げきとう②

全員が自分の配置につくと、イカリアンはまず、触手に一番近い、私とキリンに触手を振り下ろした。動きの鈍いイカリアンだけど、触手の振り下ろす速度はそれなりに速い。私達は落ち着いて触手を回避した。

「「てやああああぁぁぁ!!!」」

振り下ろされた触手に、私とキリンは同時に攻撃をした。手応えがあった。

「真ん中がガラ空きです!」

私とキリンに注意が向けられているその隙に、オオセンザンコウさんが渾身の一撃を放った。


ドゴオォ!!!


大きな音が鳴り響き、イカリアンが怯んだ。すると、イカリアンはオオセンザンコウさんを脅威と見なしたのか、オオセンザンコウさんに二本の触手を振り下ろした。余裕を持ったオオセンザンコウさんは後ろに下がって回避した。その隙に、私やキリン、ゴマバラワシさんはとにかく攻撃をした。

「結構ダメージを与えられたんじゃない?もう少しじゃないかな?」

キリンが言うと、

「いえ、これだけの大きさだとまだまだ全然足りないでしょう。もっとたくさんダメージを与えないと…」

オオセンザンコウさんが言った。

「なんだか、気が遠くなりそうね…まあ、この調子なら、なんとかなりそうね!」

キリンは威勢良く言った。私もそのキリンの言葉に同調し、さらにやる気が出てきた気がした。

「このまま何事もなく戦いが進んでいけばいいのですが…とりあえず、今のまま、攻撃を交わしつつ攻撃を浴びせるのを繰り返していってください。」

オオセンザンコウさんが言った。



「はあ、はあ…そろそろ石を出してもいいんじゃないの…?」

キリンが疲れたような声で言った。たしかに、もうだいぶ長い間回避と攻撃を続けている。全員、疲れが溜まってきているはずだ。

少しして、イカリアンを見回していたゴマバラワシさんが、地上に降りてきた。そして、オオセンザンコウさんに、

「これだけやっても、まだ石らしきものはどこにも見当たらないわ。」

と、言った。

「なるほど…もしかしたら、手数で稼ぐよりも、一撃で多くのダメージを与える方がいいのかもしれません。今まで温存し続けていましたが、野生解放して一気に攻めるのがいいのかもしれませんね。みなさんも疲れてきていますし、一気に決めましょう。」

オオセンザンコウさんはそう言うと、目と尻尾をキラキラと輝かせた。そして、

「…砕きますっ!!」

と、言ってイカリアンに強烈な尻尾の攻撃を浴びせた。


グオオオオォォォ…!!


イカリアンが苦しそうな声をあげた。すると、イカリアンの後ろの、背丈のちょうど真ん中くらいの位置になにかが現れたのが見えた。

「もしかして、あれが石…?」

私が言うと、

「あの高さだと、私が行くのが良さそうね。すぐに割ってくるわ。」

と、ゴマバラワシさんが背中に回ろうとした。


その時だった。物凄い速さでイカリアンの二本の触手がオオセンザンコウさんに向かって行った。

「な…!?しまっ…くっ…!」

オオセンザンコウさんは触手に巻きつかれてしまった。

「オオセンザンコウさんっ!!オオセンザンコウをはなせっ!!」

私とキリンはイカリアンに攻撃を浴びせ続けた。だけど、イカリアンはオオセンザンコウさんをはなさなかった。

「くっ…はなしなさいっ…!ぁ…ああぁっ…!」

徐々にオオセンザンコウさんの目と尻尾の輝きが失われていき、どんどん力がなくなっていっているように見えた。逆にイカリアンの方はどんどん元気になっているようだった。

「石がまた塞がれていっているわ。くっ…ごめんなさい、私があと少し早く移動していたなら、石を割れていたわ。」

ゴマバラワシさんは、石のあったところを攻撃するも、塞がれてしまい、石を割ることはできなかった。

「そんなことより、今はオオセンザンコウさんが!!」

触手に巻きつかれたオオセンザンコウさんはぐったりとしていた。イカリアンはそのオオセンザンコウさんをパッとはなした。落ちてきたオオセンザンコウさんをキリンがギリギリで受け止めた。

「センザンコウ!!しっかりして!!」

キリンがイカリアンから離れながら、オオセンザンコウさんに呼びかけた。すると、しばらくして、

「す、すいません…どうやら、サンドスターをほとんど吸い取られてしまったようです…みなさん、早く逃げてくださ…い…」

オオセンザンコウさんはそう言って、気を失ってしまった。

「センザンコウ…」

キリンが悔しそうに震えながら言った。


しばらくして、キリンが、

「ゴマバラワシ!センザンコウをマーゲイのところまで運んであげて!」

と、言った。ゴマバラワシさんは、すぐにキリンの方に向かって行った。ゴマバラワシさんは軽く頷くと、オオセンザンコウさんを抱えて飛んで行った。


「センザンコウ、ごめんね。危なくなったら逃げるって約束だったけど、私はその約束を守ることはできない。危なくなってるのに、私は戦っちゃうから!!」

キリンがそう言うと、キリンの目にもキラキラと輝きが出てきた。

「シマちゃん、あなたはどうする?」

野生解放をしたキリンが私に問いかけた。

「私もまだ戦うよ!当たり前じゃない!!」

私もそう言って、武器を構えた。

「ちなみに、勝機はあるの?」

私がキリンに尋ねた。

「正直、ないわ。私が考えたのは、野生解放した私が攻撃してダメージを稼いで、現れた石をシマちゃんが割るっていうものよ。私一人で攻撃を全て避けながら攻撃できるかどうかにかかってるわね。」

キリンが顔に汗をつたわせながら言う。

「それに、石が現れたら、野生解放していてサンドスターを吸収しやすい私を、全力で捕まえに来るはずよ。その前に石を割ってもらえないとね。」

キリンが続けて言う。

「相当難しいね…でも、絶対やりとげなきゃ!!」

「ええ!!行くわよ!シマちゃん!!」

私達はお互い、なるべく自分の不安を出さないように言って、イカリアンに立ち向かった。


「くらえ!!ぺちんぺちん!!きーーっく!!!」

キリンは野生解放によって強くなった攻撃を浴びせ続けた。重い一撃を浴びせ続けられたイカリアンは、苦しそうにしていた。野生解放したキリンは身のこなしもいつもより軽くなり、イカリアンの怒涛の攻撃もなんとか避け続けていた。だけど、野生解放は消耗が激しいのだろう、キリンはだいぶ疲れていて、既に限界が来ていそうだった。

「キリン!無理しないで!!」

「このくらいへーきへーき!!あと少しで石が出てくれるはずよ!シマちゃんは準備万端にしていてね!!」

キリンは大丈夫そうに装って答えた。


私は本当に石が塞がる前に石を割ることができるのだろうか。それが不安だった。私は、高くジャンプするのに、それなりの助走が必要だ。それをしている間に石が塞がれてしまうのではないか。不安が心の中で渦巻いていた。


そう思っているうちにも、キリンは攻撃を浴びせ続けていた。そして、ついに、石が現れた

「シマちゃん!石が出てきたわ!!早く割って!!」

と、キリンが言った。そのキリンはさすがに疲れを隠しきれず、膝をついて動けなくなっていた。そして、そのキリンにイカリアンの触手が向かっているのが見えた。触手がキリンにたどり着くまでに、石を割ることはまず不可能だ。このままじゃ、キリンも…


ーー絶対に助けなきゃ!!


心の中の不安を一気に払い、私は心の中で強く思った。すると、体の底から力が湧き出てくるように思えた。武器の先が黄色く光り輝いている。


もしかして、これが野生解放…?でも、ここからどうすればいいんだろう…?

一瞬、そう思っていたが、野生の勘によるものなのか、どうすればいいのかすぐになんとなくわかった。


私は、その黄色く光り輝いている武器をキリンに向けた。そして、目を瞑り、心の中で「キリンを絶対に守る」と強く念じた。


「フフッ、私はここまでのようね…シマちゃん、あとは任せたわよ…って…何これええぇ!?」

キリンが叫び声をあげた。目を開けると、不思議なことに、キリンの目の前から大きな木が生えてきていた。それが盾になって、キリンはイカリアンの触手から守られた。イカリアンはキリンのサンドスターを何としてでも吸収したいのか、木に攻撃をし続けていた。

「これ、シマちゃんがやったの…?魔法みたいね…助かったわ…!」

キリンが驚きの声を漏らした。私自身も何が何だか理解していなかったけれど、イカリアンが木を攻撃し続けているその隙に、野生解放によってさらに速度を上げた私の足で助走をつけ、高くジャンプした。



「いっけえええええぇぇぇ!!!シマちゃああああぁぁん!!!」



キリンの大きな声があたりに響き渡った。



「はあああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」



私も大きな声をあげて、イカリアンの石に向かってとびかかった。

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