らいおん

ふと、あの夢がよみがえった。



恐ろしい獣が、私を襲っていた夢。



立派なたてがみを持った恐ろしい獣が、私を襲っていた夢。



いや、それは夢ではなく、過去に実際起こった出来事。その獣のフレンズを、目の前にして、私はそれを確信した。



ーーライオンーーそのフレンズが、今、目の前にいる。



本能的に、今にも逃げ出したい気分だ。けれど………



私は強くなった。激闘を乗り越え、イッカクさんに特訓をしてもらって。



私は逃げない。どんな困難からも。








「ーーいたたた…って、ここは!?」

気がつくと、私は見知らぬ部屋にいた。いや、硬い壁と、硬い棒で囲まれた何もないこの部屋に「いる」と言うよりはむしろ、「閉じ込められている」と言った方がいいような状況だった。


「ようやく起きたようだな。」


外から声が聞こえてきた。そこには、綺麗な角を持ったフレンズさんがいた。たしか、さっき見たような…


「ここはどこですか?なんで私はここにいるんですか?」

私はそのフレンズさんに尋ねた。

「やっぱり、何も覚えていないのか。確かに、あの感じは、なんていうか、動物の本能的な動きのようだったからな。お前は、私達の大将、ライオンに襲いかかったんだ。それで、とりおさえて、へいげんにある城の柵の中に一応閉じ込めている。」

そのフレンズさんは、状況を説明してくれた。どうやら、無意識のうちにライオンに攻撃してしまっていたようだ。

「それで…みなさんは怪我はないんですか?」

私は、恐る恐る聞いた。

「ああ、とりおさえた時にだいぶ抵抗されて少し危なかったけど、誰も怪我はしてないよ。ただ、お前の意識を落とすために、少し手荒なことはしてしまった。そこは許してくれ。」

そのフレンズさんは、みなさんの無事を教えてくれた。私は安心して、ほっと一息ついた。



「ーーオリックス、ご苦労。あとは私が話をつける。お前は下がれ。」


ドスのきいた重い声が、この空間内に響いた。すぐそこにいたフレンズオリックスさんは、その声のした方に軽く礼をしてから、すぐにいなくなってしまった。



「よお。確か…シマといったな。私がライオンだ。」



私の目の前、柵の外で凄まじい存在感を放つフレンズさんは、紛れもなくライオンだった。私は、その存在感に圧倒され、言葉を発することができず、ただ頷くことしかできなかった。


私が、こんなに恐ろしい存在に襲いかかることができていたなんて、信じられなかった。



「お前の仲間達から話は聞いた。どうやら、お前のフレンズ化前の姿を、私と同じ種類のライオンが食ってしまったかもしれない、ということらしいな。」

しばらくして、ライオンは、私に問いかけた。私は尚も、頷くことしかできなかった。

「なるほど…もしかしたら、お前を食ったライオンは、私かもしれない。」

ライオンは、少し考えてからその言葉を発した。私は、衝撃を覚えた。

「き、記憶があるんですか…?」

私は、思い切って質問をした。

「ああ、フレンズ化前の記憶は少しはある。だが、お前を食った記憶はない。いや、正確には、食ったかどうか確証が持てない。というのも、私は生きるため、近くのちほーを回ったりして多くの獣を食ってきた。その中に、もしかしたら、お前がいたのかもしれない、というだけだ。」

ライオンは、すぐに私の質問に答えた。私は、一度に膨大な量の情報が入ってきて、呆気にとられていた。


「さて、私からも一つ質問をさせてもらおう。お前は、私を、ライオンを恨んでいるか?」

少しして、ライオンが私に質問をした。


私は、どう答えていいのか、わからなかった。回答次第では、私の身に危険があるかも…


「わ、私は…」


震えた声で言葉を少しだけ発した。そして、少しした後、つばを飲み、意志を固めた。私の思っていることを、しっかりと言おうと。


「私は、本能的には恨んでいるかもしれません。いや、本能的に攻撃をしてしまったので、確実に恨んでいます。一時は命を落としたわけですから。ですが…フレンズ化した私としては、むしろ、感謝の気持ちがあるような気がします。」


私は、思ったことをきちんと言葉にできた。

「ほお…?」

ライオンは、思いもよらぬ回答に、面食らっている様子だった。

「私は、フレンズ化して、とても楽しい毎日を過ごせるようになりました。嬉しいこと、辛いこと、楽しいことを経験したり、たくさんの素晴らしいフレンズさんに出会えたり…それはきっと、ただの動物ボンゴだった時の、あらゆるものから逃げ隠れていたというような毎日からは想像もつかないようなものです。ですので…」

私は、そこで一旦、深呼吸をしてから、

「私は、全く恨んでなんていません。」

と、続けた。それを聞いた、ライオンはというと、

「…そうか。」

と、目を瞑り、何か考えていたようだった。



そのまま、しばらく時間が過ぎた時だった。


「ふああああぁぁぁぁ〜〜。よかったあ〜〜。」


とても気の抜けるような声がどこからか聞こえてきた。いや、その声の主は…目の前にいる、ライオンだった。

「いや〜、私もさ、急にきみに襲われた時は、ちょっとびっくりしたよ。それで、きみの仲間達から話聞いて、あ〜、やっちゃったな〜、って思っててさ。で、やっぱり、誰かから恨まれるってのはすごく怖いからさ、私も結構緊張しながら質問したんだよね〜。いや〜、ほんとよかったよ〜。」

ライオンは床に横になり、体を伸ばしながら言った。私は、ライオンの変貌ぶりに、対応しきれずにいた。

「あ、驚かせちゃったかな?私さ、一応、百獣の王だから、形上は怖そうに見せておくんだけど、すごく疲れるんだよね〜。」

呆気にとられている私を見て、ライオンはそう言った。

「…フフフッ。」

私は、ライオンが思っていたほど恐ろしくなく、そして、優しいフレンズだとわかって、そのギャップからか、込み上げてくる笑いが抑えられなかった。

「お〜、きみのこわばった顔もようやく緩んでくれたね。そうだ、そんな場所に閉じ込めちゃってて、めんごめんご〜。今出してあげるから、待っててね。」

ライオンはそう言って、何かをガチャガチャといじり始めた。しばらくすると、硬い棒の柵が開き、私は外に出ることができた。

「そうだ!せっかくだし、こう言うのもなんか変だけど、仲直りの印にいいところに案内してあげよう!」

ライオンはそう言うと、私を手招きして歩き始めた。今までの怖い雰囲気のライオンではなかったので、私も躊躇うことなくついていった。



ライオンさんは、どんどんこのお城の上の方へ向かっていっていた。今まで地下にいたから気がつかなかったけれど、どうやら、もう日は沈みかけているようだった。

「さ、着いたよ!」

ライオンさんは、部屋を開けて言った。お城の上の方にあるその部屋は、とても広く、外からの夕日がほどよく差し込んでいた。

「この部屋は…?」

私が聞くと、

「ふっふっふっ、それはね…やあっ!!」

ライオンさんは、私を床に押し倒した。


この状況、もしかして、私を食べるためにこの部屋に連れてきたとか…?


不安に駆られていると、ライオンさんは、私の上をどいて床に寝転がって、

「こーやってゴロゴロすると〜、とってもきもちいいんだよ〜。」

と、言った。私も、それを聞いて、不安を振り払って、ライオンさんのようにゴロゴロした。外からの少し温かい夕日と、なんだか癒される床の感じが合わさって、確かにとても気持ちよかった。



私達は、特に何かするでもなく、ただただゴロゴロしていた。

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