとかオーロックスさんに鞠を飛ばし、攻撃するも、シロサイさんに綺麗に受け止められてしまった。そして、ハシビロコウさんから、またヘラジカさんへ。私とラビラビさんで壁を作ったが、それも貫通。後ろにいたオーロックスさんがそれを受け止めようとしたけれど、受け止めきれなかった。
1-2
またもキリンのゆっくりなサーブ。今度はうまく受け止められて、ラビラビさんにしっかりと鞠が運ばれた。
「大将、任せました!」
「おう!いくぞ!!」
ドスのきいた声でライオンさんが答える。これは凄まじい威力の予感…!
「えいっ」
ちょんっ
ライオンさんの打った鞠は、予想に反してとてもとても弱いものだった。けれど、逆に、強い攻撃に備えていた相手は、その弱い攻撃に対応できずだった。鞠はへにょへにょな軌道を描いて地面にぽとんと落ちた。
「こういう攻撃もあるのか…バレーボール、深いですね…」
一人、関心する私であった。
2-2
サーブはライオンさん。またさっきみたいな、キリンのようなサーブをするのかなと思っていた。けれど、ライオンさんは鞠を高くあげ、ジャンプしてサーブを打った。
ヒュンッ
音を立てて力強いサーブは相手の陣地に落ちた。
「す、すごい…」
私は唖然するしかなかった。
「流石です!」
「流石、大将!」
「いや〜、それほどでも〜、あるんだけどね〜。」
ライオンさんは昨日は怠けてばかりだったけれど、やっぱり大将、すごいフレンズさんなんだと改めて実感した。
その後も、ライオンさんの強烈なサーブは点を重ねていった。
5-2
陣地の前の方にいた私は、なにか相手に違和感を覚えた。けれど、それがなんなのか、特にはわからなかった。
そんな中、ライオンさんのサーブはついに、シロサイさんに受け止められてしまった。
「やりましたわ!さあ、お願いします!」
そのまま鞠はハシビロコウさんへ。私とラビラビさん、オーロックスさんは、ヘラジカさんの目の前に立ちはだかり、いつでも守ることができる体勢だった。
「くるぞ!せーの!」
オーロックスさんの掛け声で一斉にジャンプをした。すると、その瞬間だった。ハシビロコウさんは、ヘラジカさんとは反対方向、誰もいない方へ鞠を飛ばした。どうしたんだろうか?まあこっちの点になるからと、私は安心していた。
バシンッ!!
すると、何もないところから鞠が打たれ、理解が追いつく前に地面に鞠が転がった。
その時、私は気が付いた。さっき感じた違和感の正体を。そう、相手が四人しかいないのである。
「カメレオンさんがいない!!」
私は気付いたことをすぐに声に出した。
「なるほど…透明化したカメレオンの攻撃…相当厄介だね…」
ラビラビさんがすぐに分析した。
「いかにも!拙者の力、味わうでござるよ…」
どこからか、カメレオンさんの声が聞こえてきた。どうやら、カメレオンさんは透明になれるらしい。見えない相手をどう対処すればいいのだろうか…
その後も、シロサイさんに守られてからのヘラジカさんの猛攻、カメレオンさんの予測できない攻撃により、どんどん点を取られていった。
5-8
相手のペースで合戦は進んでいた。早めに点を取らなければ…
「そうだ、みなさん、こういうのはどうですか?」
私は、ある作戦を提案した。
「なるほど…面白いこと考えつくなあ!」
「いいね。やってみよう。」
「私の責任が結構大きそうだけど…まあ、頑張るよ。」
私の作戦は受け入れられたようだ。
ハシビロコウさんのサーブが飛んでくる。後ろの方にいた私がそれを受け止めて、ラビラビさんに回す。ここからが、私の考えた作戦だ。
「全員、ラビラビさんから自分に鞠が飛んでくると思って跳ぶんです。あとは、ラビラビさんに、誰に攻撃してもらうのがいいか判断してもらうんです。大丈夫ですか?」
四人が一斉に助走をつけて前の方に向かってきているため、相手は戸惑っているようだった。さらに、全員に壁を作ることは難しい。だから、どこかに必ず穴があるはず。その穴を狙うのがこの作戦だ。
「よし、いくよ。それっ!」
ラビラビさんが飛ばした鞠は、目の前に誰もいなかった、私の方だった。そのまま思いっきり腕を振り下ろして、点を…
バシッ!!
私の手から出た音とはこれまた違う音が響いた。そして、何もない場所で鞠の軌道は変わった。
「痛いでござる!!」
何もないはずのところから声がした。またしてもカメレオンさんに一本取られてしまった。けれど、攻撃を防ぎきれず、カメレオンさんに当たった鞠はそのまま遠くへ飛んでいき、戦場の外に放り出された。
「やったあ!上手くいった!!」
喜びで私は声をあげた。ライオン軍のみなさんも喜んでくれた。
「これで相手の勢いは抑えられたね。よーし、ここからどんどん逆転していくよ!!」
「「「「おー!!!」」」」
ライオンさんの掛け声に、私達の気もさらに引き締まった。
私達の合戦は、まだまだ続く。
この時の私達は、知る由もなかった。
今、この平和なジャパリパークに何が起こっているかを。
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