しょうたい②
「シマ。お前はーー」
「『ボンゴ』です!!」
博士さんは、私が「ボンゴ」という動物のフレンズであると言った。
「ボンゴ…聞いたことないわね。みんなはある?」
「私もないなあ。」
「名前は聞いたことあるけど、見たことはなかったわね。」
「私もゴマバラワシさんと同じです。なるほど、シマさんはそのボンゴだったのですね。」
キリンとブームスラングには聞きなれない名前だったらしい。当然、私もだ。
ボンゴ。それが私。
「それってどういう動物なんですか?」
私は博士さん達に聞いた。
「そう慌てるななのです。ちゃんと教えてやるのです。」
助手さんがそう言うと、博士さんが口を開いた。
「ボンゴ。レイヨウの動物ですね。お前達が会ったという、セーブルアンテロープのルプの仲間のようなものです。フレンズ化した姿を見たのは初めてですね、助手。」
「ですね、博士。さて、ボンゴの身体はそれなりの大型で、茶色の毛皮に覆われています。身体的特徴は、螺旋状に一回転した大きなツノ、身体に白いシマシマ模様があることです。」
「そして、ボンゴには別の名前があるのです。それは『森の魔術師』というものです。」
「ボンゴは耳がよく、周りに敵がやってくるといち早く感知し、音もなく逃げ去ることができるのです。それが魔法のように消えることから、そう名付けられているのです。」
「その名前から、何もないところからサンドスターによって木を生やすという、魔法のようなことが可能だったのでしょう。不思議なことではありますが、フレンズの中には名前を元に、なんだかよくわからないことをするような輩がいるので、まあありえないことではないでしょう。」
「今までフレンズ化が確認されていなかったのは、噴火の音を感知して安全なところに隠れていたためではないでしょうか。それが影響でサンドスターに触れることがなかったためフレンズ化はせず、さらに、他のフレンズや動物からも隠れていたため、存在の確認もあまりできていなかったようなのです。」
「と、まあ、こんな感じなのです。他に何か聞きたいことがあったら満腹の内に聞くのです。」
博士さんと助手さんの説明は一応は終わったようだった。そこで、私は少し気になったことを聞いてみた。
「一ついいですか?私、フレンズ化する前の記憶が一切ないんです。 それはどうしてなんでしょうか?」
すると、博士さんと助手さんは顔を見合わせた。そして、
「なるほど、記憶がないのですか。それでは、まずは、サーベルタイガーのことから教えていきます。」
最初に助手さんが口を開いた。
「なんで、サーベルタイガーさんのことからなんですか?」
私が聞くと、博士さんが口を開いた。
「慌てるななのです。順を追って説明するのですよ。そもそも、サーベルタイガーという動物は何万年も昔に絶滅している動物なのです。サーベルタイガーの目を見るのです。我々と違い、目に輝きが見られないのです。」
よく見てみると、確かに、サーベルタイガーさんの目には光がなかった。
「昔、パークにいた『ヒト』という賢い動物が、不思議な力で絶滅した動物のフレンズ化を成功させたのです。絶滅動物のフレンズの目に輝きが見られないのは、それが関係しているのではないでしょうか。」
「ヒトの力によって、フレンズ化された絶滅動物ですが、その動物的特徴は見られても、その元の動物の生きていた時の記憶は、復元はできなかったのです。記憶するための体の部分がなかったからです。」
「そんな訳でサーベルタイガーはフレンズ化前の記憶がなかったのです。ですが、シマ。お前は絶滅していない動物であるのに、記憶がないのはなぜなのでしょうか。」
「それは簡単です。シマ、お前も生きていないボンゴからフレンズ化したのです。」
博士さんがそう言ったとき、私の中で何かが繋がったような気がした。それは今はまだよくわからなかったけれど。
「フレンズ化するための条件は、生きている動物にサンドスターが当たる、抜けた動物の毛などの身体の一部だったものにサンドスターが当たる、動物だったものにサンドスターが当たるなどです。ほとんどのフレンズは生きた状態からではありますが、シマの場合は後者二つの可能性が高いです。」
「ボンゴの毛が抜けていて、それにサンドスターが当たったのでしょうか。それとも、寿命が訪れてしまったのか、用心深いボンゴですが、少し油断して肉食動物にやられてしまったのでしょうか。どのパターンかはわかりませんがね。」
この博士さんの言葉で、ようやく私の中で何が繋がったのかがわかった。
「そうだ…あの夢だ!!」
私は無意識の内に声を上げていた。
「夢って…もしかして、あの悪夢のこと…?」
「う、うん、多分そうだよ。」
キリンが私に心配そうに聞いてきたので、私はそれに答えた。
「悪夢…ですか。ちょっと聞かせるのです。もしかしたら、何かわかるかもしれないのです。ヘビクイワシ、書記官としてメモを取っておくのですよ。」
「メモの準備はいつでもできていますのでご安心を、助手。」
「さすがヘビクイワシなのです。さあ、シマ。少し思い出すのは辛いかもしれませんが、無理のない範囲で教えるのです。」
博士さんにそう言われ、私は少しずつ悪夢について話し始めた。
「確か…あれは私のうまれた場所、つまりはこのしんりんちほーだったと思います。私は、必死に走っていたんですが、急に視界が低くなって、その場に止まっていました。そのすぐ後に、とても怖いけものの姿が見えました。確か…顔の周りに立派な毛がたくさん生えていたような…そんな気がします。きっと、私を追いかけていたそのけものが、私に飛びかかったんでしょう。そして、そのけものは私に襲いかかってきて、体が痛くなって…!…そ、そこで夢は終わりです…この夢を二回だけ見ました。」
私は夢の内容を思い出してみんなに話した。
「なるほど…なかなか興味深いのです。これが本当だとしたら、シマの元は動物だったもの、の可能性が高いかもしれないですね。」
「そうですね、博士。もしかしたら、生きていた時の最期の記憶が体に痛みとして残っていて、それが夢としてフレンズ化した時に思い出されたのかもしれないですね。これはなかなか興味深いのです。」
「顔の周りに立派な毛がたくさん…これは、『ライオン』の仲間の特徴でありましょう。」
「そうですね、ヘビクイワシ。もしかしたら、ライオンに食べられてしまったのかもしれませんね。弱肉強食なのです。」
ヘビクイワシさんと博士さんは「ライオン」という動物の名前を発した。きっと、相当恐ろしい動物なんだろう。私は心の中でそう思った。
「さて、今日はもう夜も遅いので、泊まっていくのです。」
「ただし、我々は調べ物をするので、くれぐれも邪魔をしないようにするのです。としょかんではお静かに、なのです。ただし、ヘビクイワシとセンザンコウ、話のわかるお前達は後でちょっと来るのですよ。」
ひと段落した後、博士さんと助手さんはそう言って、としょかんの奥へさっさと行ってしまった。
「さて、じゃあ、ご飯も食べたし、シマちゃんが何のフレンズかわかったし、ギロギロの続き、見に行きましょうか!」
しばらくして、キリンが私とブームスラングに提案した。
「そういえば、話の途中だったね。」
「思い出したら気になってきちゃった。キリン、ブームスラング、早く行こう!」
私はそう言って、ギロギロのあるところへ向かいだした。
「あっ!シマちゃん、そんな急がなくてもいいじゃない!!」
「二人ともとしょかんではお静かに、ですよ〜!!」
二人はそう言って私を追いかけてきていた。
「…注意してる側もお静かにできていないけれど、それでいいの?」
「まあ、シマ君は旅の目的を果たせて、キリン君とブームスラング君は友達の喜びを受け止めて、気持ちが高揚しているのでありましょう。私達以外にフレンズがいるわけでもないですし、大目に見ておきましょう。」
「ありがとうございます、ヘビクイワシさん。それにしても、シマさん、前から明るかったですが、自分が何のフレンズかわかって、より一層明るくなった気がしますね。」
「そうね。今、とっても『いい顔』してるわ。ウフフ。」
私達はギロギロの置いてあるところに着き、早速キリンによる読み聞かせを再開した。気分が上がっている私達は、より一体となって楽しむことができた。そして、そんな楽しい時間はどんどん過ぎていき、私はいつの間にか眠ってしまっていた。
「こ…これは…事件よ!!!」
まだ日も昇っていない頃、私は、いや、としょかんの中で眠っていた全員がキリンの大きな声で飛び起きた。
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