13 ただの○○ではなく
この世界の事を説明した場面の部分は、あえて省かせてもらう。
マキナの反応。
クスクスと笑いながら、楽しそうな口調で話した。
「へぇー。面白くなりそうだぞー。お兄ちゃんもそう思うだろー?」
その兄であるナクラ先輩の反応。
あれは、そうだな。俺の説明力が足りなかったのかな。
「お、おう。……マキナ、後でもう一度兄ちゃんに教えてくれ」
「分かったぞー」
先生の反応。
比較的冷静に見えた。笑顔が若干作り物めいているように見えたので、やはり先生も疲れているのだろうな。ハルカさん曰く、俺が特殊らしいし。
「そうですか。レベル上げとはまた、ゲーム的な展開ですね」
微笑を浮かべていたが、あれは疲れている人の顔だ。
そして、イユの反応。
いつも以上に小さな声だったので、異様に聞き取りづらかった。
「こ、――から、――――ん―ぅ――ら、―ん―――ぃ、と」
言葉の長さからすると「こ、これから、大変だろうから、がんばらないと」かな。
声の小ささに比例しないくらいのやる気の入れようで、何度もガッツポーズを決めていた。
ふむ。俺も職業欄に賢者というのがあるわけだし、やる気を出さなければ。
すぐ帰還する方法は無いようだし、女王が言っていた世界の危機とやらを回避させなければならないのだろう。この世界は助かる、ついでに俺達は世界を救ったという優越感に浸れる。悪くない話、かもな。
何にせよこちらに呼ばれた意味が何かしらあるはず。今後はそれを調べてみますか。
「あ」
自室の前に、見覚えのある人影があった。
「お帰りなさいませ。首尾はいかがでしょう?」
「首尾? ああ、多分、明日か明後日には行けると思うぞ」
「承知いたしました」
深々と頭を下げて、真っ白なフワフワの髪を揺らすルディ。石鹸の香りが漂ってきて、改めて好感の持てる人間なのだと理解した。
魔族とは、人間なのだと。
「昼食はいかがなさいますか?」
「それはどういう意味での『いかが』だ?」
「昼食はどちらでお摂りになりますでしょうか、という意味ですね」
身を起こしてからはにかんで、ルディは肩をすくめた。
わざわざ「どこで」って聞くという事は、必ずしもあの食堂で食べるわけじゃないのか。そうだな、今日は俺以外全員疲れているし、自由なメンバーで食べたいかもな。
あの豪華な食堂で食べるのも少し新鮮な感覚だったが、そんなの俺じゃない奴では緊張で感じる余裕なんて無いだろうし。
「俺はこの部屋で食べるよ。というか、ここ、俺の部屋って事で良いよな?」
「はい。この世界にいらっしゃる間、自由にお使いください。では、後ほどこの部屋に食事を運ばせますので、12時前にはこの部屋にいらっしゃるようお願い申し上げます」
「12時ね。時計が無いから分からないが……」
「ああ、ステータスの、名前の横に出ておりますよ」
「あ、マジで?」
俺はステータス画面を開いてみる。最初に出てきた名前。左に寄っている名前の横に、AM10:57と表示されている。
ステータス、便利だわー。
「あと1時間か……何しようかな」
「よろしければ、自室近辺をご案内いたしますが」
「お、助かる。じゃあ、近くに図書室とかある?」
「はい。ございますよ。この部屋からほど近いですね。歩いて10分もかからないかと」
歩いて10分って意外に遠いな。
「じゃあそこまでの道をまず教えてくれ。ペース配分は任せるよ」
「承知いたしました」
それからルディに連れられて、近場のトイレや鏡の間、記憶の間に、衣装室などなど、大半は説明されても分からないような名前の部屋の前を通り過ぎていく。
そしてゆっくりしたために15分歩いた先に、重厚な造りの扉が目の前に現れた。
「こちらの図書室は、魔族の領地中からそれはもう様々な書物が集まっております。一般閲覧が可能であるフロアもございますが、この扉から繋がっているフロアは、階段を下りなければ一般閲覧禁止となっております」
「それは見ても良いのか?」
「はい。閲覧禁止の理由は、この階が既に王族の私有地である事ですから。皆様は王族の客人です。見せない理由はございません」
「なるほど」
俺は重厚な造りの扉に手を添える。金属、ではないな。木だろうか。感触はコーティングで幾らでも変えられるから、判別が付かない。
力を入れて押してみる。すると、案外軽くてすぐ開いてくれた。ただ、扉の大きさが俺を3人合わせたほどで、幅もそれなり。両開きの片方しか開けていないのだが、開けた時の風が凄い。
古本特有のかび臭さは無いのだが、とにかくホコリっぽいのだ。
そんな事を気にせずずかずか入っていくルディだが、小さく咳をしているな。
そっとしておこう。
「えー、棚によってどのような本が置かれているのかが変わるのですが、プレートに分類が書かれていますので……あ、文字は読めますでしょうか」
「文字? ああ、大丈夫っぽい。俺がよく知る漢字で書かれているな。えー、魔法、物理系魔法学、間接的魔法学……何が違うのかがさっぱりだ」
「読めるのでしたら問題ありませんね。あ、かなり奥の方になりますが、途中から、本棚が赤くなります。赤い本棚は結界が張られていて、本には触れないようになっていますので」
「結界ね。あれか、禁忌の魔法書とかか」
「理由は様々ですが……。プライベート、タブー、エンシェント、アカシック、シーカー、トルトゥーラなどの項目に分かれているようですね。これ以外にもありますよ」
プライベート、は、日記とかだろうな。タブーは禁忌っていう意味だし、俺が言った禁忌の魔法書とかがありそうだ。エンシェントは古代って意味があったけど、アカシック、は、歴史だったようなきがするし、内容が被っているような。
あとシーカー。探求者っていう意味だったと思うけど、だから何だって話だよ。細心の魔法研究とかそういう感じだろうか?
最後のだけ言葉の意味も分からないな。後で先生にでも聞けば分かるだろうか。
それにしても、会話はともかく文字の解読とかをしなくて済んだな。
異世界召喚のお決まりで、文字が読めないだとか言語が違うだとかがある。それが俺達に当てはまらないようで良かった。
「自由に入って良いのか?」
「はい。あ、ですが、夜は控えた方がよろしいかと」
「夜に何かあるのか?」
「ええと、その……夜は出ますから」
「……出る、とは」
そっと耳打ちするような小声でルディは話す。
出る、ってあれか。
英語で言う頭文字が『G』のあれか。
肝試しに欠かせないやつ。
要するに、
「幽霊か」
「あ、ハイ」
「元の世界なら幽霊なんて見た事無いからバカにするが、ここは異世界だからな。もしかしてモンスターの類か。それなら視覚化してもおかしくない」
「あぁその。良いゴースト達ですよ。昔から此処にいるご老人って感じです。言動はアレですが……。というか、お節介すぎてちょっと困るというか、そんな感じですから」
疲れた顔をしているのは見間違いじゃないと思う。あれだ。そのお節介とやらを焼かれすぎて、ウンザリしている顔だ。
それにしても、幽霊か。肝試しでも見た覚えが無いが、こちらの世界では割と身近な存在らしい。
そういあ、魔法の世界にありがちな、亜人とか獣人とかっていうのを見かけない。まだこの世界の住人には数人しか会っていないからまだ分からないけど、やっぱ、いるのかな。何たって魔法があるわけだし、そういう人に近いけど人族じゃない、みたいな奴が居てもおかしくない。
魔族はいるけど、人族と違う部分は無いし。
「なあ、魔族って全員お前や女王みたいな、人族と同じような容姿なのか?」
「違いますね」
即答された。
「人族に最も近い容姿を持つのは王族です。その他は人族をベースに、動物や幻獣などを掛け合わせたような容姿だって、陛下が仰っていました」
「けど、ルディは見た目、完全に人族だろ」
「え、あぁ……」
何かを思い出した様子で、ルディは帽子を留めていたらしいピンを外す。
何をしているのやら。と、思った。
しかし、ルディが帽子を脱いだ瞬間、淡い金色の光が帽子の中から溢れ、ゆっくりと空気が抜けるような音が聞こえた。
「僕だって、人族じゃありません。魔族です」
そう言った彼の頭には、新雪よりも真っ白で、触ったらとても柔らかそうな耳があった。
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