いかりあん
振りかざされた触手は、どんどんジェーンさんに迫っていく。
「ジェーン!!逃げて!!」
コウテイさんがジェーンさんに言った。けれど、腰の抜けたジェーンさんは動くことができなかった。
「きゃああああ!!!!」
ジェーンさんの叫びが響いた。と、同時に、
キーーン!!
と、何か堅い音が聞こえた。そこには、イッカクさんの姿があった。イッカクさんは、スピアーでセルリアンの触手を防いでいた。
「みんな、怪我はないか?危険だから下がっていてくれ。」
イッカクさんが、触手と競り合いながら言った。イッカクさんが触手と競り合っている隙に、ジェーンさんをコウテイさんが、フルルさんをイワビーさんが、私をキリンがセルリアンから遠ざけた。
「このままでは不利だな…一気に畳み掛ける!!」
イッカクさんがそう言うと、スピアーと目からキラキラした輝きが見られた。イッカクさんは競り合っていた触手を受け流し、跳び上がった。そして、得意の一突きを狙った。だが、スピアーはセルリアンの触手に弾かれて、ダメージにはならなかった。
「くっ、ならばもう一度ッ!!」
イッカクさんはもう一度、跳び上がった。
ーーそれは一瞬の出来事だった。イッカクさんの死角からの触手がイッカクさんに襲いかかった。
「しまっ…くっ!!」
触手を防げなかったイッカクさんは、思い切り叩きつけられた。床には、誇りのスピアーと、苦しそうにしているイッカクさんが横たわっていた。
「イッカクさん!!!!」
その場にいた全員があまりの衝撃的な光景に、一斉に叫びをあげた。あんなに強いイッカクさんが、こんなになってしまうなんて…もうだめだ…
そう思った時だった。
グオオオオオオォォォォォ!!!
外から恐ろしい声が聞こえてきた。
「なに!?またセルリアンが!?」
私が思わず言うと、
「いえ、多分マーゲイの声よ。マーゲイは、とても上手な声マネができるの。」
プリンセスさんが教えてくれた。セルリアンは、その恐ろしい声に反応して小屋から出て行った。
「ふう…みなさん大丈夫でしたか!?」
セルリアンが去ってから、マーゲイさんが壁の穴の方から部屋に入ってきて言った。
「オレ達は大丈夫なんだが…イッカクが…」
イワビーさんが言った。私達はイッカクさんに駆け寄った。
「わ、私も、大丈夫だ…心配しないで…くっ!」
イッカクさんは、周りに心配をかけさせまいと、スピアーをついて、なんとか立ち上がろうとした。けれど、ダメージは大きく、倒れかけそうになった。それをキリンとコウテイさんがとっさに支えた。
「やっぱり大丈夫じゃないじゃない。コウテイ、あのソファに運びましょう。」
「そうだね。少しでも楽なところで横になってもらおう。」
「みんな…すまない…」
そうして、イッカクさんはソファに運ばれた。ソファで横になると、安心したのか、すぐにスースーと寝息を立てて寝た。
「はあはあ…みなさん、大丈夫ですか!?大型セルリアンは!?」
しばらくして、オオセンザンコウさんが、息を切らして小屋に入ってきた。オオセンザンコウさんは、小屋の中を一通り見渡して、
「私がもっと速く移動できていれば、被害はもっと抑えられたかもしれない…申し訳が立ちません…」
と、悔しそうに言った。私達の間に少しの間、静寂がうまれた。
「ところで、センザンコウさん、どうしてあんなに大きなセルリアンが…?」
しばらくしてマーゲイさんが聞いた。
「少し長くなりますがーー」
そう言って、オオセンザンコウさんは話し始めた。
私とイッカクさんは、二人で一緒に警備をしていました。私が陸上を、イッカクさんが水中を、と。
警備を続けていくうちに、ある地点から急激にセルリアンの数が増えてきました。特に水中にです。ここら辺がセルリアンの住処なのかと思い、私達はセルリアンを倒しつつ進んでいきました。
しばらくして、イッカクさんが水から出てきて、
「水中にイカのような見た目の大型のセルリアンがいた。もしかしたら、ここ近辺のセルリアン共の親玉かもしれない。こいつを倒すために、まずは作戦を立てよう。」
と、言いました。
その後、太陽が沈みかけ始めセルリアンを陸上にあげて、二人で戦うと作戦を決めた時でした。水面が強く揺れました。水中を見ると、そのセルリアンは物凄い速度で水中を泳ぎ始めていたのです。
「しまった!この方向は、ライブ会場の方だ!!もし、
そう言って、イッカクさんは水に飛び込み、セルリアンを追いかけ始めたのです。それに続いて、私も走り始めました。
「ーーと、これで現在に至ります。」
「なるほど…水中を泳ぐイカのようなセルリアン…このちほーならではの厄介そうなセルリアンね…」
オオセンザンコウさんの話を聞いて、マーゲイさんが呟いた。そして、少しあとに、
「イカリアン!!」
と、声がした。フルルさんの声だ。
「だって、セルリアンって呼んでたら、他のセルリアンと違いがわからないじゃない?イカみたいなセルリアンだから、イカリアン!!」
フルルさんが続けて言う。
「フルル、お前なぁ…」
イワビーさんがツッコむ。ただ、そのおかげで、その場の緊迫したムードが少し和らいだ気がした。
「コホン…!それでですね、イカリアンの方ですが、今、ゴマバラワシさんが空から追跡してくれています。ゴマバラワシさんが帰ってきたら作戦を立てましょう。」
マーゲイさんが言う。私達は、ゴマバラワシさんが帰ってくるのを待つことにした。
しばらくして、ふと周りを見渡すと、なにやらジェーンさんが慌てているようだった。
「そ、そんな…!どこにもない…!」
「ジェーン、どうしたの?」
何かを探しているジェーンさんに、プリンセスさんが尋ねた。
「それが…私のマイクがどこにもないんです…!イカリアンが来るまでは持っていたはずなのに…」
ジェーンさんが涙ながらに言った。
「ふむふむ…もしかしたら、イカリアンに襲われたときに落としちゃって、イカリアンに持って行かれちゃったのかもしれないわね…」
ジェーンさんの言葉を聞いたキリンが推理を始めた。
「そんな…!あれは、初代ジェーンが使っていたということで、としょかんに置かれていたマイクを整備してもらった大切なものなのに…!どうしましょう…」
キリンの推理を聞いたジェーンさんは、さらに悲しんでしまっていた。
「なるほど、そんな大切なものは絶対に取り戻さなくてはなりませんね。いち早くイカリアンを討伐しなくては。安心してください、ジェーンさん。必ず、マイクは取り戻してきます。」
オオセンザンコウさんが、ジェーンさんを慰めた。
と、その時、誰かが小屋に入ってきた。
「ふう、あんなに速く飛んだから、見てるだけだったのにだいぶ疲れちゃったわね。」
いつも突然聞こえるその声。ゴマバラワシさんが帰ってきた。
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