きしょう



「…ハッ!!」



私は飛び起きた。私しかいないその部屋には、外から聞こえる雨の音と、私の大きな息の音だけが響いていた。体が熱を持っていて、汗で体がぐっしょりと濡れていた。

何か怖い夢を見ていたような気がする。もしかしたら、昨日の昼に見ていた夢と同じものかもしれないが、さっき見ていたはずのその夢を私は全く思い出せなかった。

私は、とりあえず、荒らげていた息を落ち着かせて、外の景色を見た。雨雲のせいでだいぶ空は暗いけど、本当に真っ暗な夜と比べると少し明るいように思えたから、朝だということはわかった。もうこれ以上寝られそうにもなかったから、私は部屋を出てロビーに向かった。


まだロビーには誰もいなくて、ここでも雨の音だけが響いていた。みんなが起きてくるまで、何をしてようかと思っていた時、そういえばゴマバラワシさんの看病をしているキリンなら起きているかも、と思い、その部屋へと向かった。私は、部屋の戸をトントンと叩いてから、部屋の中に入った。そこには、椅子に座ったキリンと、スースーと寝息を立てているゴマバラワシさんがいた。

「誰?…って、シマちゃんじゃない、おはよう。だいぶ早く起きたわね。まだ寝てた方がいいんじゃないかしら?」

「おはよう、キリン。さっき起きて、そのままもう寝られなさそうだったから…」

私は、そのままロビーから持ってきた椅子をキリンの隣に置いて、そこに座った。

「ゴマバラワシさんの具合、どう?」

「特に問題はなさそうよ。苦しそうにすることはなく、ずっとこんな調子で寝てたわ。」

「よかった。無事でなによりだね。」

私は、ほっと息をついた。その私を見ていたキリンが、

「あれ、汗で体ぐしょぐしょじゃない!そんなに暑かったのかしら?」

と、尋ねてきた。私は、少し間をおいてから、

「…いや、ちょっとね…また怖い夢を見た気がするんだ。どんな夢だったかはやっぱり思い出せないんだけど、多分、昨日のお昼に見た夢と同じだと思うの。それでさっき飛び起きたの。」

と、答えた。それを聞いたキリンは、私の頭を撫でながら、

「怖かったろうね。でも、大丈夫よ!私がずっと側にいてあげるからね!!」

と、大きな声で言った。私は、その言葉で、心の中にあった得体の知れない恐怖が消えた気がした。嬉しさや安心感など、色々な気持ちが私の心の中でぐるぐると回っていた。

「ありがとう、キリン…うわあああああん!!」

私は、なぜかわからないけれど、涙を流していた。キリンは私を自分の体の方に引き寄せて、抱きかかえるようにしてくれた。


しばらくして、ようやく落ち着き始めた時に、キリンが、

「はい、タオルよ。ゴマバラワシのタオルを変えるためにたくさんあるから、これで顔ふきなさい。あと、体ふいてあげるわ。汗かきっぱなしだと、風邪ひいちゃうからね。」

と言って、二つのタオルを手に取った。片方を私に渡して、キリンは私の体をふき始めた。私も涙なり鼻水なりでぐしょぐしょの顔をふいた。


「…よし!綺麗になったわね。」

キリンがそう言って、タオルを片付けた。

「何から何まで…本当にありがとう。」

「いいのよ!私たち、友達じゃない!困った時はお互い様よ!!」

キリンがいつものように自信ありげにそう言ったその時だった。

「ウフフ。仲がいいようで、微笑ましいわね。」

と、知らない声が聞こえてきた。私達はとても驚いて、二人して椅子から転げ落ちた。どしん!という音が響き渡った。

「あら、そこまで驚かなくてもいいんじゃない?」

また、さっきと同じ声が聞こえてきた。私は起き上がって、声のした方を見ると、ゴマバラワシさんが目を開けていた。

「あなた達が看病してくれてたのかしら?ありがとうね。私はゴマバラワシよ。」

ゴマバラワシさんは、自己紹介をしたから、私も、

「私はなんのフレンズかはまだわかりませんが、シマといいます。よろしくお願いします。一晩中、看病してくれてたのが、このキリンです。」

まだ転んでいるキリンについても紹介した。

「いててて…そうね、私が名探偵アミメキリンよ!」

キリンが体を起こしながら付け加えるように言った。

「ちなみにあなた、いつから起きていたの?」

キリンが聞くと、ゴマバラワシさんは、上の方を向いて、

「んーっと…あなたが部屋に入ってきたあたりかしらね。ほら、起きたっていうのを言い出すタイミングがなくてね。」

と、私の方を見て言った。

「ほ、ほとんど最初から起きてたんじゃない!!」

キリンがそうツッコむと、ゴマバラワシさんはクスクスと笑っていた。私は、一連の話の流れを聞かれていたことを知って、恥ずかしさで顔が赤くなっていく感じがした。それを見たゴマバラワシさんが、

「あなた、さっきからすごくいい表情しててかわいいわね。そういう表情を見てるの、嫌いじゃないわよ。ウフフ…!」

と、言った。私は、体中の毛が逆立ったような気がした。

「な、なにやら、怖い趣味を持っているようね…」

キリンが小声でそう呟いた。


「どうした?さっき、なにか大きな音が聞こえたけど…あ、ゴマバラワシ、体調はどうだい?」

しばらくして、さっきの椅子から転げ落ちた音を聞いて、オオカミさんとアリツカゲラさんがやって来た。

「あら、タイリクオオカミにアリツカゲラね。ん〜、まだ少し体調は優れないかしらね。でも、この子達にいいもの見せてもらってたら、元気は出たかしらね。ウフフ。」

ゴマバラワシさんは私たちの方を向いてそう言った。

「それにしても、結構体調悪かったのに、ここまで一晩でよくなったなんて、びっくりだわ。もしかして、バビルサの薬の力かしら?彼女の薬は本当によく効くからね。」

ゴマバラワシさんは、続けてそう言う。どうやら、バビルサさんは、どうやらすごいフレンズらしい。

「ちなみに、どうして体調を悪くされたんですか?」

アリツカゲラさんがふと聞くと、ゴマバラワシさんは、

「昨日はね、ここら辺でずっとスカイダイビングしてたの。そしたら、雨が降ってきたんだけど、雨の中のスカイダイビングも結構楽しくてね。雨が強くなってもずっとやってたら、だんだん体が冷えて、一気に体調が悪くなってたわ。それで、意識が薄れていく中で、ここが目について、そのまま空から落下していったってところまでは覚えてるわね。」

と、答えた。


私は、ゴマバラワシさんってちょっと変わったフレンズさんだな、と思った。

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