ほらー
ゴマバラワシさんは、割と元気そうだったけれど、まだ少し熱もあり、空から落ちたときに打った背中がまだ少し痛むようだった。
「今日一日は、安静にしているようにね。安静にしていれば、きっと薬とサンドスター、それにフレンズ化に伴った自然治癒力のおかげで、明日には完治してると思うよ。」
オオカミさんがそう言うと、ゴマバラワシさんは元気に返事をした。その直後、
ぐう〜
どこからか気の抜けるような音が聞こえてきた。どうやら、キリンのお腹がその音を出していたらしい。
「あ、あはははは…ずっと起きてたら、お腹空いちゃって…さあ、朝ごはんにしましょう!!」
最初は少し恥ずかしがっていたけど、すぐにいつものキリンの調子に戻った。そのままキリンは部屋から出て行ったため、私達もゴマバラワシさんの部屋をあとにし、ロビーに向かった。
ロビーでみんなでごはんを食べ、私達は各自の部屋に戻った。とは言っても、特にすることもないため、隣のキリンの部屋に行った。
「なにかすることないかな?」
私が聞くと、
「そうね…じゃあ、また先生の部屋に遊びに行かない?もしかしたら、ギロギロを描いているところが見られるかもよ?」
キリンは少し考えてから言った。
「楽しそう!でも、それって迷惑じゃないのかな…?ギロギロをかいているってことは、お仕事中なわけだし…」
「多分、大丈夫よ!いつも見学させてくれるからね!締め切り?の日が近いと、部屋に入れてもらえないけど、その日が近い時はいつも余裕なさそうにしてるから、今日はきっと大丈夫よ。」
それなら、ちょっとだけ見学させてもらおうと思い、私達はオオカミさんの部屋に向かった。
オオカミさんは、昨日と同じように椅子に座り、紙に絵をかいていた。きっと、ギロギロをかいているのだろう。
「先生!ギロギロの制作現場、見学させていただきます!!」
「私もちょっと見学しても大丈夫でしょうか?」
「ああ、構わないよ。でも、なるべく集中したいから、大声で話したりとかはしないでね。」
オオカミさんはそう言うと、またギロギロをかきはじめた。
いつも冷静でかっこいいオオカミさんだけど、ギロギロをかいているときのオオカミさんは、さらにかっこよく見えた。
「一つのことにこんなに集中できるなんて、オオカミさんってすごいね。」
「そうよ。なんてったって、先生だからね!」
私達は、オオカミさんの邪魔にならないように小声で喋った。
「ふぅ、今日はこのくらいにしておこうかな。締め切りの満月の日まで全然余裕はあるし、このペースならちゃんと間に合いそうだからね。」
しばらくして、オオカミさんが体を伸ばしながら言った。
「お疲れ様です!先生!!」
「お疲れ様です。ギロギロをかいているときのオオカミさん、すごいかっこよかったです!」
「フフッ、ありがとう。」
オオカミさんは、私達の言葉にはにかんで答えた。
「さて、気分転換に…『ホラー探偵ギロギロ』の世界だけじゃなくて、『現実』でもホラーを体験させてあげようかな。」
オオカミさんがちょっと怖い笑みを浮かべて言った。
「ほ、ホラーな体験…?」
私が恐る恐る聞くと、
「なに、そんな怖がることはないよ。私が話をするだけさ。」
と、優しい笑みを浮かべてオオカミさんは言った。
「そ、それなら大丈夫かな。オオカミさんの話、聞いてみたいです。」
「よし、じゃあ、どんな話にしようかな…そうだ、こういうのはどうだい?」
オオカミさんは、そう言うと、話を始めた。
これは昔、ジャパリパークで起こったこと。とある森の中に、フレンズが集まる小屋があった。その小屋に集まったフレンズ達は群れのようなものを作り、その中にはリーダーのような存在のフレンズもいた。そこのフレンズ達は、いつもみんなで楽しく生活し、セルリアンに襲われるなどのピンチが訪れた時には、みんなで協力して戦った。
そんなある日、その群れの中から一人のフレンズが姿を消した。みんなで協力して探したが、ついにそのフレンズは見つかることはなかった。
日が経つにつれて、また一人、また一人と、どんどんフレンズが姿を消していった。何か危険を感じたリーダーは、群れを守るためにフレンズ全員を何者も干渉できないように、小屋の中に入れた。そして、リーダーは小屋の外から監視をすることにした。
次の日、小屋に入る者は誰もいなかったはずなのに、フレンズが一人消えた。フレンズ達は全員混乱し、怯えた。次は私が消えるんじゃないか、と。
群れを守るためにリーダーが何をやっても、フレンズは消えていく。そうして、ついには群れにいたフレンズは一人もいなくなってしまった。
どうすればいいのかわからなくなったリーダーは、立ち尽くしていた。と、その時、リーダーは何者かの気配を感じ取った。確実に何かが近づいてきているのはわかるのだけど、周りには誰もいない。だんだんと気配が近付いてきて、リーダーの近くにまで来た時、声が聞こえてきた。
「次は…お前だ!!」
「きゃあああああああああぁぁぁぁ!!!!」
私とキリンは、その話の最後でついに怖さに耐えられなくなって、叫び声をあげた。
「フフッ、いい顔頂きました。」
オオカミさんは微笑みながらそう言った。そして、しばらくして紙にかかれた私とキリンの怯えた顔を、私達に見せた。
「先生の話はやっぱり怖いです…それが面白くもあるんですがね!」
「私、まださっきの話が怖いです…これって、本当にあったことなんですか…?」
私がオオカミさんに聞くと、
「さあ、どうだろうね。フフッ。ただ、パークには『透明なセルリアン』というものがいるらしい。姿は見えなくても、そこに確実にいるんだ。フレンズに気付かれないように近付いて、そのままガブリ。そう、今も君たちの後ろに…!」
と、答えた。私達はおそるおそる後ろを見ると、誰かがいた。さっきの話から続けてのことだったので、私達はこれでもかというほどに驚き、声にならない悲鳴をあげた。
「だから、そこまで驚かなくてもいいじゃない。まあ、私もいい顔をいただいたわ。ウフフ。」
聞いたことのある声が聞こえた。よく見ると、そこにはゴマバラワシさんが満足そうに立っていた。
「ゴマバラワシ、安静にしてなきゃダメじゃないか。」
オオカミさんがゴマバラワシさんにそう注意すると、
「ごめんなさいね。すごくいい悲鳴が聞こえて、つい。でも、あなたの采配のおかげでいい顔が見られたわ。ありがとうね。あ、そうだわ、部屋に戻る前にお礼にいいことを教えてあげるわね。」
「ん、なんだい?」
オオカミさんが、少し期待しながら聞いた。すると、ゴマバラワシさんは、
「最近、この辺りは曇っていたり雨が降ったりしていたから、あなた、月をよく見られてないわよね。私は、よくスカイダイビングで雲の上まで行ってたからわかるんだけどね。」
ニヤニヤしながら言った。
「じゃあ、ちょっと質問するわね。最後に見た月の形は覚えてるかしら?」
ゴマバラワシさんがオオカミさんに聞く。
「すこし膨らんだ『上弦の月』だね。」
と、オオカミさん。
「最後に月を見たのはいつかしら?」
ゴマバラワシさん。
「いつって、それは、4日前くらいに…あれ…?あっ…」
いつも冷静で余裕の表情を見せているオオカミさんに、焦りの色が見えた。
「気付いたかしら?満月の日は、もう『明後日』よ。オオカミは月が好きなんじゃないかと思って、教えておいてあげたわ。」
ゴマバラワシさんはそう言った。
「ゴマバラワシ、教えてくれてありがとう。そして、よくわかったよ。『現実の方がホラー』だということを、ね…ねえ、キリン、シマ…」
オオカミさんは下を向きながらそう言った。私達は揃って、
「なんでしょう?」
と、答えた。
「そ、その…マンガを、描くのを手伝ってくれない、か…?私一人では…あ、明日までに、終わらせられ、な…」
そこには、今にも泣き出しそうなオオカミさんがいた。
それを見た私とキリンは、無言で顔を見合わせ、
「オオカミさん…私達…絵をかけるかどうかもわかりませんが…」
「手伝えることは、手伝います!」
と言った。オオカミさんは、ついに泣き出して、
「あ゛り゛か゛と゛う゛!゛!゛」
と言って、ベソをかきながら必死でギロギロをかき始めた。
「いい顔頂きました。フフッ。それじゃあ、私は部屋で安静にしてるわね。」
そう言って、ゴマバラワシさんは満足そうに部屋を出て行った。
その後、私達は休むことなく夜まで手伝った。
作家って大変なんだな。
私は心の中でそう思った。
ところで、ゴマバラワシさんは、いつから話を聞いていたんだろう?
もしかしたら、彼女が一番ホラーなのかもしれない。
今、ちょうどかかれているホラー探偵ギロギロ、一ページごとに作画が変わっているということで、一時期パーク中で話題になるというのはまた別の話。
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