たびだち
体がひどく疲れていた。
私とキリンは、昨日のお昼前から普通なら寝るような時間まで、ずっとオオカミさんのギロギロをかくお手伝いをしていた。私達二人は精一杯頑張ったけれど、キリンは消灯の時間を少し過ぎたあたりで白目をむいて倒れ、私もその後に机に顔を伏せて寝てしまっていたらしい。
目を覚ますとそこには、目の下にくまをつくり、見るからに疲れているオオカミさんの姿と、ベッドで横になっているキリンの姿があった。
「あ、ああ、シマか。おはよう、今日は、いいあ、朝だね…」
冷静に振舞おうとしているオオカミさんの声は震えていた。
「オオカミさん、あとどのくらいで終わりそうなんですか?その、休まないとオオカミさんが危ないんじゃ…」
「だ、大丈夫さ。あと少し、で終わるから…終わってから、一気に休むんだ…今の、こ、この集中力を、大事にしたくて、ね。」
オオカミさんは遠い目をしながら言った。たしかに、机の上に残っている紙は、あと2,3枚ほどだった。
「じゃあ、私も手伝います!その方が早く休めると思うので!」
「ほ、ほんとうか!?昨日あれだけ手伝ってもらって、既に大分申し訳が立たないが…1ページ、頼んだ!!」
表情も声も少し明るくなったオオカミさんは、かくスピードを早めた。私もそれに続いて拙いながらもかき始めた。
「最後の一コマを…!!ついに終わったぞ!!」
オオカミさんの喜びの声が聞こえたのは、お昼頃だった。私の中にも、達成感と安心感がうまれていた。
「う〜ん…ハッ!!ここはどこ!?私は何を!?」
オオカミさんの大きな声でキリンがようやく起きた。
「ここはオオカミさんの部屋よ。オオカミさんのお手伝い中に疲れで気を失ってずっと倒れてたのよ。で、ギロギロは今、かき終えたよ!」
疲れているオオカミさんに代わって、状況をキリンに説明した。
「ああ、よかったですね、先生!!」
キリンも明るい声で言った。
「ただ、オオカミさん、一つ質問いいですか?明日が締め切りなのに、なんでこんなに早く終わらせたんですか?」
私がふと疑問に思ったことを発した。すると、今度はキリンがオオカミさんの代わりに、
「それはね、ギロギロを取りに来るフレンズがいるんだけど、締め切り間近になると、唐突にやって来るの。それで、そのフレンズがすごく厳しくてね、まだ描き終えてないと、すごく急かしてくるのよね。それが先生は嫌で、締め切りより少し早く終わらせるのを心がけているのよ。」
と、説明した。やっぱり、作家って大変なんだなぁと、改めて思った。
「とりあえず、少し休ませてくれ。キリン、アリツさんからじゃぱりまんをもらってきてくれないか?」
「りょうかいです!!」
キリンはそう言うと、ものすごい速さで部屋を出て行って、ものすごい速さで部屋に戻ってきた。
「お待たせしました!じゃぱりまんです!」
「ありがとう、キリン。それじゃあ、仕事終わりのじゃぱりまん、いただきます。」
オオカミさんがそう言って、じゃぱりまんに口をつけた。私達も、いただきますをしてから、じゃぱりまんを口にした。じゃぱりまんが疲れた体に染み渡っていくような感じがした。
「仕事終わりのじゃぱりまんは格別なんだ。そう思うだろ?」
オオカミさんが私に問いかけた。
「はい!」
私はじゃぱりまんで取り戻した元気を思い切り出して答えた。
その後、オオカミさんはもう一つじゃぱりまんを食べたあと、
「もし、ギロギロを取りに来たフレンズがいたら、渡しといてくれないか?それと、二人が手伝ったことは絶対にバレないようにね。」
と、私達に頼んだあと、ベッドに横になってぐっすりと寝始めた。私もまだ少し疲れていたから寝ようかなと思った時だった。オオカミさんの部屋の入り口が開いて、見知らぬフレンズの姿が見えた。
「タイリクオオカミ先生はいらっしゃいますか?」
そのフレンズは私達に聞いた。
「すぐそこにいますが、今は寝ています。あなたは?」
と、私が聞き返すと、
「これは失礼。わたくしはヘビクイワシでございます。タイリクオオカミ先生の担当をしております。」
と、ヘビクイワシさんは答えた。
「これ、ギロギロです。ヘビクイワシさんが来たら渡すように言われたので、どうぞ。」
キリンがギロギロが入った袋をヘビクイワシさんに渡した。ヘビクイワシさんが、紙をパラパラと見始めた。
「ところどころ、作画が変わっているように見えますが、これはどういうことでしょうか?」
ヘビクイワシさんが指摘してきた。私達はギクリとしたけど、
「き、きっと、一晩中描いていたからです!!」
「そ、そうです!疲れが表れていたんです!」
と、なんとか私達が手伝ったことを悟られないようにした。ヘビクイワシさんは、少し不信そうにしていたけど、
「まあ、これはこれで味が出ていいでしょう。タイリクオオカミ先生にはお疲れ様でしたと、伝えておいてください。それでは、失礼しました。」
ヘビクイワシさんはそう言ってろっじを出て行った。私達は安心したからか、体が床に崩れた。
ふと、外を見ると、日が照っていた。「雨、やっと止んだみたいだね。」
「そうね、このまま明日も晴れてたら、きっと土も乾いて歩きやすくなっているんじゃないかしら。明日、としょかんに向かわない?」
キリンがそう提案した。
「そうだね、なるべく早くなんのフレンズか知りたいし、外に出て色々なフレンズさんにも会ってみたいからね!明日、行こう!」
私はパアッとしたように言った。
「よし、そうと決まったら、ちゃんと昨日と今日の疲れをなくさないとね!今日はゆっくり休んでいるといいよ。」
「そうだね。じゃあ、私は部屋に戻るよ。」
「わかったわ。私は、ちょっと先生の様子を見ているわね。」
こうして、私は長い間いたオオカミさんの部屋から出て、自分の部屋に向かった。
私は部屋につくと、すぐにベッドに横になった。
とても疲れた。
夜ご飯まで少し寝ようかなと思った時だった。私の目に、「みはらし」の部屋ならではのとても綺麗な「みはらし」が映った。生えている木の葉っぱには、降り続けていた雨の雫が日の光できらめき、空は今まで雲で覆われていたのが嘘であるかのように、どこまでも青い色が広がっていた。
私は明日から、この綺麗な世界に飛び出していけるのか。
そう思うと、期待が高まり、寝たくても寝られなくなってしまっていた。
外の世界はどんなことが待っているのだろうとあれこれ考えているうちに日は沈み出し、いつのまにか夜になっていた。私はロビーへと向かった。そこには、今、ろっじにいるフレンズがみんな集まっていた。
「オオカミさんもゴマバラワシさんも大丈夫なんですか?」
私が聞くと、
「ああ、ゆっくり寝たからね。とは言っても、まだ疲れは残ってるから、夕飯を食べたらすぐにまた寝るよ。それと、ギロギロを渡してくれてありがとう。助かったよ。」
「私もおかげさまで完全に治ったわ。これで自由にしていられるわね。ウフフ。」
と、二人は答えた。私はほっと一息つき、椅子に座ってじゃぱりまんを食べた。その間、みんなに、明日としょかんに向かうことを話した。みんなは、なんのフレンズかわかるといいねと、応援してくれた。
ご飯を食べ終えて、みんなにおやすみを言って、私は部屋に戻った。みはらしがよく見えるベランダに出ると、夜の風がとても心地よく感じられた。空を見上げると、そこにはあと少しで真ん丸になりそうな月が明るく私を照らしていた。
私は、外の世界に少し触れながらリラックスしていると、急に眠くなってきた。明日になれば、広い広い外の世界へ踏み出す。その期待を心の中にしまいこみ、私はベッドに横になって眠りについた。
朝になった。今日の目覚めはとてもよかった。ぐっすりと眠れたために、昨日までの疲れは消え、元気いっぱいの状態だった。
朝ご飯を食べ、としょかんへ向かう準備を終えた私は、ろっじの外に出た。太陽の光が、私を歓迎してくれているように思えた。
少し遅れて、キリン、アリツカゲラさん、オオカミさん、ゴマバラワシさんも外に出てきた。
「シマちゃん、準備はいいわね?としょかんまで行くわよー!!」
キリンが元気よく言った。
「みなさん、お世話になりました。」
私は、見送りにきてくれた三人にお礼を言った。
「こちらこそ、ギロギロを描くのを手伝ってくれてありがとう。本当に助かったよ。」
「なんのフレンズかわかったら、私達に教えに来てくださいね!そして、ぜひまたろっじありつかにご宿泊を!!」
「ウフフ。私もまたあなた達のいい顔、見させてもらいたいわね。」
一人一人から言葉をもらった。
この素敵なろっじに、必ずまた来よう。
私はそう思い、
「じゃあ、キリン、行こう!!」
と、言った。私は歩きながら、姿が見え見えなくなるまでずっと、見送りをしてくれた三人に手を振った。
この時は、まだ気付いていなかった。私達を追う影があったことを。
この時は、まだ気付いていなかった。長い冒険が始まろうとしていることを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます