とっくん
私達は、木陰で一緒にお昼ごはんを食べて休憩していた。木の中にサンドスターがあるせいか、みるみるうちに元気になっていっている気がした。
「木の中にあるだろうサンドスターが、ほんの少しずつ溢れているのかもしれない。そのおかげで、疲れが一気に回復していくようだな。さて…シマ、疲れは取れたか?そろそろ特訓を再開しよう。」
イッカクさんはそう言って立ち上がった。
「はい!大丈夫です!またお願いします!!」
私も続いて立ち上がった。私達は木陰から出て、向かい合った。
「よし!まずは、こうしようか…」
イッカクさんがそう言うと、特訓が始まった。
「筋肉がなければいい動きができても体がそれについていけない。まずは、筋トレで、腕立て伏せ腹筋背筋、それぞれ三十回ずつだ!」
「はい!!」
「体力があれば戦いが長引いても持ちこたえられる。木の周りをぐるっと大きく回って二十周だ!」
「は、はい!」
「お疲れ。一旦、木陰で休憩しよう。回復してきたら、また筋トレ三十回ずついこう。そうしたら、次のメニューに行くよ。」
「はあ、はあ…は、はい…!」
「武器をより強く、より速く振れるように、素振り百回だ。」
「はいぃ…!」
「防御も戦いにおいて大切なことだ。私の振りかざしたスピアーを防ぐんだ。」
「は、はい…!!」
「防げないような攻撃は無理に防ごうとせずに回避をする。私のスピアーの突きを回避していくんだ。」
「ぜえぜえ…はい…!」
「お疲れ、シマ。お前はよくやったよ。こんなに早く特訓メニューを終わらせるとは思っていなかった。」
「はあ…はあ…ありがとうございます…!」
私は、木陰で横になって息を切らしながら言った。
「まだ、日が落ちるまでだいぶ余裕があるな…よし、シマ、最後にもう一度、組手をしよう。それで私の特訓は終わりだ。夜になるまでに小屋に戻れれば大丈夫だろうから、万全の状態になれるように休んでいてくれ。ちゃんと起こすから寝ててもいいよ。」
「はい!!それでは…おやすみなさい!」
私はそう言うと、あっという間に眠りについた。
「シマ。そろそろ組手の時間だ。起きろ〜。」
イッカクさんの声で私は目が覚めた。
「う〜ん…!やっぱり、サンドスターの力ってすごいですね、ちょっと寝たらバッチリ元気になりましたよ!!」
私は一気に立ち上がって言った。
「よしよし。それじゃあ、今日一日でどれだけ成長したか、見せてもらおう!」
「お願いします!!」
私達はそれぞれの武器を構えて言った。
私達は、お互いの出方を伺うようにじっとしていた。そのまま時間がどんどん流れていった時、ついにイッカクさんが動いた。一直線に私に突きをいれてこようと向かってきた。私はそれを避け、横から攻撃しようとした。だけど、イッカクさんは突きをかわされた瞬間にすぐさま体勢を立て直し、隙を見せなかった。
「まだいくぞ!」
イッカクさんはそう言って、スピアーを振り下ろしてきた。
キィン!!
私は、それをなんとか防いだ。
「ぐぎぎ…」
イッカクさんの力は強く、このままだと押し負けてしまうように思えた。なら、むしろ一気に押し負けてしまおうと、私は一瞬、力を抜いた。それによって、スピアーは勢いよく地面を叩きつけた。
「えっ!?」
突然のことで、イッカクさんの重心がよろけて、隙が生まれた。そこに思い切りタックル!
「うあっ…!」
イッカクさんは吹っ飛んで、体勢を崩した。そこに追い打ちをかけるように私はとびかかって、武器を振り下ろした。けれど、あと少しのところで回避されてしまった。
「はあ、はあ…なかなか危なかったな…相当強くなったじゃないか。」
「本当ですか!?ありがとうございます!!でも、まだまだいきますよ!」
そう言って、私達は同時にそれぞれの方に向かって走り出した。
キィン!!キィン!!!
赤くなった空の下、何度も何度も、武器と武器がぶつかり合う音が鳴っていた。何度も何度も打ち込み、打ち込まれを繰り返していた。ただ、やはり、体力でも力でもイッカクさんには敵わないため、私は徐々にじりじりと押されてきていた。
「(このままじゃ負けちゃう…!次のチャンスで、いちかばちかの策に出よう…!)」
私は、そうしてイッカクさんの攻撃を受け続けていた。
「どうした、シマ?守っているだけでは勝てないぞ!ほら、横がガラ空きだ!」
イッカクさんがそう言って、スピアーを横から振ってきた。
ーー今だ!!
そう、私は意図的に横を隙だらけにしておいて、イッカクさんの横からの攻撃を誘発していた。私は武器を縦に持って攻撃を防いだ。そして、私は姿勢を低くして、イッカクさんにタックルをした。
「またタックルか…同じ手は通用しないよ!」
イッカクさんはそう言って身構えた。だけど、私の狙いはタックルそのものではない。私は、イッカクさんの足元に瞬時に武器を置き、イッカクさんの足を掴んだ。
「やああああああああぁぁぁ!!!」
そして、そのままイッカクさんを地面に投げつけた。
「ぐはっ…!くっ、しまった!」
イッカクさんは地面に投げつけられた衝撃でスピアーを手放してしまった。スピアーはカランと地面に転がった。私は、すぐに自分の武器を拾って、倒れているイッカクさんの上に飛び乗った。そして…
グサッ!!
私は勢いよく武器をイッカクさんの顔の横の地面に刺した。私達の間に静寂が訪れた。
しばらくして、
「いや、まいった。今回は私の負けだよ。一日でこんなに強くなるなんて…!シマ、よく頑張ったな。」
イッカクさんが微笑みながら言った。その言葉を聞いて、私は右手を強く握ってガッツポーズをして、
「はあ、はあ…ありがとうございました!!…っと、あららら?」
と、言ったと同時に、私は疲れでイッカクさんに覆いかぶさるように倒れた。
「うわっ!?シマ、ちょっと重いよ。もう。」
イッカクさんはそうは言いながらも、私を片手で軽く抱きしめ、片手で私の頭を撫でてくれた。イッカクさんはとても温かくて、私の心がどんどん落ち着いていくようだった。私とイッカクさんはきっと種族は違うんだろうけれど、それはまるで、自分のお母さんに包まれているような……
「さて、シマ。そろそろ暗くなってくるよ。夜になる前に、急いで帰ろう。」
「そうですね、帰りましょう!」
イッカクさんと私は立ち上がって言った。
私達は、二人で、来た道を歩いて帰った。
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