へらじか

私に戦いを申し込んできたフレンズさん、きっと、この人がヘラジカさんなのだろう。見るからに強そうなフレンズさんだ。

「あ〜、強そうな子を見つけると、いつもこうなんだよね〜。シマちゃん、一回だけでいいから戦ってあげてくれないかな?こうなったら、聞かないんだよね〜、ヘラジカは。」

ライオンさんは、少し呆れたように言った。

「じゃ、じゃあ、一回だけなら…」

私がそう言うと、

「よおし!!ならば、早速!今からやろう!!」

「ええ!?今からですか!?…って、えっ?ええええっ!?」

私の答えも聞かずに、ヘラジカさんは私をかついで戦場の台に向かった。




「ルールは簡単!この武器を使って、体につけた風船を割られるか、この台から落ちたら負けとする!」

そう言うと、ヘラジカさんは武器と風船を私に手渡した。武器は固くなく、当たってもそれほど痛くはなさそうで安心した。私は、風船を頭につけて、武器を構えた。ヘラジカさんも頭に風船をつけて構えている。

すると、ヘラジカさんは、

「私はヘラジカ!!森の王である!!いざ、勝負だ!!」

と、高らかに威勢良く言った。

「頑張るでござる!」

「ヘラジカ様、ファイトですわ!」

と、応援の声が周りから聞こえてきた。

私も負けじと、

「わ、私はボンゴのシマ!!精一杯頑張ります!!」

と、言った。

「シマちゃん!頑張れ!!」

「きみならたぶんいけるよ〜。がんば〜。」

キリンやライオンさんも、私を応援してくれた。私の気も、だいぶ軽くなった。




「それでは…ヘラジカ様対シマ…始め!!ですぅ!!」

審判のヤマさんの一声で、戦いは幕を開けた。




「はああああああぁぁぁぁぁ!!!」

ヘラジカさんは、声をあげながら私の方へと突進してきた。

「…よっ。」

私は、落ち着いてそれを回避した。

「おお〜、軽い身のこなしだね〜。あの子、やっぱりなかなかやるんじゃないかな?」

「当然よ!みずべちほーではでっかいイカリアンを倒しちゃったんだからね!!」

「へえ〜、すごいなあ!」

キリンとライオンさんが話しているのが少し聞こえてきた。私は、いいところを見せようと、ちょっと張り切った。

「てえい!!」

私は、軽く跳び上がって、ヘラジカさんの風船めがけて武器を振り下ろした。


ガツッ!!


けれど、簡単に防がれてしまった。

「ほお…太刀筋も悪くない。ライオン以外との戦いで久しぶりに楽しめそうだ。でやあっ!!」

ヘラジカさんはそう言うと、私を跳ね除けた。そのまま私は吹っ飛んで、体勢を崩した。

「はああああぁぁぁぁ!!!」

ヘラジカさんは、その隙を見逃さず、すぐさま突進してきた。最初の突進より、距離が近いため、これは避けられそうにない。


ガシィッ!!


ヘラジカさんの攻撃を受け止め、つばぜり合いの状態になった。

「ぐぎぎぎ……」

ヘラジカさんのパワーは思っていた何倍も強く、受け止めるので精一杯だった。

こういう時には…


「やった!うまくいった!!」


「おおー!!」

周りから歓声が上がり、

「なっ!?」

ヘラジカさんは突然のことに体勢を崩した。そう、一瞬だけ力を抜いてヘラジカさんの攻撃を地面に受け流したのだ。

私も、ヘラジカさんの隙を見逃さず、風船めがけて一線、武器を突き出した。

けれど、あと少しのところで頭を動かして回避されてしまった。

「いや、さっきのは凄かった。私もヒヤッとしてしまった。だが、私は今、とても楽しんでいる!シマ、お前はどうだ?」

「私も…結構楽しいです!!」

「そうか!ならばよかった!では、いくぞ!!」

「はい!!」

こうして、私とヘラジカさんの戦いは、武器の打ち合いに持ち込まれた。


バシッ!!ガシッ!!バンッ!!


辺りに武器が打たれ合う音が響き渡っていた。




「もう打ち合い始めてだいぶ経つわね…ほぼ互角…といったところかしら?」

「いや、よく見てみなよ。ヘラジカの方が若干押されている。シマちゃんは、ヘラジカにはパワーは及ばないけれど、その分、手数で攻めている。それで、少しずつ少しずつ、ヘラジカを押していっているんだよ。」

「本当だ…シマちゃん!!頑張れ〜!!」

キリンの応援の声が耳に入ってきた。それによって、私もさらに張り切って打ち続けた。

「くっ、押されてきてるな…このままでは、場外行きで負けだ。こうなったら…仕方がない。」

すると、ヘラジカさんは一瞬だけ目を瞑った。そして、目を開いたと思ったら…



パァン!!



私の風船が割れていた。ヘラジカさんは、いつのまにか私の背中に立っていた。目や手をキラキラと輝かせながら。私は、あまりの唐突さに、ポカンとするばかりだった。



「勝者!ヘラジカ様!!ですぅ!!」



周りからは拍手や歓声が上がった。負けてしまったけれど、とても清々しい気分だった。

「シマ!!とても楽しかったぞ!!私は大満足だ!!」

ヘラジカさんは、私に手を伸ばして満足そうに言った。

「はい!私もとても楽しかったです!!ありがとうございました!!」

私はそう言って、ヘラジカさんに手を差し出し、握手をした。周りからはさらに拍手が大きく上がった。



「お疲れ、シマちゃん!!惜しかったけれど、本当にすごかったよ!!」

「うんうん、ヘラジカに野生解放させられるフレンズなんて、そうそういないよ。」

キリンもライオンさんも、私のことを褒めてくれた。私は、少し誇らしげになった。すると、その時、

「シマ、君はとても強い!気に入った!私の軍に入らないか!?一緒にライオンと戦おう!!」

ヘラジカさんが私の目の前に来て言った。

「え、ええ!?」

私は、またまた唐突なことに戸惑いを隠せなかった。すると、

「ちょっと待った!私は、その合戦について話し合うために来たんだよ。話をつけさせてもらうよ、ヘラジカ。」

ライオンさんが、ヘラジカさんに立ち塞がるように言った。そして、

「シマちゃんは、私の軍で合戦に参加してもらうよ!!」

と、大きな声で言った。

「え、ええ?」

正直、私は少し戸惑った。まさか、私の取り合いが起こるなんて。

そんなことを考えているうちに、ライオンさんとヘラジカさんは、口論を始めた。

「シマちゃん、だいぶ人気者ね。」

「あはは…そうみたいだね。」

私とキリンはそんなことを話しながら、ヘラジカさんの部下のみなさんは、ハラハラしながらその光景を見ていた。




だいぶ長い間口論した結果、どうやら私はライオンさんの陣地につくことでまとまったらしい。

最初の方は、

「シマは強い!だから、私の方に来るべきだ!!」

「いや、それなら、尚更私の方だね!!」

などと、よくわからない理屈だったけれど、次第にライオンさんの意見が、

「今まで私の軍はヘラジカの軍より人数が少なくて不利だったじゃん!その埋め合わせでさ〜。」

と、合理性を持つようになった。一方、ヘラジカさんは、

「いや、やはり、シマは強いから、私の軍に入るべきだ!!」

と、尚も主張は変わらなかった。それにとどめを刺したのが、ライオンさんの、

「その強いシマちゃんと、また戦えるんだよ?よくない?」

という意見だった。すると、ヘラジカさんは、

「そうだな!強いフレンズと戦った方が面白い!強いシマは、そちらに行くべきだ!!」

と、すぐに容認した。今までの、不動の主張がそんなにあっさり変わってしまってよかったのでしょうか。

「ただ、その代わりに、キリンを私の軍に入れさせてもらおう!!キリンもとても強そうだからな!!」

ヘラジカさんは、続いて主張した。ライオンさんは、それをすぐに認めた。

「私については口論しないのね…なんかちょっと複雑な気分…だけど、こうなったら、全力でやってやるわ!!うおおお!!!」

キリンは、落ち込んだかと思うとすぐにやる気になっていた。



「じゃあ、また明日、いつもの場所でね〜。」

「そうだな!楽しみに待っているぞ!!」

「じゃあ、キリンもまた明日。」

「じゃあね、シマちゃん。」

その場は一旦解散になり、私とライオンさんは、元いたお城の方に戻った。

「さあ、明日まで時間がない!猛特訓といくよ!!」

ライオンさんが、腕を振り回しながら言った。

「はいっ!!」

私は、元気よく返事をした。

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